9月のお題は…『未来を撮ろう』

新納翔 師範

子供の頃にアニメで見た、自動車が空を飛び透明なカプセル型の高層タワーが立ち並ぶような未来はまだ来ていませんね。それどころか令和の時代でも昭和は至る所にその面影を残しています。その一方で予想を遥かに超えて進化したものもあります。

街を歩いていると、未来の片鱗を感じさせる光景に出会うことがあります。今回のお題は「未来」。皆さんがふと感じた未来を切り撮って投稿してください。未来という言葉はどこか希望を感じるのは私だけでしょうか。こういう時代だからこそ明るい未来の片鱗をお待ちしております。

新納翔 師範からの9月のお題は『未来を撮ろう』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

 

9月の挑戦者その4:gucciyugoさん(他流挑戦者)

裸で並んでいたセールのマネキンが型落ちの人間型ロボットに見えました。今回のお題を見て、未来このような風景が日常になるのではと、面白い反面怖さも感じました。

 

gucciyugo
神奈川県在住、男性。三度の飯より写真が好き。 CANON EOS 80Dと SIGMA 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSMで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

街中のウィンドウを撮影したリフレクション写真はよく見かけるのですが、これは個性光る作品に仕上がっています。一辺倒になりがちなウィンドウ写真ですが、見事にオリジナリティを確立している点を評価したいと思います。

作者のコメント「型落ちの人間型ロボットに見えた」というのが本当にしっくりきますね。色々な仕草をした顔のないメタリックなマネキン達の質感によって、AIに駆逐された将来の人類にも見えてきます。マネキンだけだとモノトーンな世界ですが、そこに色鮮やかなSALEのフィルムによって作品に面白みが出ています。

こういう素直なスナップスショットを見ると、写真を撮ることに心から楽しんでいるのだということが伝わってきますね。普段から作品にしなくてはと頭が固くなっているだけに、もっと身体で撮ることも必要だと自戒の念に駆られる次第です。

この作品、最終的な仕上げがもう少しうまく出来ていれば免許皆伝でした。ほぼ免許皆伝寄りの中伝です、惜しい!大まかなことは図解に書きましたが、ちょっと欲張り過ぎてしまったかなというのが第一感。SALEの文字とマネキンの対比構造を狙ったのは良いのですが、文字情報というものは鑑賞者からすると強いものなのでもう少し控えめにするべきでした。

レタッチ例のように文字が切れていても何が書かれているかは分かるものなので、あくまで主体がマネキンにあるということを示すべきです。左下の隙間も気になるところなので思い切ってトリミングしてしまいましょう。

全体的に撮って出し感があるので、マネキンの質感と画面全体の立体感を上げるようにレタッチできていれば作品のクオリティも一気に上がると思います。メタリックさはハイライト部の強さに左右されるので、レタッチ例ではマネキンのハイライト部だけを強調させています。それとやはり「ノイズ」を追加することです。

モニタだとその違いは分かりにくいので多めにかけていますが、プリントするとその差は歴然です。Photoshopにおいてもノイズを使うシーンはとても多いので、是非意識してみてください。

作品として見せることを意識するならば、撮ることと同じくらい後処理も重要なものです。その点も踏まえて撮影を続けてみてください。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

9月の挑戦者その5:社員salさん(他流挑戦者)

複数の看板に同じ広告が出るのは未来を感じます。LightRoomでトリミングをしてコントラストを上げています。

社員sal
神奈川県在住、男性。商品の企画などしています。写真(カメラ)好きのカメラ(写真)オタクです 。RICOH GRIIIxで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

お見事!

