12月のお題は…『シルエット写真グランプリ』
シルエット写真はモノの形状をよく見つつ、同時に光を読む力が要求されます。ただ、シルエット写真は単調になりがちなので、自分なりに工夫してしっかりとストーリーが感じられる写真に仕上げてください。
新納翔 師範からの12月のお題は『シルエット写真グランプリ』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。
12月の挑戦者その1:マスター黒野さん
秋の深まった港の見える丘公園での夕景です。
ススキの輝きを出そうとしているところに、元気な女の子が駆け込んできたところを撮影しました。
神奈川県在住、男性。ブログにてPENTAXの本当の素晴らしさを伝えることができるように、日々修行の身です。PENTAX K-1とHD PENTAX-D FA★ 70-200mmF2.8ED DC AWで撮影。
師範の判定結果は・・・
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お見事!
今回のお題は、シルエットをうまく活かしつつ、それをどうやって自分の作品の中に落とし込むかがポイント。どのお題もそうですが、あくまで自分の世界観を残しつつ、課題を取り入れていくという姿勢が必要です。お題の為に撮るのではなく、「普段撮っているものの延長にたまたま課題の写真があった」というのが理想ですね。
その点から見て、この作品は本当に素晴らしいと思います。太陽にきらめくススキの穂を撮影しているところに偶然入ってきた女の子、さらには奥からやってくる車と一つの画面内に様々なドラマが共存していて実に絶妙なバランス。それらが自然調和してとても深い作品になっています。ここでシャッターを押せたことは本当にお見事!
手前の赤い草と女の子が来ている赤色のシャツもうまいことリンクしています。結果論になりますが、こういうシチュエーションどちらにピントを合わせるかが問題になってきます。ここはススキで正解。女の子はアウトフォーカスになっていますが、十分に主役になっています。逆に女の子にピントを合わせていたら、前ボケになったススキがきらめいているせいで非常に画面がうるさくなってしまったでしょう。
添削内容は欲を言えばという内容ですが、気になるのは女の子のすぐ後ろにいる通行人。ちょっと目が行ってしまうのでこの場合、この人物を中心に明るさを落として目立たなくするほうがいいでしょう。そうやって不要物を目立たなくすることでだいぶ画面がスッキリします。
それと赤の彩度がややきつく、飽和手前なので注意しましょう。これはしっかりとしたモニタで見ないと分かりづらいかもしれません。色が正確に表示されないモニタでレタッチしていると、思わず彩度を上げすぎてしまうことは多々あります。私はEIZOのキャリブレーションモニタを使っていますが、デジタル写真においてモニタは非常に重要な機材です。
ちゃんとした色で表示されないモニタではいくら頑張ってレタッチしても無駄になってしまいます。デジタル写真をやっている人皆さんに言いたいことですが、モニタは写真上達のためには非常に重要な機材です。
サングラスをかけていては正確な色が分からないのと同じ話です。
プロ目線で見れば色々とありますが、この作品は季節感もたっぷりでとてもいい作品でした。免許皆伝に相応しい作品です。おめでとうございました!
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
12月の挑戦者その2:Masamuraさん
尾道と向島を結ぶ渡船を待つ人々。
尾道水道を往復してもわずか数分間の航路を通勤、通学はもちろんの事、
観光客やしまなみサイクリスト達にも多く利用されています。
広島県在住、男性。尾道で写真活動中です。Instagramはオノミチフォトグラファーのアカウントで毎日更新しています。PENTAX K-70とHD PENTAX-DA 55-300mm F4.5-6.3 ED PLM WR REで撮影。
師範の判定結果は・・・
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もう一歩!
