1月のお題は…『ボケを使った写真表現』

新納翔 師範

ボケ味がいいと普段使っているこの「ボケ」と言う言葉、英語でなんというかご存知でしょうか?実はそのまま「BOKEH」なんですね。日本の写真文化と違ってあまり海外ではボケについて語ることが少なかったようで90年代あたりから海外でも使われるようになりました。

今回のお題はボケ、アウトフォーカスを使った作品です。前ボケを利用して奥行きを出す、またはどこにもピントが合わせないことから生まれるイメージ、ボケから広がる世界は無限大です。既成概念にとらわれることなく、自分色を出した表現作品を待っています。

さあ、ボケてボケてボケまくれ!

新納翔 師範からの1月のお題は『ボケを使った写真表現』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

 

1月の挑戦者その4:ふじみやさん(フィルム挑戦者)

フィルム有効期限が20年前のを使用し、仕上がりのドキドキを楽しんだ。
光の差し込みがキレイだったので被写体にピントを当てる予定だったが光へピントを当てた。

ふじみや
長野県在住、男性。細々と写真を撮ってるミドサー。ASAHI PENTAX SPとSuper Takumar 55mmF1.8で撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

窓から入る優しい光によって照らされる薄暗い室内、日常の中の素晴らしいカットです。あえてフィルム風に仕上げたものかと思ったら、まさかのフィルム作品でした。PENTAX SPにタクマーの55/1.8という王道セット、1964年発売のカメラで撮影されたものが最新デジカメの作品と並んで審査されるということに、純粋に写真表現を見ようとする道場本来の目的がかなって嬉しい限りです。

20年前に有効期限が切れたフィルムでの撮影ということですが、それがこの雰囲気に一役かっているのかもしれません。ピントを人物から少し外すことによって、ありがちなポートレイトではなく、この日常の瞬間全体を取り込んでおり、作品に奥深さが出ています。台所に置かれた懐かしい柄のポットなどによって、20年間カメラの中に入っていたフィルムを現像したと言われても信じてしまいますね。

期限切れのフィルムは保管温度や湿度によって劣化の状態が変わってくるので、おそらく保存状態か良かったのかもしれないです。ただ、デジタル化をしているとなると、そもそものレンズ性能・スキャニングの良し悪し・デジタルデータの調整と、色々な要素が結果に絡んでくるので、実際に現像したフィルムを見てみないことにはなんとも言えないところではあります。

特にデジタル化する際のスキャナによって結果は大きく変わります。ハッセルブラッドのFlextightX5は本当に素晴らしいデータを出してくれるので、フィルムをやっている人は是非ラボ等で使ってみてほしいです。目からウロコ間違いなしの神画質です。

期限切れのフィルムなので色転びなども狙いのうちなのかもしれませんが、見る側にとってプロセスが重要視されるのはもっと先の話。どんなに苦労して撮った写真でも、いかに高価なもので撮ったものでも作品となってしまえば関係のない話です。そういった意味では、ちょっと暗部を無理に持ち上げている感じなど、レタッチによって良くなる余地があると思います。この雰囲気をいかしたまま、どうしたら良いか考えてみましょう。

レタッチ例では窓からの光を活かしつつ、画面下の暗部をしめる代わりに人物の輪郭は強調するようにしました。それだけでこの方の存在感、そして作者との距離感が分かりやすくなります。画面全体にマゼンタが強いのでそれを取り除き、調理器具類はより白さを出す方向に調整。右のテーブルクロスのピンクは画面構成においてアクセントになっているので、彩度と明るさをあげています。デジタル化されたものはこのように細かい調整が可能になるので、仕上げのプロセスをしっかりやれば免許皆伝でしたね。次作に期待!

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

 

1月の挑戦者その5:Shinさん(他流挑戦者)

友人が運転する車で走っている時に見かけた景色を撮りました。
極寒の中、犬と車が走っていて、言葉のわからない国でどこにいくのだろうとワクワクしているところを撮りました。

Shin
神奈川県在住、男性。写真を撮り始めて5年ぐらいの初心者です。Canon EOS 5D Mark ⅣとEF24-70mm F2.8L II USMで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

海外の雪道で撮った一枚とのこと。まさにロードムービーのワンシーン、ワンちゃんが粉雪舞う中走っているのを見たら、誰でもカメラを構えてしまいますね。しかもこの作品、左側の凍った湖面と思われる場所に犬を連れた人が写っているという偶然が、スナップ写真の醍醐味を感じさせるものになっているのがとても素晴らしいです。

異国の空気感が伝わる良い作品であるがゆえに、1メートルくらいのビックプリントで見てみたいです。運転手さんのハンドルを握る手やダッシュボードを前ボケに使うことで自分たちの存在感が加わり、より主観的な旅写真になっています。これによって「Journey」から「my Journey」となり、作者のワクワク感が見る側に伝わってきます。