新納翔 師範からの添削コメント

正直に言うと、この写真を見て「悔しい、やられた!」と思いました。都市風景を撮っている者として、これは渋谷東口の景色だということは分かりますが、自分も渋谷を撮っていながらなぜこの場所を発見できなかったのか、写真家として悔しさを感じる次第です。完敗です、免許皆伝としか言いようがないです。

同じ街を撮っていても、どこから撮るか、どこから撮れるのかをどれだけ知っているかで写真の幅が違ってきます。言い換えれば、作者が街との関わりに費やした時間がそこに現れるわけです。写真の面白みの一つは、その景色の第一発見者になることにあると思っています。そこにこそ大きな価値があるのです。

一年以上前、道場を担当するようになって初めて見た作品からすると、本当に上達なさったと感じる次第であります。前回の羽田の写真もそうでしたが、これはその場の面白さだけでなく、しっかりとそれを自分のフィールドに落とし込んで、決して借りてきた景色にしていないところが見事だと思います。このレベルが撮れるようになったら、次はいかにまとまったオリジナルのテーマで写真作品を制作するかというフェーズに移行してみるべきでしょう。

都心の雑居ビルは好き勝手看板をだしているようで、文字情報を消して色だけに注目して見てみると実にカラフルで面白いものです。この作品の面白さはその点と、電光掲示板の女性にあります。とくに3つの電光掲示板がそれぞれ同じ画像を出していながら違う向きに設置されていることで、かつてのプロパガンダのようにも見えて実に現代東京を切り撮った素晴らしい作品になっていると思います。デジタルサイネージの無機質感が未来を感じさせる一枚です。

若干惜しいと思うのは、上記の点を活かすのであればビルの明るさ・彩度をもう少しはっきりとさせた方が良かったのではと思います。一番良いのはより遮光状況の良い時間帯に撮り直すことですが、レタッチでできる範疇でもより良くなると思います。その点はレタッチ例を参考にしてみてください。

もう一点。画面下に手前のオブジェクトが写っていますが、これはトリミングで無くした方がよりこの写真の良さを引き出すと思います。まさにジョージ・オーウェルの「1984」のような世界観。

自分だけのテーマ探し、これからがスタートラインという気持ちで頑張ってください。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

9月の挑戦者その6:ぺんたかった?

全国でコロナが蔓延し、渚のドライブウエー千里浜も観光で訪れる人がめっきり減っていました。浜の高所の駐車場に止まったマイクロバスから10人ぐらいの僧侶姿の人達が降りてきました。みんな若い方々なので多分、修行の旅の途中の休憩なのでしょう。写真のふたりの方は波打ち際まで進み遠くを見つめながら、僧侶として修行を積んでゆく自分たちのこれからを、未来をそして今を、静かに語り合っているように見えました。

 

ぺんたかった?
石川県在住、男性。1997年54才の時 MZ-5 リバーサルで師につかず自己流で写真を始める。ISO400のポジフイルム製造が中止となり、K3-Ⅱでデジタルに転じる。演出・やらせは一切せずに、自然体でなんだかいいなあと思ってもらえる写真を目指しています。2022年現在78才。PENTAX K-3とsmc PENTAX-FA★80-200mmF2.8ED[IF]で撮影。

 

師範の判定結果は・・・

お見事!

新納翔 師範からの添削コメント

僧侶の方が2人、波打ち際で何かを話しているのでしょうか。右側の方は遠くを指さしているようです。非常に面白いシーンをうまく切り撮りましたね、これは文句なしで免許皆伝です。おめでとうございます!

俗世を断った僧侶という存在がこうして普通のビニール袋を持って彼方に見える景色を珍しそうに見ているという日常の光景と、袈裟が醸し出す非日常感の対比がとても印象的な作品にしているのだと思います。時々見かけるスクーターに乗っている姿なども、どこか違和感を抱いてしまいます。日常と非日常が逆転し、シュールともいえる光景にどこか未来を感じますね。一見シンプルに見える一枚の中に、多くの情報がつまっており、見ごたえ十分な作品に仕上がっています。

免許皆伝と言いながらあれこれ言うのもなんですが、さらに良くするにはどうしたらよいのか考えてみましょう。色調に関しては好みなのでこのままで良いのですが、若干くすんでいるのでパキッとコントラストを上げても良いかと思いました。

レタッチ例では海面のきらめきを強調し、空のくすみを取っています。さらに僧侶の方が奥を指差しているとおり、奥へと向かう写真なので手前を少しだけ暗くしました。こういうレタッチは空の部分だけを選択するように、部分的なレタッチを繰り返すことになります。撮って出しの写真から、より自分の作風に近づけていくためのテクニックですね。繰り返しになりますが、これは元の色調も日本海特有の味があるのでどちらが正解ということはありません。

