2月のお題は…『工事のある風景』

新納翔 師範

ちょうど戦後に建てられたビルや集団住宅など様々な建造物が老朽化のせいで建て替えの時期を迎えているため、東京都心に限らず日本中どこでも再開発事業が行われております。 

工事というものはいつの時代もありますが、これだけ大規模に日本中で行われているのも令和初頭の歴史なのかもしれません。今回のお題はまさに、皆様の街で撮った「工事現場のある風景」です。

このお題、単に工事現場を撮るだけでは免許皆伝とはいきません。
どう他人との違いを出すか、そこを考えつきつめる。そうした試行錯誤からいい作品が生み出されるものです。私も気づかないような撮り方、捉え方お待ちしております!

 

新納翔 師範からの2月のお題は『工事のある風景』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

2月の挑戦者その1:しらおかさん(他流挑戦者)

猫が網戸のある窓越しに、隣の建物が取り壊されているのを見ているところ。

しらおか
島根県在住、女性。風景と我が家の猫を撮っています。Panasonic DMC-GF1とPanasonic Lumix G 20mm F/1.7 ASPH(H-H020)で撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

室内で飼っている猫は外の景色をどう思って見ているのでしょう。私も猫を飼っているのでそんなことを思ってしまいます。この作品は猫がいる部屋、つまり作者の居住空間と外に見える工事現場とを猫を媒介にして捉えている所がとても良いですね。

そのおかげで工事現場だけでなく、自分の住んでいる街が変化していく、その変容を見つめる作者の視点までも一枚に収められており、当道場「City Scape」の要素も入っていて完成度の高い作品になっています。このニャンコも街の変化に憂いを感じているのかもしれませんね。

今は中古で1万円もしないパナソニックGF1ですが、私もかつて肉体労働者の街と呼ばれた山谷地区を撮っていた時にはよく使いました。GF1に搭載されているセンサーは光を拾うのがとても上手いセンサーだと今でも当時のデータを見て感心します。冬の朝の光なんかを撮るととても良いのですよね。ワタクシ的名機です。

この作品、構図に関してはこのままでもいいように思いますが、先に述べたように猫と工事現場のクレーンが面白い対比構造になっているのでそれを強調するようにレタッチしても良いかと思います。どうも窓枠が画面を煩雑にしているように思えるので、思い切ってトリミングしてしまいましょう。そうすることで画面内のニャンコの存在感も増し、より撮影意図がはっきりします。写真は引き算と木村伊兵衛の時代から言われているように、自分が伝えたかったものをより明確にしていきましょう。そうすることで、見る側にその想いが伝わりやすくなります。

レタッチ例のようにこれくらいに切っても左側にあるカーテンの裾によって、十分に切り撮った部分の情報は担保してくれています。これくらいが丁度よいのです。

これは撮影時の露出だと思いますが、猫はシルエットにしてしまっても顔の部分は残るのでもう少しコントラストを付けて画面全体をしめたほうがいいでしょう。そうすることでクレーンのイエローやテクスチャーもより出てくると思います。

それと空のくすみは取りましょう。これは他の多くの写真に言えることなのですが、空のくすみはメリハリがなくなるのでしっかりと調整したほうが良いです。ただこの時気をつけたいのが、やたらブルーを入れたり彩度を上げ過ぎてしまうと現実感がなくなるので、ほどほどにしましょう

もう10センチ前で撮っていたら良かったですね。いい作品かどうかはほんの数センチ、もっといえば何ミリの差で決まるものです。次作も期待しています!

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※クリックで大きく表示されます



2月の挑戦者その2:gucciyugoさん(他流挑戦者)

塀の直線的で無機質な背景に対比した草のフォルムが気になりました。
そこにスルメが入ることで、一瞬異質さを感じるのですが、見ていると有機的になじんでくる感覚をおぼえました。

gucciyugo
神奈川県在住、男性。街を歩いて気になるもの、光、色、形を撮影しています。探すというのではなく、見つける自然体の感覚を大切にしています。CANON EOS80DとSIGMA 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSMで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

他流試合のせいなのか、今回は本当に良い作品が多くて三点に絞りこむのが難しかったです。その中で初めから、む!何か匂うぞ!と思ったのがこの作品でした。「工事のある風景」というお題に対して、主役がな、ななんと、スルメですと!?思わずモニタを二度見してしまいました。一見イレギュラーな作品のようで、この不協和音がとても効果的に働いていてオリジナリティある作品に仕上がっています。ここにどうしてスルメがあるのかは分かりかねますが、とにかくマーベラス!