手前に自転車と人がたくさんいて、奥にはクレーンがたくさん写っているとても印象的なカット。どういうシチュエーションなのかと思ったら、渡船を待っているとのこと。なるほど、尾道の日常風景を撮っているということでオノミチフォトグラファーというのもいいですね。
写真と言葉というものは切り離せないものだと思っております。優れた写真家は優れた言葉を持つと思っているので、自分だけの言葉、解釈を言語化できているのはナイスなことです。さらにそれを他者に見てもらうことで、自分とは違った視点で気づけなかったことを教えてくれることもあります。そうした相互作用によって写真は育っていくものです。
クレーンと自転車という機械物の対比がとても面白く、それを取り巻く環境が山であったり、瀬戸内海という大自然というのも良いですね。普段東京ばかり撮っているとこういう光景にあこがれてしまいます。
ちょっと欲張ってしまったように思うのは、左下の船舶ですね。ここは思い切ってカットしてしまったほうが、より主役が目立ったでしょう。当道場の講評では撮影済みの絵を見ているのでトリミングという話になりますが、それが撮影時にできているのに越したことはありません。
トリミングが上手くなる=構図に関する美的センス力がある=撮影時のフレーミングが上手い
それと仕上げにあたるレタッチが若干甘い気がします。これは若干私の好みになってしまうかもしれませんが、空気の霞が気になってしまうのでシアンを足してすっきりとした雰囲気にした方がより良いように感じました。
レタッチに正解はありません。ただ「どう見せたいか」が自分なりに分かっていれば、そこで迷いは生じません。撮影時すでにレタッチ後の仕上げまでファインダーの中で見えるくらい鍛錬するとよいでしょう。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※クリックで大きく表示されます
12月の挑戦者その3:かずやんさん
水辺での子供の遊び
子供は元気が一番
大阪府在住、男性。写真歴ン十年、まだまだ勉強中。PENTAX K20Dとsmc PENTAX-FA 28-200 F3.8-5.6 AL[IF]で撮影。
師範の判定結果は・・・
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お見事!
これは参りましたね。たいていは免許皆伝といえども、レタッチ例としてこういう感じはどうでしょうと提案するのですが、この作品に関してはどういじっても変になってしまう、まさにこれが完成形ということでしょう。Photoshopでどうにかならないかやっていたのですが・・・。勝ち負けではないのですが、プロとしてこれには完敗です。
しごく王道的なシルエット写真なので遊んでいる子供の写真ということは分かるのですが、この世界に吸い込まれそうになるような気がするほど、ざわつくものを感じます。よく「いい写真」とは何かと聞かれますが、写真史の文脈から評価に値するという見方は評論家のお仕事なので、単純に見ていて心がざわつくかどうかで判断すればいいと思っています。
そして何にざわつくのかということを読み取り言語化するのが私の仕事。撮影者の意図と必ずしも一致するとは限りませんが、それも写真の宿命。
やはりこの色調がとてもいいです。おそらく肉眼で見るものとは違うでしょうが、この作品の世界観を構築する上で一番重要な要素でしょう。手前の前ボケになっている草があることで単調になることを防ぎ、子供の表情もなんともいえない。シンプルだからこそ、ずっと見てしまう味がありますね。子供の影が水面に写って揺らいでいるのも、彼の心情を反映しているように見えます。
これだけシンプルな内容・構図でありながら画面上どこにも無駄がない。
一点だけ残念なのは、画面左上にある何かの影ですね。これさえなければ「パーフェクト免許皆伝」でした。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※クリックで大きく表示されます
師範より12月前半の総評
2021年も僅かですね。今回は幻の「パーフェクト免許皆伝」が出そうな非常にハイレベルな作品が多かったです。もしかしたら三枚選ぶのに一番時間がかかったかもしれません。
選ばれなかった方は単に駄目だったと嘆くのではなく、何が足りなかったのか、どうすればよかったのかと考えてください。そうやって自分の写真、いや自分自身と向き合うことこそが写真上達の唯一の道です。
マスター黒野さん、かずやんさん、免許皆伝おめでとうございます!お二人には「免許皆伝看板」「免許皆伝ミニ木札」をお贈りします!
記念品は1月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。
その他の投稿作品をご紹介
最後に、12月前半のお題の投稿作品の一部をご紹介させていただきます。
こちらは師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んで掲載しております。
〔クリックで写真が大きくなります〕
まだまだ「シルエット写真グランプリ」ご投稿お待ちしています!2021年12月31日23:59まで受け付け中!
編集部からのお知らせ
2022年1月~3月の新納 翔 DOJO City ScapeではPENTAX道場初の試みとして「他流試合」を開催いたします。
PENTAX以外のカメラで撮影された作品も挑戦可能といたしますので、ぜひこの機会にお友達やご家族などをお誘いのうえご参加ください。
2022年1月1日0:00より受付開始いたします!