こんにちは
写真集をまた買ってしまい、本棚が足らなくて困っている商品企画の大久保です(以下O)。
ちなみに防湿庫からはカメラやレンズが溢れています。そして、10月にはアートブックフェアがありますね。。。
さて、9/30からリコーイメージングスクエア大阪で、増田貴大さん(以下M)の「侘車」が開催されます。
こちらは先日、リコーイメージング東京で開催された会場の様子です。
もう走ることのない、ひっそりとたたずむ廃車の写真なのですが、写真の枚数が多いです。
70台ほど撮影したそうで、そのうち60枚が東京では展示されました。見ごたえは十分あります。
増田さんの「侘車」は静かに朽ちていく車たちの写真なのですが、昼や夜であったり、引いたり寄ったりと撮り方は一様ではなく、廃車たちの個性を感じさせます。
一つのモチーフで様々な種類の個体を多数撮る写真家としては、ベッヒャー夫妻が有名です。その手法はタイポロジーと呼ばれ、モチーフの違いを明確にするため色情報を排除したモノクロにして、撮影条件をできるだけ変えずに、まるでカタログ的に撮られています(>>wiki art)。
増田さんはモチーフは廃車で一貫しているのですが、撮影条件はまちまちです。タイポロジーは情緒が全くありませんが、増田さんの廃車からは確かに「侘び」を感じます。
増田貴大
1980年 大阪生まれ
2003年 宝塚大学 造形学部美術学科 洋画コース卒業
2005年 MIO写真奨励賞2005審査員特別賞受賞
2014年 MIO PHOTO OSAKA 2014 ポートフォリオレビュー選考【選考:菅谷富夫】
2015年 ミオフォトアワードプライムにて個展開催
2016年 第11回名取洋之助写真賞奨励賞受賞
2016年 コニカミノルタ・フォトプレミオ2016入賞
2017年 ビジュアルアーツギャラリーにて写真展開催
2017年 写真集「NOZOMI」出版 (赤々舎)
2018年 中国平遙国際写真祭にて作品を出品
2019年 gallery chuffにて写真展開催
<極彩色>
増田さんは大学では写真ではなく、絵画を専攻されました。なぜ、絵画ではなく写真を始められたのかが気になるところです。
O:写真を目指したきっかけを教えていただけますか?
M:大学では絵を描いていました。卒業後も絵を描く方に進もうと思っていました。
同じクラスに写真に凝っている同級生がいました。彼は写真は面白いと、撮った写真を見せてくれました。そこから写真に興味を持ち引き込まれたのです。
当時フィルムの一眼レフを持っていて、撮った写真を見せたところ「うまいじゃん」といわれました。写真を褒められて、さらに興味が増してもっとやってみようと思ったのです。
主に街のスナップを白黒で撮って、自分で現像して暗室でプリントしていました。科は違うのですが写真科の先生に教えてもらっていました。写真学科に入り浸っていました(笑)。
O:洋画コースに進んでおられたと。どのような絵が好きだったんですか?
