10月のお題は…『ぽつんを撮ろう』
近くから撮っているのに遠く感じる、そういう写真ってありますよね。物理的な距離と心理的な距離感というのが必ずしも一致しないのが写真の面白い所でもあります。今回のお題はずばり「ぽつん」。いわゆる点景というものですが、画面内に被写体が小さく写るからこそ際立つこともあります。自分と被写体の心の距離感を感じながら撮影してみてください。
新納翔 師範からの10月のお題は『ぽつんを撮ろう』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。
10月の挑戦者その1:Masamuraさん
出来秋の夕暮れ時、少年が夏を惜しむように水遊び。
後ろから少年を呼ぶ父親の声。この情景に懐かしい何かが胸に込み上げて来ました。
広島県在住、男性。地元尾道で写真活動中です。PENTAX K-3IIとsmc PENTAX-DA★16-50mmF2.8ED AL[IF] SDMで撮影。
師範の判定結果は・・・
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もう一歩!
尾道で写真活動をしていると聞くと羨ましく思ってしまいます。一度だけ行ったことがあるのですが、同行した広島の方も行くのが初めてというので驚いたのを思い出しました。私が行ったのはおそらく観光客ルートでしょうが、この写真のように地元の方だから行けるような場所を知っているだけでアドバンテージになりますね。
しかし、それは東京などの都市部でも同じことなのです。いくら狭い日本といえども、東京を一人で撮りつくそうとしたらとんでもない時間がかかります。さらにはどこもかしこも再開発で変化し続ける今、すべてを追いかけるのは物理的に無理。だからこそ、自分だけのフォトスポットを見つける余地があるのです。夕焼け時になるとフォトジェニックになるなんでも無い裏路地、最寄り駅からは遠いけど東京湾を眺められる海浜公園・・・。そんな場所を独り占めにできることこそ写真の真骨頂なのではと思います。
さて本題ですが、本作はとてもどっしりとした素晴らしい構図で大変心地良いです。遠くに見える島々と2艘の船舶に水遊びをしている子供。絵に書いたような瀬戸内の景色という感じですね。元々カメラを構えて構図を作り撮ろうとしていたら子供が入ってきたような見事な一枚。これを一瞬で出来たというのであればそのスナップ力、只者ではありませんよ。
デジタル写真は撮影してきたものをどう料理するか。
惜しむらくはややくすんだトーン。若干アンダー目が好みなのかもしれませんが、意図してアンダーにした写真というよりはモニターのせいで暗くなってしまったという可能性を感じます。モニターは奥から光が来るので写真を透過光で見ていることになります。ただ実際の写真というものは反射光で見るわけなので、このデータのままプリントするとちょっと色が濁った暗い写真に見えてしまいます。せっかくこれだけいい写真を撮ったのにそれでは勿体ないです。これは画面全体に言えることなので、トーンカーブの調整だけで補正可能です。こういう点は画面で見るよりプリントしてみるのが一目瞭然。上達のためのアウトプット、凄く重要です。
最後にこれは気にし過ぎかもしれませんが、手前中央やや左の白波がすっきりとまとまったイメージを崩しているように思えます。レタッチ例ではここをトリミングでカットしてみましたので参考にしてみて下さい。全体的なレタッチはとても良くできています。次作に期待!
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
10月の挑戦者その2:Marcoさん
よろしくお願いいたします。
これは、9月のお題の候補にした作品の1つでしたが、
10月のお題にマッチしていると思い挑戦させていただきます。
9月の初旬に撮った、最高裁判所の裏手です。
赤坂見附から三宅坂へ向かう道すがら、隼町の交差点にて対角線上にその光景がありました。
最初の印象は「何?なんなん?なんでそこに?」という驚きでした。
その驚きのまま、すぐにカメラを構えました。
この警備員さんがどこからいらしてどこに行こうとされているのかが全く予想できませんでした。
最高裁判所はほとんど窓のない石造りの建物でその厳格性や守りのイメージ
と警備員さんの「ぽつんと」感とがよい案配になってくれたなと思います。
東京都在住、男性。都会の中で時代が止まっているような雰囲気の場所を見つけるられるよう、歩いています。PENTAX K-1 Mark IIとHD PENTAX-DA 55-300mm F4.5-6.3 ED PLM WR REで撮影。
師範の判定結果は・・・
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もう一歩!
