写真は写っているものがすべてで、解釈は見た人に委ねられます。
写真は言葉で説明してくれないので、写真家が思っていることと受け取る側の解釈が違うことは良くあります。
今回はご自身の作品では国内の展示はもとより海外のフォトフェスティバルにも参加され、またクライアントから委託を受ける広告写真も手掛ける伊丹 豪さんに写真の意図を語っていただきました。

 

伊丹 豪(いたみ ごう)

1976年生まれ

主な写真集に’study”this year’s model”photocopy'(published by RONDADE)など。

展示も国内、海外ともに多数。

>>goitami.jp

 

#1

PENTAX 645Z + HD PENTAX-D FA645 MACRO 90mmF2.8ED AW SR 絞り:F11 シャッタースピード:1/125 感度:ISO200

朝早い銀座。
人通りはまばらだった。
地下鉄に乗ろうと階段を降りようとしたときにふと人がいることに気がついた。
すぐに階段を登り直しカメラを構える。
顔が見えないように柱と正対すると、手元がちょうど見えた。
慌てず、ぶれないように気をつけてシャッターを押した。
ほぼグリッド状の青い壁面の前に女性。
その前の柱も細長いグリッド。
朝日のせいで青い壁にできた無数の傷が煌めき、反射光で女性はドラマチックに照らされている。
青い壁面には金縁の広告。
どこかの夜景の写真。
ディスプレイには長方形の台座。
そしてそれはフレームにもなる。
向かいの、つまりは自分が立っている側の壁面や車が映り込む。
そしてよく見るとカメラを構えている自分も。
フレームの中に無数のフレームがあり、反射も、複写も、セルフポートレートも全部ひっくるめて1枚になった写真。

#2

PENTAX 645Z + HD PENTAX-D FA645 MACRO 90mmF2.8ED AW SR 絞り:F8 シャッタースピード:1/250 感度:ISO100

ロダンの彫刻「3つの影」は、人物像が左手を前に出して三体並び、トライアングルを形成しているが、この牛はそれを後ろ側から見たものに見えた。
「3つの影」は、「地獄の門」の頂上に立ち、そこには3という数字が持つ均整美(プロポーションだけでなく構成自体も含め)が貫かれ、そのプロポーションがこの写真にもいくつか見える。
連なる牛(実際は4頭いるが、3頭で形成するトライアングルが画面の殆どを占める)のトライアングル、画面上部を右上がりに横切る丘陵と、連なる牛の背中のラインの対比、木々の緑と、土の赤みの対比、白と黒、など。
いわゆるスナップ写真ではあるが、自分の目が反応する先にはこういう要素が潜んでいる。
中央の牛の尻尾が僅かにブレていることが、控えめに写真であることを主張しているようで好きだ。

#3

PENTAX 645Z + HD PENTAX-D FA645 MACRO 90mmF2.8ED AW SR 絞り:F8 シャッタースピード:1/350 I感度:ISO200

レイボーブリッジは歩ける。
なので、時々思い出したように歩きに行くのだが、この写真もその時に撮れた。
お台場は船の往来が多く、歩いているとしょっちゅう眼下を船が行き来する。
しばらく海に浮かんでるゴミや、葉っぱを眺めていたらちょうど真下を船が通った。
こういう場合レンズも決まった焦点距離だし、船の航路は自分ではどうしようもないし、ひたすらいいところに来てくれることを願うだけになる。
船が自分の真下に来るまでに、シャッタースピードは十分か、ピントは合っているか、絞りも絞っているか、を確認してただ、待つ。
水平に気をつけてシャッターを押す。
嘘みたいに晴れた日で、硬質な光が濃い影を作る。
自分は真下に来るものを待ち、来たからシャッターを押した、というだけなので、全てはなるようになった結果としかいえない。
ただ、そこかしこに今まで書いてきたような自分の写真にある重要な要素は存在していて、それは準備をしていたからこそ捕獲できたものだ。
いつだって偉いのはカメラであって、記録するのはカメラだ。
自分はその時を逃さないように、カメラを持っていること、そしてその場でシャッターを押せること。
それこそが必要なのだと思う。

 

 

伊丹さんと話をしていると、写真に写っているモノの描写にこだわりがあることが伝わってきます。ここに挙げたスナップ写真においてもそうで、精密な描写を担保するためスナップでもPENTAX 645Zで撮影されています。
#1もぜひ細部まで見てください。下の方に女性とご自身が写り込んでいる様子も確認できます。
伊丹さんが作品の意図を考えるのは撮影後です。写真を俯瞰して観て写っている被写体個々に自分の意図を結び付けています。#2の文章を読み写真を見ると、そこには伊丹豪という写真家のそれまで築いてきた経験や知識が込められているように思います。
自分の写真を俯瞰してみる習慣があると無意識に自分の写真を構成している要素が身についていくので、#3の写真を逃さずに撮ることができるわけですね。

写真を撮った後に写真を見ながら自分の意図を考えることで作品の熟成度が上がり、また結果として自分なりの写真が撮れるようになるのかもしれないですね。(PENTAX official編集部:大久保)