7月のお題は…『水のある都市風景』

新納翔 師範

私たちの暮らしている街は意識を向けると、いかに水に囲まれているかがわかります。水の都ヴェネチアとはまた違った趣があるように思います。河川や公園の池、道路の下を走る下水管、いかに水と密接な関係にあるかを改めて感じる次第です。今回はそんな「水」をお題といたします。作例は皇居のお堀を撮影したもの。こんな景色になるとは徳川家康も想像しなかったでしょう。
水にまつわるものであればなんでもOKです。例えば雨の日のスナップショットだって構いません。何を被写体にするか選ぶことも作者の仕事であり、とても重要なポイントです。採用する際にもこの点を考慮しようと考えております。

新納翔 師範からの7月のお題は『水のある都市風景』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

7月の挑戦者その1:あおべーさん

子供の頃からあぜ道の脇にある農業用水路や取水堰が好きで、今でもその景色に出会うと見入ってしまいます。私が住んでいる地方の中都市には、建物や送電線や電信柱のとなりに田んぼがあって、今でもそのわきにいつも水が流れている用水路があります。水は、地球外生命体の存在を示唆する指標の一つでもありますよね。都市が持続できるかどうか、人が今後も生き続けていけるかどうかは、電気ではなく、水があるかどうかにかかっているのです。雨が降り出しそうな曇り空も水繋がり、ということで。

あおべー
栃木県在住、女性。いつもは足元にある小さな自然を撮ることが多いのですが、カメラを持って地元の駅に行ってみたら、思いがけずおもしろい被写体を見つけられたのをきっかけに、街撮り(?)にもはまりそうです。PENTAX K-3 Mark IIIとsmc PENTAX-DA 18-135mmF3.5-5.6ED AL[IF] DC WRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

これで晴天でしたら新しいカスタムイメージ夏天にぴったりの田園風景ですね。とはいえ、今にも雨が降ってきそうな曇天の空と田んぼの組み合わせがなんとも言えない味を出しています。どこか日本の心象風景のようで、田んぼを吹き抜ける風が写り込んでいるようにも見えます。ありがちな景色こそ、そこでカメラを向けるか向けないかで撮り手の意志が伝わるものです。

画面奥の大きな送電線とあぜ道のように草木が生えている道路脇の電柱が対比的で、都心部との構図がそのまま反映されているようで面白いです。この景色に向ける作者の想いがコメントにもあるように、とても熱い何かがあることがわかります。誰でも撮れそうで撮れない写真とはまさにこういう作品のことを指すのだと思います。

残念なのは、色々と雑なところが目立つ点です。大きく言って二点。まずこの景色で水平を出さない理由が分かりません。あえて傾けて躍動感を狙うシチュエーションでもなく、敢えて言えば単に、片手にカメラを持ってさっと撮ったという感じがします。それと僅かなブレがありますね。それによって草木の鮮明さを失っているように見えます。ここはもう一段絞り、しっかりと脇をしめて撮影すべきでしょう。カメラの画素数が上がるとちょっとしたことでもブレに繋がります。私は645Zをメインにしているので、1/500以下は切らない、撮る時は息を止めるということを徹底しています。こうしたことはプリントサイズが大きくなればなるほど顕著に出ます。後で後悔しないように慎重に撮影しましょう。

この景色、空のどんよりとした感じと田んぼの色合いが不釣り合いに感じました。レタッチ例を見て頂ければ分かるように、画面下もどんよりとした感じを出すために明るさと緑の彩度を落とすといい感じになります。用水路の存在が水の流れを表しているので、目立つようにきらめきを足す=部分的に明るくしました。こうすることで作者の意図を明確にしつつ、画面内にメリハリをつけることが出来ます。

撮影時に最終的な仕上げまで考えてシャッターを切っているかどうか、そこがポイントになります。明確な意志があって撮られたものは迷いなく仕上げまでいくものですが、そこがあやふやだと現像時にあーでもないこーでもないとなって、調整するスライダーを動かしてはこれで良いかと感覚的になってしまいます。そうすると複数の写真をレタッチするときに色の統一感が取れなくなるのです。

次回は撮影時に仕上げのイメージを作って撮影してみてください。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

7月の挑戦者その2:しらおかさん

漁港の堤防。写ってないけど海があります。
堤防の先(足元にもう1本、低くて短い堤防があります)にカモメが止まっていて、
写そうとしたら飛び立ちました。それから、雲も水(H2O)になると思いました。

しらおか
島根県在住。風景と自宅の猫を撮っています。PENTAX Krとsmc PENTAX-DA L 18-55mmF3.5-5.6 ALで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

堤防を歩く人、手前を横切るかもめ、海は写ってはいませんがその存在は確かに感じます。これだけでは分かりませんが日本海でしょうか?濱谷浩、木村伊兵衛・・・日本海側の地方をテーマに作品を残した作家は多いですが、やはり太平洋側と比べ何か違うものがありますよね。晴れているのになぜかどんよりとした雰囲気とでもいいましょうか、いつも日本海を見るとそんな印象を受けます。

画面の外にある海の存在を感じるという点で「水のある景色」であることは間違いありません。まぁ都市風景というかは難しいところですが、これまで述べてきたように「都市」という解釈は人それぞれなので良しとしましょう。とある写真論の本で私の好きなこんな一節があります。詳細は覚えていませんがこんな話だったと記憶しております。