素晴らしいぽつんスナップショットです、マーベラス!最高裁付近は自分もよく通りますがこんなところに警備員の方がいるのは初めて見ました。テロ対策で念入りに巡回しているのでしょうか、いずれにしてもこんなシチュエーション、写真をやっている者なら無意識でカメラに手が伸びてしまいますね。Marcoさんの写真的嗅覚がこの場に居合わせたのだと思います。それも日頃から写真を撮っているおかげでしょう。カメラという物体が視線の一部になるくらいまで撮ること、そうなって初めてスタート地点に立てるのです。
よく報道写真はいい写真が撮れるか以前に現場にいるかどうかが問題だ、と言われますがこの写真もまさにそれ。ご自身では無意識かもしれませんが、普段から張り巡らせているアンテナによって引き寄せられたのかもしれませんね。いい写真家は、いい景色が向こうからやってくるものです。
また望遠レンズの圧縮効果のせいで石壁の遠近感が喪失し、警備員さんのスケール感が強調されているのも効果的です。人工物である石造りの壁がどこか荘厳さを持って静かに佇んでいるようで、警備員さんとの対比構造も実に面白いです。ここまで役者が揃っているのであれば、右下の茂みなどはバッサリ切り捨てたほうがより面白いと思います。シンプル・イズ・ベスト。
道場の講評で無意味な余白は捨てるべしと述べておりますが、警備さんの左側側にある空間はこの場合、最高裁判所の石壁というなにか得体のしれない凄みを表現するのに活きています。一瞬で撮った際の手ブレはこの際仕方ないとしてもちょっと悔やまれるところですね。
デジタルは銀塩よりもぶれていると何故か気持ちが悪いもの。自分はスナップ目的の時だと、シャッタースピードを1/500より早くするようにしています。露出をMモードにして1/500・f11にしてISOオートにする設定は被写界深度もかせぎつつブレなくなるのでオススメです。日中であればISOオートといえども、400で止まるはず。SS優先でもいいでしょう。スナップとランドスケープによって露出決定を変えるというのもアリだと思うので参考にしてみて下さい。
そこら辺の完成度が詰められれば免許皆伝です。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※クリックで大きく表示されます
10月の挑戦者その3:ake*さん
自転車レースを見ていたら一人独走になり、ポツンだっと思いながらシャッターを切りました。
大阪府在住、女性。ファインダーから見える世界が大好きです。PENTAX K-3 Mark IIIとHD PENTAX-DA 55-300mmF4-5.8ED WRで撮影。
師範の判定結果は・・・
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お見事!
自転車レースで独走シーンということですが、流し撮りは専門外なので技術的なことはさておき、単純に写真のレベルが高すぎやしませんか。「ぽつん」というお題を通り越して、一枚の写真としての完成度の高さに迷わず免許皆伝とさせていただきました。前回、免許皆伝が出てより厳しくしようと思った矢先、こんなものを応募されてはさすがに回避不可避。
世の中にどんな自転車の流し撮り写真があるのかとネットで調べてみたのですが、正直これより上手いものは見つけられませんでした。昔ロードレーサーに乗っていたことがあるのでその手の雑誌などは見ていましたが、自転車の流し撮りってどこの自転車なのかフレーム等が写り、選手の表情を狙った角度の写真が多いですよね。そういった中、やや上からのカットは独創的な作品に見えます。というかもはやプロレベルです!いや、その中でもこれは本当に門外漢の私からしても、それ以上の素晴らしい一枚だと思います。JRAに送れば即採用ではないでしょうか。
自転車が疾走するバンクが照明によって鮮やかな緑になり、白く流れている写真上部は観客でしょうか、ラインのブレもレースの躍動感をよく表現しています。
これは選手を中央に置くべきか迷いどころですね。どちらが正解というわけでもないと思うのですが、ここからはこの写真をより良くするためにはどうしたら良いかということを記したいと思います。
全体的に色がやや浅いのでこの場合はレタッチ例くらい派手にやってもいいと思います。どこまで彩度をあげてよいかということは、被写体や表現したいものに依存するものです。この選手がトップなのかそれとも最下位なのかは分かりませんが、ややセンターから外しトップを独走していると捉えてトリミングし、色味を強調するようにレタッチしました。
ともあれake*さん免許皆伝おめでとうございます!
今後も素敵な作品をお待ちしております。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
師範より10月前半の総評
今回は力作ぞろいで講評する側としてもテンションが上がってしまいました。
前回のテーマにて免許皆伝が出て、これは帯を締め直しより厳しく見ていこうと思った矢先またも素晴らしい作品が来てしまいました。当道場師範の役を仰せつかってから約半年、着実に皆様の実力が上がっているのだと感じます。
ただ漠然と撮るだけでなく、各々が自分の作風を掴みだしたということでしょう。何を撮っているのか、何を表現したいのかを分かってくると撮る写真も一貫性が出てきます。
道場破りが来るのではと心配で寝られませんね。
12月は私の新作「ペタロポリス/Petalopolis」の個展があります。そのために少しでも精度をあげようとアレコレ必死になっています。同名の写真集も出ますので是非よろしくお願いいたします。
Masamuraさん、Macroさんには「免許中伝ミニ木札」をお贈りします!
記念品は11月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。
その他の投稿作品をご紹介
最後に、10月前半のお題の投稿作品の一部をご紹介させていただきます。
こちらは師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んで掲載しております。
〔クリックで写真が大きくなります〕
以降のお題へのご投稿もお待ちしています!