~広い広い世界を、自分の思い通りに切り取れるなんて最高じゃないか。
第9回「マクロレンズで切り取る」
今日の相棒は、KP+HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited。
一眼レフを構える時に、何度も何度も、そうしてきたように、左掌でボデイを支え、指でレンズを包み込み、親指と人差し指は当たり前のようにピントリングを挟み込む。指の一本一本から、アルミ削り出しの質感が伝わってくる。スライド式のレンズフードを引き出し、内側にベルベットを上品に施されたかぶせ式のレンズキャップを静かに外す。リミテッドレンズの証である赤いラインが気分を高揚させる。さぁ、今日は何を切り取ろう。
私が初めてマクロレンズを手にしたのは、写真を始めてから18年も経ってからだった。写真と関わっていて18年もマクロレンズを持っていなかったのは、かなり遅い方だと思う。ろくに知識も実績もないのに、機材よりも作品の内容だと、イキがっていた。だから、マクロレンズって、お花をアップで撮るんだろう?くらいにしか思っていなかった。今考えれば、随分とお粗末な考え方である。
でも、女性を撮るようになってから、花にも興味を持ち始めた。どちらも近寄って撮るには、その時よく使っていた標準ズームでは、あと一歩、ほんの数センチが近づけなかった。近づきすぎてピントが合わないのだ。ピントが合わないために、被写体から離れなければならない。これにはかなり撮影意欲が削がれてしまった。
撮影者と被写体との距離というは、とても大切だ。実際に写る大きさとかいう話ではなく、お互いの感情を左右する。
もしも、あなたが作品作りに行き詰まったら、被写体との距離をいつもと変えるといい。距離が変われば、作品も変わる。
私にとっての被写体との距離は、手で触れて愛でることが出来る距離だ。ファインダーを覗きながら手でそっと触れる。女性でも花でも、触れることで生を感じ、美しくなるように、その手でリードする。
最初に買ったマクロレンズは、当時、“伝説のマクロ”として、とても評判の良かったTAMRONの90mm F2.8 MACROだ。通称タムキュー、このレンズを使っての初めての撮影には、興奮した。女性の肌も、花びらも、表面の質感だけでなく、内部の湿り気までを写しとるように感じたからだ。
しかし、写真をやっている人なら、既にお気付きかと思うが、室内撮影で手が触れる距離の撮影ならば、中望遠の90mmよりも、標準の50mm前後が適している。つまり、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited焦点距離53.5mm (35ミリ判換算)のこのレンズが、私にとって最適なのだ。
ちなみに、PENTAXのレンズに限らずこれからマクロレンズを買われる方に参考までに。
・焦点距離50mm前後の標準マクロレンズは、人間の視野に近く、手の届く被写体を撮るのに適している。軽量、コンパクトなのも魅力。
・焦点距離100mm前後の中望遠マクロレンズは、少し離れた被写体を撮ったり、浅い被写界深度を活かしてのポートレートやお料理を撮るのにも適している。 ・焦点距離200mm前後の望遠マクロレンズは、フェンスなど障害物があり実際に近づくことが出来ない離れた距離の被写体を大きく撮ることに適している。 |
マクロレンズは、切り取ることを意識するのにいいレンズだ思う。他のレンズを使うよりも被写体のディテールを見て、感じるだろう。そうすれば、おのずとどう切り取れば良いかがわかるからだ。
カメラマンの最初の一歩は、被写体をよく見ること。そう教わった人も多いだろう。決して侮ってはいけない、シャッターを押す前に大切なことのひとつだ。
マクロレンズは魅力あるレンズだが、細部にだけこだわりすぎると、本来の目的を見失ってしまう。するとすぐに飽きてしまう。マクロレンズの魅力にとり憑かれても「木を見て森を見ず」にならないように気をつけて欲しい。
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