和服・富士山等が外国人にとってジャパネスクを感じるというのは誰しも納得だと思いますが、コンクリートのブロック塀も海外の人からすればジャパネスクを感じる立派な要因になっているということを初めて知ったときは驚きましたね。海外の方からするとあのブロック塀は日本の原風景になっているようです。

それと同じで、この作品には直接的な工事現場は写っていませんが、この特徴的な白い壁によってこの奥で何らかの工事が行われているというのは自明の理。そしてスルメという「異物」が入ることによって写真の鑑賞者は「?」が浮かぶことでしょう。

この写真を撮ったということもさることながら、これを今回のお題に出すことへの発想の柔軟さがとても素晴らしいと思います。確たるものがなければこれを送るのは大変勇気がいることでしょう。是非多くの方にこの作品を通して、フォトコンテストにおけるお題への取り組みについて考えて頂ければと存じます。

レタッチに関してはもう少し頑張れる余地がありますね。大きく言って2つ。1つは草と無造作に置かれたスルメがメインなのに工事の白い防護柵が占める面積が多すぎること。ちょっと多すぎると思うので、多少はトリミングしたほうがいいです。それとこういう写真は傾きによって何か効果的になるわけでもないので、しっかりと水平・垂直は出しましょう。

それとフェンスの「白」ですね。暗室をやっていた人のほうがPhotoshopのマスターが早いという話もありますが、それは暗室作業を通して正しい白を見極める目が養われているということだと思います。レタッチ例を参考にしてください。

モノクロの写真もそうですが、白を出すこと、これがとても重要なことなのです。それと作品に関して、欲をいえばもう一つ何かしらの工事現場的要素が入っていれば免許皆伝だったかなぁと思います。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

2月の挑戦者その3:のんびりのびのびさん(他流挑戦者)

壊されるビルと明日に向かって生きるエネルギーの対比が面白く交差する絵になったと思います 。

のんびりのびのび
東京都在住、男性。新たな発見を求めてお散歩フォト あら不思議! まーびっくり! わー綺麗! ちょーかっこいい! にレンズを向けています。CANON EOS RとEF-S18-200mm F3.5-5.6 ISで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

解体工事現場の前を横切るベビーカーを押す女性と立ち並ぶ重機、とても良い瞬間を捉えた作品ですね。上にのびるビルに対し、母親の進む向きと警備員さんの視線が右の方向を作っているのが画面に面白さを出しています。このように、画面内にいくつもの向きが交差するとドラマチックな絵になりやすいです。

壊されていくビルとこれから育っていく赤ん坊、スナップ的要素と街の変化を捉えた記録的要素が混じり合った作品といえるでしょう。しかし、いい作品だからこそ惜しい点が目についてしまいます。後もう少しで免許皆伝の作品なのですが、この「少し」が大きな壁なのです。

人物はいいのですが、ビルや重機の明るさがハイキー気味で存在感や解体中のビルが持つ質感が損なわれてしまっています。撮影時の露出のようにも思えますが、部分的に明るさを落としコントラストを上げることでむき出しになったコンクリートや鉄筋の質感が出てきます。放水しているところだけは暗くしてしまうと目立たなくなるので、そのままにしましょう。銀塩はややオーバー目に撮ることがありますが、デジタルの場合は白飛びを避けるために-0.3から-0.7くらいの露出補正を目安にするといいでしょう。

画面構成で気になった点として、画面下のマンホールと右側の空の面積が大きいように感じました。メインとなっているビル群が密集しているのに対し、空が持つ広がるイメージがぶつかってしまっているのです。かといって空を完全になくすと面白くないので、レタッチ例のようにトリミングするといいでしょう。

それとビルの垂直を出すと画面に安定感が出ます。本来なら高い建築物を撮る時はシフトレンズを使うのですが、Photoshopなどの編集ソフトによって後から修正することは可能です。Photoshopなら自由変形の機能を使って直すと結構自然になりますので試してみてください。

作者の自己紹介文「あら不思議! まーびっくり! わー綺麗! ちょーかっこいい! にレンズを向けています」というのが写真の本質を言い表しているようでとても好感が持てました。飾らず自分の感動を素直に写真で表現するということは、色々な作品を見たりテクニックを知ってしまうと逆にできなくなりがちです。こういう気持ちを大切にしたいですね。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

師範より2月前半の総評

今回もたくさんのご応募ありがとうございました。ハイレベルな作品が多く、私の審美眼が試されているようで3点選ぶのに何度も何度も見返しましたが、この熱意に全部の作品にちゃんとコメントしたい思いです。忖度なしで純粋に作品の内容だけで選んだ結果、今回は他社メーカーでの作品だけになってしまいました。ついに道場破りということでしょうか、PENTAXユーザーさん次回に期待しておりますので頑張ってください!

セレクトの結果、最終的に9点の作品が残りました。そこで明暗を分けることになったのですが、オリジナリティがあるかどうかというのが一番のポイントのように感じます。撮影も重要ですが、お題について自分なりに考察することが重要です。自分なりの写真を胸を張って応募してください。次回も楽しみにしております。

追記ですが、フィルムによる作品も多くなってきました。デジタルの方もですが、長辺2500px以上で投稿してください。やはり小さいサイズですと細かいところまで見ることができず、しっかりとした判断がつきませんのでお願いいたします。

 

記念品のお届けについて
しらおかさん、gucciyugoさんには「免許中伝ミニ木札」、のんびりのびのびさんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!

記念品は3月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

惜しくも選外となった、最終選考ノミネート作品をご紹介

今回惜しくも、最終段階で選ばれなかった作品の一部です。
残念ながら選外となりましたが、まだまだ後半戦がありますので、リベンジお待ちしております!

〔クリックで写真が大きくなります〕

以降のお題へのご投稿もお待ちしています!

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