一番気になったのは図解した通り、2人の僧侶の左右にできた空間のバランスがやや中央よりになっているところです。画像サイズを見る限り、オリジナルからトリミングしアスペクト比を変更していると思うのですが、もう少しメリハリをつけて右の空間を狭くした方がおさまり良く感じたでしょう。

トリミングのせいですが、やや全体的に窮屈に感じるのは否めないところ。横に広がりを感じる写真なので、アスペクト比は2:3のままで良かったのではないかと思います。

免許皆伝の中でもとても印象に残る素晴らしい作品でした。道場は今回でラストですが、これからも素敵な作品を撮りつづけてください。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕



師範よりPENTAX道場にご参加いただいたみなさまへ

去年の4月から一年半近く担当させて頂きましたPENTAX道場も今回でラストとなりました。途中から私のワガママでメーカー不問とさせて頂き、様々な方に投稿していただき講評する側としても楽しい道場でした。皆様から集まる写真から学ぶことも多く、私としても大変有意義であったと、今振り返っています。

カメラ人口は増える一方、写真雑誌やフォトコンも減ってしまい、学びの場としてだけでなく発表の場という意味でも何らかのお役に立てたのであれば幸いでございます。投稿作品を見ていても、驚くほどレベルも上がりました。

気づけば20数年、今年40歳なので人生の半分を写真に費やしてきました。何が面白くて続けているのか分からないという気持ちもありますが、やはり写真というものは撮影行為自体よりも何か新しい発見をし、それを他者と共有するということが大きいのだと思います。

道場は一旦閉鎖となりますが、またどこかで皆さんとお会いできることを願っております。私自身も引き続き新作を発表できるように頑張って参りますので、SNS等をたまに覗いて貰えれば幸いです。

記念品のお届けについて

ぺんたかった?さん、社員salさん、免許皆伝おめでとうございます!「免許皆伝看板」「免許皆伝ミニ木札」をお贈りします!
gucciyugoさんには「免許中伝ミニ木札」をお贈りします!

記念品は10月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

最終回特別選考!最終ノミネート作品をご紹介

最終選考で惜しくも選ばれなかった作品をご紹介いたします。
今回でラストなので、特別に新納師範の一言コメントをいただきました!

〔クリックで写真が大きくなります〕

編集長Yuzuよりみなさまへ

Yuzu
完全にデジタル世代のPENTAX official編集長。新たにECサイト業務を手探り中、そのほか製品プロモーションやコンテンツ制作、イベント担当。撮影機材おたくで、座右の銘(?)は「機材を買う前に悩むくらいなら、買ってから支払いに悩む」。愛用の機材は、PENTAX K-3 Mark III、J limited 01、MX
2019年10月よりスタートした「PENTAX道場」も丸3年を迎えここで一区切り、終了を迎えることとといたしました。新納師範の挑戦者さまの写真への向き合い方、その熱意は我々の想像を超えていました。気軽に「そろそろ添削終わりそうですか?」なんてLINEすると、「昨日悩みになやんで採用作品を選んで添削したのですが、またあらためて今日見返してみて悩んでいます」そんなのメッセージが返ってきて「ひゃー、これは大変失礼しました!」なんて具合です。きっと挑戦者の皆さまの写真に対してもそんな冷静で、愛情深い眼差しを向けられていたのだと思います。

 

PENTAX道場に“他流試合”として、他社ユーザーさんまで巻き込んでいくアイディアは、新納師範からもたらされたものです。

「写真を大切にしているPENTAXなら、そうあるべき!」と。

短い期間ながら、“写真”という共通言語のもと少しでも関わり合いを拡げることができたのなら本懐です。

またPENTAX official内にかかわらず、オンライン上で多くの方に楽しんでいただけることが企画できたらいいなぁ…。

 

約3年にわたり「PENTAX道場」に挑戦いただいた皆さま、挑戦者の行く末を見守ってくださった皆さま、そして新納翔師範をはじめ歴代師範を務めてくださった写真家の皆さま、これまで本当にありがとうございました!この場を借りて御礼申し上げます。