8月のお題は…『発見、地域の特色』

新納翔 師範

自分の身近な所に潜む景色をあたかも非日常の世界のように作品に切り撮る、そういう所にこそ作家性が出るのだと思います。景勝地で撮った写真も素晴らしいものですが、それは被写体が優れているからで作者の感性ではないということはよくあることです。

今回は自分の生活圏内を改めて見直し、自分で気づいていなかった驚きを探し出して来てください。景色というものは稀モノです。時間帯が違うだけでまるで別人のような顔を見せますし、細い路地を一本入るだけで素晴らしい景色が待っていたなんてことも。素晴らしい景色というものは撮影者の感性が作り出すものなのです。

新納翔 師範からの8月のお題は『発見、地域の特色』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

8月の挑戦者その1:FA43Lさん

近所の特色として、坂道が多いことが挙げられます。 時として、様々な表情を見せてくれ点に面白さがあります。

FA43L
神奈川県在住、男性。最近は夏に近所でセミの写真を撮ることを楽しんでます。 PENTAX K-01とsmc PENTAX-DA★60-250mmF4ED[IF] SDMで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

当たり前のように地面の上に敷き詰められているアスファルト、まさに街の表皮。太陽の光を受けて輝くマンホールが、さながらUFOのような謎の物体のようでもありとても印象的な作品です。この得体の知れない楕円と、急勾配の坂によって形がデフォルメされた道路標識の線によってとても面白い世界観になっています。

アスファルトの部分だけ彩度を落としたのでしょうか?道路上の模様がメインになっている作品なのでモノクロにすることでそれが強調され、良い判断だと思います。ただ部分的にモノクロにするのであれば、画面右・緑色のラインは色をもっと残せばメリハリがついたでしょう。

写真作品というのは、偶然出会ったシチュエーションをそのまま伝えるものと、心象風景に代表されるような自分の感じたイメージに寄せていく2つがあると思います。後者は、普段の景色を見るとなんでも無い場所なのに、作品の中ではまるで別世界のようなものと言えば分かりやすいでしょう。

この作品はそのどちらにするか迷いが捨てきれていないように感じます。その原因は画面上の電線と空の部分です。マンホールが並んでいる「抽象的」なイメージに対し、上部は「説明的」かつ「具体的」な街のイメージです。都市風景のニュアンスを出すために敢えて入れたのかも知れませんが、ここは思い切ってカットした方が良かったと思います。アスファルトの上に電線があるのはなんとなく想像できることなので、見る側が脳内補完するからこそ鑑賞する楽しみがあるというもの。

レタッチ例では抽象的イメージを強めるために画面を回転させて横写真にしてみました。もちろん縦のママでも良いのですが、私でしたらこうすると思います。抽象的な世界をより強調させることで日常の景色を異世界にする、こうしたことを通して撮影した景色を作品に昇華させるにはどうしたら良いのか考えてみましょう。

また、写真に書いた通り左上の線は入り方がやや中途半端なのでカットしました。さらにアスファルトのテクスチャーとマンホールを強調させるためにコントラストを上げています。

目の付け所はとても良かったので、撮影時になぜその場でシャッターを切ったのか再度考えてみましょう。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕



 

8月の挑戦者その2:click_more2020さん

写真の川はJR東海道線の跨ぐようにその上を流れる川の下り傾斜面です。自然河川の形跡も感じられない川ですが、町の人々には憩いの場となっています。

click_more2020
兵庫県在住、男性。身の回りの日常の風景と花を中心に撮っています。写真歴は約3年です。PENTAX K-5IIsとSIGMA 18-50mm F2.8 EX DC MACROで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

東海道線沿いの川ということですがどこなのでしょう、見知らぬ景色は場所が気になってしまいますね。川沿いを歩く人、水遊びに興じる人、さらに川の上流に広がる住宅地と情報量の多い写真です。画面内に見どころがたくさんあって情報量が多い写真は好きなのですが、うまく画面整理をしないと散漫な印象を与えかねないのが難しいところです。

この写真も非常にいいシチュエーションに出会っていながら、撮影時に画面整理がうまく出来ていれば評価が一段階変わったと思います。手前で水遊びをしている親子がいるかと思えば、川の両岸をあるく人にも目が行ってしまい見ている側からすると何がメインなのか分からないという印象を受けてしまいます。撮影時もう少し前に出て、ややローアングルから撮るべきでした。

レタッチ例のトリミングくらい攻めて良かったです。構図力は一朝一夕でつくものではありませんが、実際に撮る以外にも写真集などで色々な作品を見たり、自分の撮影データを見返すことでも養われます。撮ったら撮りっぱなしになっている人が多いですが、この見返す作業というものがとても重要なのです。何事もそうですが、自分の反省点を知らずに新しい写真を撮っても進化はありません。何度も何度も見返す習慣をつけましょう。

