こんにちは

カメラオタクの商品企画で写真マニアな大久保(以下O)です。

6月からリコーフォトアカデミーで写真に関するゼミナールが始まります(>>ゼミナール講座)。
私は神奈川在住なので東京の講座に参加します(申し込み済みです!)。
写真はもちろんカメラにも詳しく、カメラ誌やweb媒体に記事を掲載されておられる赤城耕一さん(>>K-3 MarkIIIのインプレッション)、
写真評論家であらゆる写真ジャンルに詳しいタカザワケンジさん(>>タカザワさんインタビュー記事)、
現在PENTAX道場で細かな講評をしていただいている新納翔さん(>>5月前半の講評)、
と大変個性豊かな講師陣で選ぶのに大変迷ってしまいました。
もし、申し込みされた方がおられましたら、お会いするかもしれませんね。

さて、前回、原向日葵さん(以下H)にリコーイメージング東京で開催された「ROUTE1」のコンセプトとなぜ写真を始めたかについて伺いました(>>ロードフォト「ROUTE 1」:前編)。
出発地と目的地の点の間の行程の体験を写真で表現しています。文章なら紀行文、映画だとロードムービー、写真ならばロードフォトと呼んでも差し支えないと思います。

「ROUTE1」は現在リコーイメージングスクエア大阪で開催されています(>>展覧会概要)。ですが、東京で開催された「ROUTE1」とは異なると思います。
それは「ROUTE1」はインスタレーションの手法がとらえているので全く同じにはならないのです。なぜ同じにならないか掘り下げていきたいと思います。

原向日葵

 

 

 

 

 

 

 

 

1996年 島根県生まれ
2020年 東京工芸大学写真学科卒業
2020年 第44回フォックス・タルボット賞 佳作
2020年 第22回1wall展 審査員奨励賞 増田玲 選
2020年 小学館スクウェア写真事業部入社
>>HIMAWARI HARA HP

写真展
2019年 東京工芸大学写真学科スペシャル2019 (ソニーイメージングギャラリー銀座)
2020年 第44回フォックス・タルボット賞受賞作品展(写大ギャラリー)
2020年 卒業制作選抜展2020(ニコンプラザ新宿)
2020年 写真と本 / 本と写真 (AXIS ギャラリー)

<インスタレーション>

原さんは展示方法にインスタレーションを採用しています。インスタレーションとはある空間に様々なオブジェを配し、空間全体を作品として表現する手法で現代美術でよくつかわれる手法です。
日本だと草間彌生が有名で、オノ・ヨーコもインスタレーションをよく使います。
今回の展覧会の場合、ギャラリーという空間に写真をオブジェとして配置することになります。
リコーイメージングスクエア東京では会場を二つに分け、旅の中盤のエリアでインスタレーションを行いました。

[中盤エリア入り口から見た様子。入ってすぐに森の写真が見える。]

左奥の壁には小さな写真が横一列に並んでいて、立て看板のような写真(以下、立体写真と呼びます)が森の写真が左に残りは右奥にランダムに置かれているように見えます。
右奥の壁に展示されている写真から後半に入ります。一見写真の配置が無造作に置かれているように見えますが、どのような意図で写真の位置を決めたのか伺ってみました。

O:中盤の最初に目に入る写真はこの森の写真ですね。立体写真の中で1枚だけ離れておいてあります。
H:見に来ていただいた方がこのエリアに入って、どう見ていくかの誘導を考えないといけないと思い、まず最初に立体写真を置くことを考えました。
この立体写真がちょっと手前に置かれていたりすると、立体写真と壁の小さな写真の交互の導線を作るのが難しくなるので、部屋に入った時の印象付けとして入り口に大きい立体写真を置きました。
この、森の写真を見てから奥の小さな写真に近寄った時に、森の写真の裏に書かれた写真にまつわるエピソードが見えるようになっています。
また、奥の写真が大きいと満足してしまって近くに寄らなくなってしまい、森の写真のコメントに気が付かない。そのためにも写真サイズを小さくする必要がありました。つまり、小さいと写真に近づくのでこの立体写真にはコメントがあると気が付くことができるのです。
小さい写真を一列に並べたのは一本の道を歩いたことを意識してもらうためです。奥の小さい壁の写真を一通り見終わった後に、振り返ってもらうと背の低い立体写真のエピソードだけが見えるようになっています。

[振り返ると立体写真のエピソードが見える。]

H:立体写真の裏のエピソードがあるという事を強調するためにこういった、入り口からは写真が見えて、終わりからはエピソードが見えるという配置にしました。
エピソードを読みに板に近づいて、もう一度、表にある写真を見るといった感じに足を動かしてもらいたいのです。中盤エリアは旅が楽しくなり加速して行った体験を再現しています。つまり1列に並べた写真を歩いてもらい、立体写真の周りを歩いてもらいたいのです。
立体写真は見るためにしゃがむであるとか、文字と写真を比べるであるとか足を動かすようになっています。ライティングもエピソードを追体験してほしいので、立体写真やその裏のエピソードを見るときには、わざと見ている人の影が視界に入るようにセッティングしてあります。
O:日本橋から大阪までの旅で原さんが感じたことを追体験できるような空間になっていて、空間全体が作品になっているわけですね。写真を壁にかけて並べて展示する事でもよい気はしますが、なぜインスタレーションの形式を採用したのでしょうか?
H:実際に展覧会に足を運んでもらうのが展覧会を行う意味だと思っています。来ていただいて写真を見るだけではなく、体を動かしていただくことで体験をしてもらいたいのです。極端なことを言えば、ただ写真を見せるだけなら写真集だけでよいと思っています。
展覧会をするからには展覧会に参加してもらって、帰っていただきたい。だからインスタレーションのような展示形式を取りました。