M:抽象画が好きでした。一般の方が見たら首をかしげるような絵が好きです。自己満足な面はありますが(笑)。
極彩色なあり得ない色を寄せ集めたような感じ。動物をモチーフにしたような感じで、どういう空間にいるか想像させるチベット密教の曼陀羅みたいな絵が好きです。
増田さんが描いた絵画をご紹介します。
確かに色遣いが派手で、まるでマヤの文様に見えます。動物というモチーフを様々な表現で描いておられます。今回の「侘車」にも通ずる原点と思いました。
<NOZOMI>
ビジュアルアーツ専門学校主催のフォトアワードというコンペがあります。このフォトアワードで大賞に選ばれると写真集を出版できるのですが、2017年に増田さんは見事満場一致で大賞に選ばれて写真集「NOZOMI」を作られました(>>NOZOMI)。「侘車」よりも前に発表された作品です。
増田さんが写真展会場にも「NOZOMI」を持ってこられてたので拝見したのですが、かなり衝撃的でした。これは、会場でもぜひ見ていただきたいです。
新幹線の車窓から撮影した写真なのですが、風景ではなく人を撮影しています。
高速で移動中の車内からの流し撮りです。ほぼ動かない被写体に対する流し撮りであまり見たことのない表現です。
その写真からは、被写体のほんの一瞬の時間をとても意識させてくれます。被写体前後の像は流れており、その流れが写った人の人生の流れを意識させてくれます。
まるで走馬灯を見るような、不思議な感覚を覚える写真たちです。
M:「NOZOMI」を出すまでブランクがありました。仕事が忙しくて写真を撮る余裕がなくなってしまったのです。2012年ころまで写真からは離れていました。
その2012年に新幹線を使った配達の仕事に携わりました。広島~大阪間を日曜日以外2往復/日することになったのです。
その仕事の合間に撮り始めました。片道1時間半で毎日。定期券を頂いていたので休日も撮影に行きました。1日で3往復したこともあります。
毎日往復していたので、広島~大阪間の何処に何ががあるかはわかります。例えばこの建築現場で鉄骨が積んである場所などは、人がいるか毎日確認していました。
O:学生時代はスナップでしたが、「NOZOMI」では望遠レンズを使ってますね。
M:カメラはPENTAX K-r(※1)でレンズはsmc PENTAX-DA 50-200mm F4-5.6 ED WR(※2)を使いました。ちょうど50~75mmくらいの焦点距離で撮影していました。ずっと新幹線の座席でカメラを構えていました。窓に張り付いて被写体が来た瞬間にカメラを振るので、長いレンズだと取り回しが大変でこの写真は撮れなかったと思います。ピントが合わない時もあり、何度も撮り直しました。このカメラとレンズは小さくてすごく撮影がしやすかったです。パソコンを持っていない頃はテレビにSDカードを入れてブレの確認をしていました。
写真を見てくださった吉川直哉先生(※3)から、この写真は写真集の方が合うだろうとアドバイスをいただきました。そして、写真集出版が副賞にある、ビジュアルアーツのフォトアワードを紹介いただいて、そこに写真を出したのです。あれよあれよという間に、審査が通って写真集を出すことになりました。
「NOZOMI」のモチーフは「人」です。「NOZOMI」では撮影方法を一つの手法で統一してあり、その写真からは様々な人の生活が見えてきます。
増田さんからは一つのテーマを決めたら、一日に新幹線3往復するなど徹底的に撮り込む姿勢がうかがえます。
※1:2010年発売のデジタル一眼レフ(>>製品ページ)。重さは598g。増田さんはブログを更新するためフューチャーフォンに画像を転送するための赤外線通信機能を搭載したK-rを選択したそうです。
※2:50-200mm(76.5-307mm相当)の小型望遠レンズ(>>製品ページ)。重さは285g。
※3:大阪芸術大学教授。リコーフォトアカデミー講師。
<侘車>
M:「NOZOMI」以降、また違う表現を探す模索状態になりました。人とは違う表現、感性が刺激される表現ができないものかと。。。
O:感性ですか。増田さんのブログを拝見したのですが、廃墟とか古いさびれたものなど情緒のある被写体を撮っておられますね。
M:当時は人間関係に疲れていたので、休みの日は田舎や廃墟を巡りリフレッシュをしていました(笑)。
最初、廃車は友達に見せる程度だったのですが、結構喜んでくれたので、もっと撮ろうとなりました。廃車を探すために、新幹線、在来線に乗って探しました。
例えば今日は廃車を3台見つけたいと目標を定めたりするのです。このテーマを始めると宝探しをしているようで、廃車を探すのが楽しくなっていきました。
また「NOZOMI」では望遠レンズを使いましたが、今回はGR IIIを使ったので広角の焦点距離28mmの画角でどこまで表現できて、果たしてレンズ交換なしで撮り切れるかという撮影方法での挑戦も楽しかったです。
O:引いた写真もあれば、車に寄ったり、一部を切り出した写真もありますね。実に表現が多様なのですが、車を見つけてからどのような流れで撮影されていたのでしょうか。
M:車を見つけると、この車の存在感が際立つ角度があるはずだと思い、撮影ポジションを変えて探します。室内だけなのか、後ろからなのか。引いて撮影もしましたが余計なものが映りこみすぎて車が主役にならないので、結果として寄った写真が多くなりました。
O:なるほど。例えば、これは車の手前にいろんなものを入れてますね。
M:これは近くに寄れなかったのもあるのですが、寄れないのであれば手前の棒や竹の最適な配置を探ります。1台の車で何枚も撮っています。
O:1枚1枚でご自身のベストポジションを探していらっしゃる。もともと描いていた絵の影響もあるでしょうか?