また、元の写真だと右下に大きな余白があります。ここに何かしらの意図があるのであれば意味のある空間になるのですが、この作品だとただ単にフレーミングの関係でできた余白になってしまっています。写真は瞬間を切り撮るものなので、こういった整理をカメラを構えてから瞬間的に行う、それにはやはり構図力なんですね。

画面奥に広がる住宅地を入れたのはとても良いと思います。水遊びをしている人たちは日が暮れるとあそこに帰っていくのかしらと、勝手に生活の営みを感じてしまいます。そういった見る側の想像力が働く作品を、広がりのある作品というのだと思います。

手書きコメントに書きました通り、住宅地を明るくその奥の森を暗くすることでより存在感が増します。他にレタッチした点としましては、川のきらめきを出すために範囲選択してコントラストを上げ、全体的にほんの少し(撮影時でいえば-1/3)暗くしました。

猛暑が続き撮影に行くのもしんどいような日は、できるだけ自分の撮影データを見返すようにしましょう。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

8月の挑戦者その3:あしろさん

夕方の奈良公園。道路を渡るのを諦めて一頭の鹿がこちらへ歩いてきました。 何気なくすれ違う様は普通に人とすれ違うがごとくです。 よくニュースやSNSなどでは愛らしく(時には猛々しく)鹿せんべいをねだったりしていますが、得にも損にもならない人間と見抜かれたのか、軽く目があってもそのまま私に構う事なくすぐ横をゆっくりと通り過ぎていきました。 お互い地元に溶け込んでいるのだなぁとなんとも言えない気持ちになった一瞬です。

 

あしろ
奈良県在住、女性。2児の母兼会社員。育児家事仕事優先の生活なのでその隙間でいかに「発見!アンテナ」を伸ばすことが出来るかを修行中です。 PENTAX K-3 Mark IIIとHD PENTAX-DA55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR REで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

野生の鹿が街なかを闊歩するシーンはやはりインパクトありますね。奈良ならではシーンを見事に収めています。この作品の良いところは、一つの画面内に色々な向きが存在しているところにあります。鹿の目線、左折レーンの矢印、そして作者の視線ですね。こういう「向き」が交錯する様を見事に切り撮っている点が実にお見事。また作者コメントの内容が人柄を表しているのかとても微笑ましくなりました(加点ポイント)。

この作品の第一感は色が浅いということですね。歩いてくる鹿がメインであれば、なるべくその他の明るい所はおとしてなるべく主役をもり立てましょう。レタッチした際の明るさに関する調整レイヤーを載せておくので参考にしてください。特に画面の一番手前が明るいと目立つので注意が必要です。ただやり過ぎは禁物、レタッチというのは細かい調整がなされていても何もしていないように見えるくらいナチュラルにやるものです。

投稿作品とレタッチ例を見比べれば部分的に暗くなっていることは分かると思います。コツは境界を悟られることなく、さり気なく処理することです。

ちなみに調整レイヤーの白と黒のモヤモヤっとした四角いアイコンがマスクと呼ばれるものです。白い部分がトーンカーブや彩度などが適応されているところで、黒い部分は適応外であることを示しています。グレーの部分はうっすら適応している部分です。例えば一番下のレイヤーは鹿に赤みを足しているのですが、白い部分は鹿さんですね。トーンカーブと彩度レイヤーがセットなのは、暗くすることで色が濃くなるのを調整しているせいです。マスクはレイヤーと並んでPhotoshopの根幹を為す機能といっても過言ではありませんので、よく理解すると良いでしょう。

次の鹿さんの角度ですが、ちょっと動きが無いせいか置物のように感じてしまいます。こういった場合は少しだけ角度を付けてあげると躍動感が出ます。レタッチ例を見るとより歩いている感が出ていると思います。普段から垂直・水平を出すように言っておりますが、時に傾けることが効果的な場面もあるわけです。

最後に色調を私の好みですが、少しだけいじりました。コメントに夕方とあったので、日が沈みかけ夜へと移ろう街ということを意識した色調です。

ちなみにレタッチで鹿を強調させる代わりに、撮影時にやや中腰くらいのアングルから撮れば道路の抜けも良くまた違った写真になったかと思います。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

 

師範より8月前半の総評

意外と自宅の半径1キロを撮らない人って多いように思いますが、皆さんはどうでしょうか?近所というものは自分の住んでいるエリアだけに特に変化がないようで、カメラを持って歩いてみると意外とあったはずの家が解体されていたり、都心と同じように激しく変化しているものです。常にアンテナをはって小さな変化を見過ごさないが重要です。

記念品のお届けについて

FA43Lさん、あしろさんには「免許中伝ミニ木札」、click_more2020さんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!

記念品は9月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

惜しくも選外となった、最終選考ノミネート作品をご紹介

今回惜しくも、最終段階で選ばれなかった作品の一部です。
残念ながら選外となりましたが、まだまだ後半の挑戦も受付中です!

〔クリックで写真が大きくなります〕

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