<表現するという事>

今回の「ROUTE 1」は原さんにとって初めての個展です。初めてでなぜここまで写真による表現に関してこだわっているのか伺ってみました。

O:インスタレーションを知ったきっかけを教えてもらえますか?
H:大学生の時、先生が見に行くべき展覧会を授業で教えてくれました。展覧会のレポートを書きなさいともいわれました。3~4年になると写真が使われる現代美術の展示も勧めてくれるようになり、展示の表現の幅がとても広いことを学びました。
O:具体的にどんな展覧会を見に行かれたのですか?
H:見せ方を意識するようになったのはトーマス・ルフ(*1)の展覧会でした。2mくらいのとても大きいポートレート写真を見たのですが、それまでは写真のサイズに固定概念があったのですが、あそこまで大きい写真を見ると違う意味が出てくるのがわかりました。その時から、写真の見せ方はとても大切だということを勉強しました。
また、2019年4月の写真美術館で開催された志賀理恵子さんのヒューマンスプリング(*2)も勉強になりました。額に入れて壁に展示する写真展をよく見に行っていたのですが、ヒューマンスプリングは写真が立体物になっていました。これにはとても驚きました。部屋の隅にカーブミラーも置いてあり、そこから見るとまた違う見え方ができるのですが、そういった仕掛けがそこかしこにあり、とても衝撃的でした。それ以降、見せ方をとても意識して作品を創るようになりました。
:志賀理恵子さんの展示のお手伝いをされたと聞きましたが、実際展示を構成されている様子はどうでしたか?
H:2019年8月に東川町国際写真フェスティバルがありました。ボランティアで2週間滞在して、受賞者の方の展示設営のお手伝いをしたのですが、その時に志賀さんの担当になれました。
その時の写真は立体物ではなく、8mほどある横断幕のような光沢のある布に写真がプリントされていました。
まず、写真を紙にプリントすることにこだわられていないことが衝撃的でした。
志賀さんの展示設営で思ったのは、それまで展示は緻密に写真の位置を指定するのが正解だと思っていたのですが、志賀さんは具体的な指示をせず、「こういう風にしたいんだよね」といったイメージを持ってこらえて、現場での調整を臨機応変にされていました。
実際に現場の空間に行ったときに変更できるように、自分で心の準備をすることが、空間を作ることにおいて大事なのだと学びました。
ただ、展示のフリーランスの方に聞いたのですが、人によっては事前に緻密に位置を決める方もいるし様々なようです。展示に対する固定された考え方を、いい意味で壊していかないといけないという意識の変換になりました。

原さんは5/20からリコーイメージングスクエア大阪で「ROUTE 1」の展示を行っています。
東京と大阪ではギャラリーの空間の形が異なります。インスタレーションを行う原さんにとって東京で行った展示とは別の「作品」になるはずです。
また、東京はROUTE1の出発地でしたが、大阪はゴールです。展示の意味合いも変わるかもしれないと思いました。

*1:トーマス・ルフは写真を使った現代美術のアーティスト。2016年に開催されたトーマス・ルフの回顧展では、大きなポートレート写真のシリーズ「Porträts」が公開された(>>トーマス・ルフ展)。
*2:志賀理恵子さんは写真を額に入れるスタイルではなく、立体物として会場に置くインスタレーションを採用している(>>ヒューマンスプリング)。

<大阪でのROUTE 1>

O:大阪ではどのような展覧会になるのでしょうか?東京では最後にあった大阪の写真の意味付けが変わったりしないでしょうか?
H:どのように展示するかはまだ決めていません。ストーリー的には写真の並びは同じで板の配置や数を変えようと思っています。特にカギになる「しまむらの写真」をどこに置こうか考えています。

[店の名前が似ていても全く別の店であることで地域による特色があることに気が付くきっかけになった「しまむらの写真」]

 

H:大阪の会場では最後の壁が斜めになっています。見る順番が反対からも見られるようにできないか考えています。つまり大阪の方からも見ることができるという事を強調できないかなと思っています。

今回のインタビューは大阪の展覧会の設営前に伺っています。
実際の大阪の展示の様子はこちらです。

東京での展示とは異なっています。東京では東京と大阪の写真は最初の部屋で同時に見ることができましたが大阪では「しまむらの写真」を境に分かれています。
実際に見に行かれたら、原さんに東京での展示との違いを聞いてみると面白いかもしれません。
原さんの展示は、参加型であり、実際に見に行って体験しないと作品を鑑賞したとは言えません。
コロナ対策をしたうえで見に来られてはいかがでしょうか。大変なコロナ禍の最中ですが、だからこそ文化の灯を消すわけにはいかないと考えることもできると思います。

また、原さんは写真を大学で学びました。冒頭でご紹介した写真を学べるゼミナールですがオンラインでも用意しています(>>オンラインゼミナール講座)。
学び始めるのは何歳からでもできますし、写真はだれでも始めることができる表現です。
ぜひいかがでしょうか。

リコーイメージングスクエア東京/大阪では、新型コロナウィルス感染症拡大予防対策の一環として、ご来館いただく際以下のご協力をお願い致します。
・入口にて検温させていただきます。(非接触型の体温計を使用いたします)
※37.5℃以上の方のご入場はお断りをさせていただきます。予めご了承ください。
・手の消毒を行ってからの入場にご協力をお願い致します。
・来館時には必ずマスクの着用をお願い致します。
・過度に混み合わないよう、状況により入場制限をさせていただく場合がございますのでご了承ください。
・場内では、お客様同士のソーシャルディスタンス(約2m)の確保にご協力ください。

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