M:そうですね。配色のバランスとか。構図を考えるときに、ここに色を持ってきたら、見せたいものが際立つのではないか。逆にあまり持ってきすぎると主題を殺してしまうのではないかなど現場で考えながら撮影しています。
「侘車」は撮影手法は同じですが、表現が様々で現役を退いた車たちの廃車人生を個性豊かに描写しています。同じモチーフを撮り続けるスタイルは「NOZOMI」と同じですが、「NOZOMI」が人の人生の一瞬の切り出しに対して、「侘車」では廃車たちが長い時間をかけて今に至るその車の歴史を想像することができます。
リコーイメージング大阪まで足を運んでみてはいかがでしょうか。「侘車」たちと会話ができると思います。
<写真を撮り続ける>
「NOZOMI」も「侘車」も、ある意味社会を切り出したドキュメンタリーとして見ることもできる内容になっています。
今後はどのような写真を撮られるのか伺ってみました。
M:ここ4年程、着ぐるみ趣味の方の写真を撮っています。ご本人と着ぐるみを着た状態の2枚ペアで撮影しています。竜や猫など動物の着ぐるみを個人で所有されている方がいて、それを着てイベントや自宅などで同じ趣味の仲間で集まって、着ぐるみを楽しむ文化があるのです。なぜ趣味を始めたか、何を目指していくのかすごく興味深い文化だと思います。具体的には、ツイッターで協力してくれる人を募って2年かけて100人以上撮影しました。10代の方から60代の方まで幅広い年齢の方が楽しんでいらっしゃいます。
M:大勢の方を撮影させていただきましたが、実際に着ぐるみを趣味にされている方は、その方から感じるイメージとは正反対の印象を持つキャラクターの着ぐるみを所有されている事が多いように思えます。
その着ぐるみを自分にまとうことで、自分にない部分を補っているように思えて、もしかしたら自分を忘れられるのかもしれません。
そう思うとこれは遊びではなく、とても切実な事に感じるのです。
このテーマで写真展をできるところを探してはいるのですが、まだ見つけられていません。
昨今、テレビのニュースなどでは、人の顔にモザイクをかけるセンシティブな時代です。
表情は監視カメラにおいてはAIで解析されてしまったり、スマートフォンのロックを外す認証キーにもなっています。それだけ人の表情には様々は情報が付加されたということで、その表情をほかの人に見せるのは気を使う時代ともいえるのかもしれません。
そこで、着ぐるみをまとうということは、どういう意味を持つのか。。。なかなか面白いテーマだと思います。
一時期ブランクはありましたが、復帰以降は増田さんは常に写真を撮り続けておられます。最後に増田さんの写真に対する姿勢を感じさせる言葉をご紹介します。
「写真表現など色々やっていかなくてはという危機感はあります。写真を撮るご縁があれば全力でそこに向かっていきます。テーマが見えて被写体に相対したら存分に活かさないと次のチャンスも来ない。毎回必死に撮り切る感じです。」
リコーイメージングスクエア東京/大阪では、新型コロナウィルス感染症拡大予防対策の一環として、ご来館いただく際以下のご協力をお願い致します。
・入口にて検温させていただきます。(非接触型の体温計を使用いたします)
※37.5℃以上の方のご入場はお断りをさせていただきます。予めご了承ください。
・手の消毒を行ってからの入場にご協力をお願い致します。
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