1月のお題は…『ボケを使った写真表現』

新納翔 師範

ボケ味がいいと普段使っているこの「ボケ」と言う言葉、英語でなんというかご存知でしょうか?実はそのまま「BOKEH」なんですね。日本の写真文化と違ってあまり海外ではボケについて語ることが少なかったようで90年代あたりから海外でも使われるようになりました。

今回のお題はボケ、アウトフォーカスを使った作品です。前ボケを利用して奥行きを出す、またはどこにもピントが合わせないことから生まれるイメージ、ボケから広がる世界は無限大です。既成概念にとらわれることなく、自分色を出した表現作品を待っています。

さあ、ボケてボケてボケまくれ!

 

新納翔 師範からの1月のお題は『ボケを使った写真表現』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

1月の挑戦者その1:yukkieさん(他流挑戦者)

私が小学生のころ、ここは海でした。
その後埋め立てが進み現在のところに人口の砂浜として復活しました。
かつての砂浜はもう少し北にあり、夏になれば海水浴によく行ったものです。
この写真を撮った後で子供のころの海水浴のことを思い出していました。

 

yukkie
兵庫県在住、男性。退職後の趣味として始めてもう7年ほどになります。FUJIFILM X-E3とFUJIFILM XF55-200mm F3.5-4.8 R LM OISで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

大胆に配置されたアウトフォーカスの人物、画面奥に向かって走り去る少女のシルエットと作者の画面構成力の高さが伺えます。この二者にはどういう関連性があるのかと見る側に考えさせるドラマチックな一枚。どこかノスタルジックに感じるのは、やや彩度が低い色調のせいでもあるのでしょうが、「私が小学生のころ、ここは海でした」という作者のコメントからも分かるように、懐かしむ心情が無意識に写り込んでいるからなのかもしれません。

いい写真だからこそ、本当に細かい点が気になってきてしまいます。その分採点も厳しくなってしまうのは皮肉にも作者のレベルがゆえ。この写真の面白さは交錯する二者の関係性と、シルエットになっている画面中央の人物の輪郭だと思います。

実際のシチュエーションは分かりませんが、おそらく海を眺めている男性を前ボケに置き、その奥で砂浜をかける少女にフォーカスしたカットだと思います。うつむき加減でうっすら分かる口と鼻がとても印象的。頭には帽子を被っているように見えます。この単純な黒いシルエットではないというところがとても面白いので、もう少しそれが分かるようなレタッチをするべきだったと思います。レタッチ例では、部分的にトーンカーブをあげ、周囲となじませるためにそこだけノイズを追加しております。

両者の関連性でいえば、画面奥に向かう少女の向き、男性が画面左に過ぎ去ろうとしている向きが交錯しているように感じました。こういう写真内に存在する「向き」に配慮することで構図が格段と良くなります。この場合、男性を中央から少しだけずらしてあげることでより去りゆくイメージが強調されたでしょう。若干海の色がくすんで見えるので、ぱきっとコントラストを上げて水の質感を表現しても良かったと思います。まだまだいい写真を撮れるポテンシャルがあるからこそ、今回は厳し目の採点になりました。次回も期待しております。

せっかく美しい写真なのにJPEG撮影では勿体ないです。2022年、RAWデータの方が高画質だなんていう、つまらないことは言いません。レタッチの際のbit数の違いもありますが、RAWデータで撮ることの最大の恩恵は、現像ソフトの進化によって生成されるデータが年々向上していくことにあります。2001年発売のEOS-1D、筆者の感覚からすると当時はA4にプリントするのがやっとという感じでしたが、今はPhotoshopの「スーパー解像度」などのおかげもあり2メートルくらいに伸ばせる画質になりました。デジタル写真の奥深さを追求するために是非RAWで撮影してみてください。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

1月の挑戦者その2:Takahasuさん(他流挑戦者)

傘についた雨粒が街灯に照らされて銀河のようでした。

Takahasu
東京都在住、男性。主にスナップと風景を撮っています。FUJIFILM X-Pro3とFUJIFILM XF18mm F1.4 R LM WRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

初めに見た時、天文写真のようで一体なにを撮ったものなのかさっぱり分かりませんでしたがコメントを見て納得。傘に落ちた雨粒が街灯に照らされてそこに小宇宙が出来たわけですね。まずは作者の観察眼の鋭さに拍手。

常にいい写真を撮ろうと身構えてなくても、絶好の被写体を見つけた瞬間だけ写真家になればいいのだと思っております。ただその為には無意識のアンテナを貼っておくことが必要。それだけTakahasuさんは写真が体の一部になっているということなのでしょう。

開放付近の絞りで撮ったことで雨粒のきらめきがほどよくぼけ、まるで惑星のようです。傘についた水滴から銀河に結びつくとは新たな発見、こういう写眼センスは写真だけから学ぶのではなく様々なアートと触れることで養われるもの。フジのX-Pro3は使ったことがないのですが、傘の布地がくっきり見てとれるところなんか実際の解像度以上に「見かけの解像感」が良いですね。ちょっと欲しくなってしまいました。