電柱が奥に続いていく感じなど、しっかりとした構図の写真なので、水平はきちんと出した方がより画面構成がしまるでしょう。それと同時に、走ってくる犬と湖面の人が連れている犬のリンクが面白いので、左端に写っているものはトリミングで切ってしまったほうがよりスッキリしますね。要素が増えることでせっかくの主題がぼやけてしまうのは避けたいところ。

それと画面全体が暖色系になっていると霞がかっているのか気になりました。雪国らしく寒色系にふったほうがナチュラルかと思いレタッチしてみたので参考にしてみてください。

レタッチの工程としては、湖にそって水平を出し、空の部分のヒストグラムを見て色調を補正。若干コントラストを上げることによって霞をとっています。次に湖面だけ選択し車道と区別がつきやすくややブルーに。車道の質感がちょっと薄いのでテクスチャを強調させるためにハイパスを入れています。その他はノイズを追加するなど細かい調整ですが、このレタッチ例はそんな感じです。

人間の目では色調にしろ明るさにしろ、正確に判断するのは難しいことが多いので、積極的にヒストグラムを使って判断するといいでしょう。

異国の地で切り撮ったナイスなスナップショットでした。

最近良く思うのですが、はっと撮った後に構図を整理して撮り直してもよくなることが殆どないのはなんでなのでしょう。この現象に名前をつけたいと思っている今日このごろです。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

 

1月の挑戦者その6:chie hanaさん

花束を持つ青年の無邪気さ

chie hana
長野県在住、女性。創作、花の写真を主に撮影しています。PENTAX KPとsmc PENTAX-DA★55mmF1.4 SDMで撮影。

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

ハイファッションの広告にありそうな写真。あえて人物をアウトフォーカスにすることによって被写体の存在感が増していますね。人間は見えないものを本能的に見ようとするので、より見入ってしまうのでしょう。色調も渋く、作者がこだわっているポイントなのだと思います。このロケーションにとても良くあっていますね。

勿体ないと思ったのは、何を見せたい写真なのかいまひとつぱっとしない点です。人物なのか、手にしている花なのか、それとも青年が着ている服なのか・・・。その理由の一つに、人物と背景が構図や色調によって溶け込んでしまっていることにあります。青年の右肩と山の稜線がもっと離れていれば良かったのかもしれないです。

もっと背景と分離させることを考えるべきでした。一番簡単なのは浅めのピンで被写体を浮き立たせることですが、それではせっかくの背景がボケてしまい、ありきたりな写真になってしまうでしょう。となればレタッチでそれを明確にすることです。

色調補正をする上で一番重要なのは、本来白いものが白だと見ている側に伝わることです。あえてイエローにふったり、ティールアンドオレンジのように色が被っていても、「元々これは白いのだな」と伝わることがとても大切。そうして初めて気持ち良いプリントに仕上がるのです。この写真はもう少し人物と手にしている花の本来の色を意識しつつ、明度を調整することで背景と分離してきます。

本来、背景と人物では適正露出が異なるシチュエーションなので、撮影後のレタッチでその差を補ってやりましょう。曇天なので背景の露出からすると、影になっている服の部分や顔などは2段ほど露出の差があると思います。それを撮影時に同じ露出で撮っているわけなので、部分的なレタッチで明るさ・色調の調整をしてあげる必要があるわけです。

「花の写真を主に撮影しています」という作者の言葉から、花が目立つようにレタッチしてみました。青年の顔はもう少し暗くてもいいかもしれませんが、そこは好みの問題ですね。

プリントを前提とした話ですが、レタッチで重要なのがノイズです。ざらっとした印象を出す以外にも、プリントした時の立体感の違いなどとても奥深いものです。レタッチ例では、空の部分にノイズを入れています。ディスプレイでは違いが分からないほどですが、これでもプリントすると相当な違いが出るのです。

次回はその点を踏まえチャレンジしてみてください。ちなみにウォーターマークは写真だけをじっくり見たいので消させていただきました。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

師範より1月後半の総評

過去最多の応募にまさにデッドヒート、ここまでいい作品が揃うと正直3点だけに絞るのは選ぶ側としても相当ハードな作業でした。選外の作品も良作が多く、選ばれた作品と比べても本当に僅差。それを分けたものの多くは、やや「お題」を意識しすぎて自分の写真ではなくなっているというパターンです。気持ちは分かるのですが、お題もさることながらまずはいい写真であるということが大前提。そこを背伸びしてしまうと良い結果には結びつきません。

他メーカーもOKになり、フィルム作品まで入ってきて今後さらなる過酷なコンテストになりそうです。次回は「工事のある風景」。日本のあちこちで再開発をはじめ、様々な工事現場を目にします。それをどう切り撮るのか?それとも自宅の庭の手入れも立派な工事です。さあ、工事といえど無限大。ナイスな作品楽しみにしております。

記念品のお届けについて
ふじみやさん、Shinさん、chie hanaさんには「免許中伝ミニ木札」をお贈りします!

記念品は2月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

その他の投稿作品をご紹介

最後に、1月後半のお題の投稿作品の一部をご紹介させていただきます。
こちらは師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んで掲載しております。

〔クリックで写真が大きくなります〕

以降のお題へのご投稿もお待ちしています!

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