ある写真家が撮影済みのフィルムを現像してみたらピンボケのミスカットがあった。それを見た知人は、「君、それはピンボケじゃないよ。世の中にピンボケなんてものは存在しないんだ。なにせこの写真は空気にピントが合っているじゃないか」と言うのです。

多少屁理屈のように聞こえるかもしれませんが、それは真理でもあります。要するに写真という媒体は捉え方一つでどうにでもなるとても曖昧なものということ。この作品を見てそんなことを思い返しました。同時に作者コメントから、こうした撮影外にも思考を巡らしていることを感じ採用に至った次第です。

ただ欲を言えばあともう一つ何か要素が欲しかったというのが正直なところ。看板でも人でも何でもいいのですが、単写真としてはちょっと弱い気がしました。さらにこの写真では、画面内の要素が中央に集まっているので余計に寂しく感じるのだと思います。理想論ですが、もう少し人が右にずれていたりすれば良かったと思います。

やはりこの独特な空模様を活かすべきです。レタッチ例では雲のテクスチャーを際立たせ、全体にコントラストを上げています。ただ、「コントラストを上げる=色の濃度を上げる」なので堤防のところだけは除外しました。この色調はとても良いと思うのですが、気持ち暗いかなと。

よくあることですが、写真は特に比較するものがあってはじめて気づくことが多いと思います。良いと思っていたプリントも明るくしたプリントを横に並べてみると暗かったことに気づくように。そんな時は自動補正をかけてみましょう。そうする事に気づかせてくれることが多いです。私も参考程度に、なるほど、こういう方向性があるのかと納得することがあります。次作に期待したいと思います。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

 

7月の挑戦者その3:capriさん

とても黄色が印象的だったので撮影した1枚です。
はとバスがとても良い仕事をしてくれました。

capri
埼玉県在住、男性。風景やスナップを中心に写真を撮っています。 週末はカメラ片手に歩きまわっています。 PENTAX K-1とHD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

ぱっと見いつも自分が築地市場の跡地を定点観測している、汐留の高層ビルからの眺めかと思いましたがちょっと違いました。普段ストリートスナップを撮っている方は、この遥か下でカメラを構えているのだと思うとなんとも不思議な気分。視点を変えるだけで街の見え方も変わってくる、非常に良い撮影スポットからの良作です。

昔と違いグーグルアースやストリートビューなど、今はいくらでも行ったことのない場所の景色をネット上で見ることが可能になりました。では今回の作品とそれらのどこが違うのか?それはずばり、写真の中に作者の意図が投影されているかどうかだと思います。今回は眼下の景色に散らばっている黄色が印象的だったと作者のコメントにあります。確かにヘリポート、点字ブロック、はとバスと黄色がよく効いていますね。

見る側としてはもう少し広域に見たいという心情もありますが、そうするとはとバスが小さくなって黄色に着目した視点が薄まってしまう、そのバランスが難しいところだとは思います。

気になったのは全体的に立体感がやや乏しいところ。スカイツリーからの眺めということで普段目にすることのないビルの屋上を走るダクト、室外機そういった無機質的な要素が多いのでそのテクスチャーは重要。レタッチ例では全体のコントラストも上げていますが、ビルの屋上だけややトーンカーブで暗くしています。それとややハイライトよりになっている地面など気になる部分だけノイズを入れることで馴染ませています。せっかくいい撮影データを手にしたのなら最高の状態で仕上げたいですよね、それは料理と同じです。いい素材を集めてもシェフの腕が悪ければ美味しい料理にはなりませんからね。

今回手書きコメントを書くスペースが写真になかったのでちょっと見づらいかも知れませんがご了承ください。画面左上に「白」と書いたのは、画面端に白いものがあると全体のイメージがしまらなくなるので避けた方が良いという意味です。白というのはそこから外に広がるイメージを与えるので、この作品には無いほうが良いでしょう。

それと一番勿体ないと感じたのは画面手前ヘリポートのあるビルに写った球体の存在。この反射が一種異様な雰囲気を醸し出していて、画面にインパクトを与えています。どうせならこのぎらついた球体をもっとアピールするような方向に持っていったら良かったと思います。これもレタッチ例を参考にしてみてください。

自分が気になった点をひとまず置いて、客観的かつ大局的に自分の作品を見てみましょう。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

師範より7月前半の総評

今回もレベルが高い良作が多く集まり、採用作品を選ぶのに時間がかかってしまいました。写真を撮る前に、お題についてよくよく考えること、そのプロセスが重要だと思います。ある程度写真の経験があれば、なんとなく絵になる写真を撮ることはそんなに難しい話でもないはず。ただそこにどういう意図・考えが含まれているかが問題になってくるのです。

今年は例年以上に暑さが厳しく感じます。次回のテーマ「水のある都市風景」はそんな夏の季節にぴったりのお題ですね。「水」というものをどう扱うか、そこがポイントですね!

記念品のお届けについて

しらおかさん、capriさんには「免許中伝ミニ木札」、あおベーさんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!

記念品は8月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

惜しくも選外となった、最終選考ノミネート作品をご紹介

今回惜しくも、最終段階で選ばれなかった作品の一部です。
残念ながら選外となりましたが、まだまだ後半の挑戦も受付中です!

〔クリックで写真が大きくなります〕

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