一点だけ気になったところがあります。上記のようにとてもいい作品なのに、見ていてどこか落ち着かないところがありました。図解のように銀河と見れば赤いラインのように画面は四分割されます。黒いシャドー部は宇宙の闇、4つに分けたそれぞれのシャドー部が占める割合をもう少しだけ微調整すれば完璧な作品でした。

特に右下には黒の余白があるのに、左上には無いというのが見ていて違和感を覚えさせる原因だと思います。左上が詰まっているせいで銀河の広がりがそこで閉ざされてしまっているのです。レタッチ例のように思い切ってアスペクト比を変えてしまうのも手だと思います。これは16:9にして調整してみました。

いやぁ本当に惜しい。色調など他の部分では言うことなしの作品だったので、他流試合の一回目にしていきなり免許皆伝となるところでした。

それと欲を言うのであればプリントをすることを考えると、Exifデータ的にあと2段シャッタースピードを落としてISO感度を1600あたりにしておくと良かったです。A3あたりからそこらの差が顕著に出てくるので、撮影時にそういった点まで配慮するといいでしょう。大きなサイズのアウトプットを意識すると色々な所に気が回るようになります。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※クリックで大きく表示されます



1月の挑戦者その3:あしろさん

娘とかくれんぼをしている時に撮影。
娘の「見つけてもらえるかな?」という少し不安げな気持ちがボケに現れたような気がしました。

あしろ
奈良県在住、女性。2児の母兼会社員。普段はK-S2を使用しています。最近8歳の長男にPENTAX K100Dを譲ったので一緒に写真で遊べる日を楽しみにしています。PENTAX K-S2とHD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR REで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

直球勝負の前ボケを活かしたポートレイト。瞬間を切り撮るという写真表現において、自分のハッとした気持ちに素直になれることは非常に素晴らしいことだと思います。作品に仕上げようと試行錯誤しているうちに頭でっかちな写真になってはいけません。自分の見つけた発見・驚きなどを素直に切り撮る、写真を長くやっていくとこれが出来なくなるのですよね。

娘さんとかくれんぼしている時にふとレンズを向けた1カット。親としての愛情が写真に溢れていて、見ていてとても気持ちの良い作品です。写真は写っているものが全てではなく、そこから見える被写体との関係性や撮影者の距離感などがその奥から伝わってくるものです。そうしたものを受け取り手が感じられるような写真は、写っているもの以上の世界を見せてくれるように感じます。

この写真に講釈を垂れるのはちょっと無粋な気もいたしますが、どうやったらより良い写真(プリント)になるか考えてみましょう。

まず気になるのは前ボケとハイライトのせいで主役である娘さんの存在感が薄くなってしまっていること。レタッチで明るさを部分的に変化させてメリハリをつけてより見せたいものを明確にしましょう。さらに1/10秒というスローシャッターで切った為にやや被写体ブレしているので目にシャープネスを加えると目立たなくなります。おそらく咄嗟に撮ったので設定を変える余裕が無かったのかもしれませんが、ここを瞬時に絞りをもう少し開けてISO感度400あたりにさっと出来ていればより良くなったと思います。

画面全体が奥行き感のないフラットな調子になっているので、手前の明るさを落としてみましょう。

Yukkieさんの講評でRAWデータの意義について述べましたが、こういうハイライトが多い写真はRAWデータが活きるシチュエーションです。JPEGが8bitであるのに対し、RAWだと16bit処理でレタッチができます。これはとんでもない差。それだけ階調が豊かになればハイライトの粘りも変わってきます。

フィルム時代のカラープリントは、暗室でのコントロールなのでかなり経験が要りましたがデジタルは楽になりました。撮影後の後処理にも力を注いでみてください。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

師範より1月前半の総評

他流試合ということで今までにないバリュエーションの作品が増えたように思います。他メーカーの方はもちろんのこと、PENTAXユーザーの方も新しい試みにチャレンジされているように感じました。

道場においては撮影されたデータだけを見ることになります。ここで申し上げたいのは、しっかりとした後処理(レタッチ)のスキルがあればメーカーによる色調の差はないということです。どこどこのメーカーが良いというのはあくまで撮って出しの話。しっかりとレタッチすることができれば、撮影してきたものはレタッチするための素材にすぎません。センサーサイズやその特性によるデータの差異はありますが、ここでの投稿に関していえばささいな差です。

写真文化を盛り上げるためにメーカーの壁を乗り越えて、本道場がより多くの方の糧となることを望んでおります。

記念品のお届けについて
yukkieさん、Takahasuさんには「免許中伝ミニ木札」、あしろさんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!

記念品は2月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

その他の投稿作品をご紹介

最後に、1月前半のお題の投稿作品の一部をご紹介させていただきます。
こちらは師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んで掲載しております。

〔クリックで写真が大きくなります〕

以降のお題へのご投稿もお待ちしています!

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