春先は雨天や曇天が多い。しかも花粉や黄砂で気持ちも空気も澱みがち。春霞といえば聞こえはいいが、まったく困ったものである。
しかも K-3 Mark III を持ち出すときに限って曇り時々雨の予報ときたもんだ。昨年は開き直ってカスタムイメージを「Gold」にして黄砂舞う松山を撮影してみたが、毎回同じでは芸がない。普段わたしは K-3 Mark III のカスタムイメージは「里び(SATOBI)」をベースにホワイトバランスで変化をつける方法が気に入っているが、そういえば里び以外のカスタムイメージはほとんど使用したことがないな、ということに気づいて今回はさまざまなカスタムイメージを試してみることにした。
向かったのは亀戸。はじめて降り立つ地である。
駅前の路地を進んでゆくと、行けども行けども飲み屋か餃子店。これはいい。思わず「すみませーん」と暖簾をくぐりそうになるが、いやいや今日はフォトウォークに来たのである。わたし自身を含め、いくら酒の消費量がやたらと多いメンバーが揃っているといえども、歩きはじめて3分で酒場に突入してはフォトウォークではなくただの飲み歩きになってしまうではないか。ぐっと足を踏みとどめてそのまま商店街方面へ。
亀戸は露天の八百屋が非常に多い。またそれぞれの店の規模も大きく値段も手頃であるため、地元の人間のみならずわざわざ車でやってきて買いにくる人々も多い印象。普段目にすることが少ない肉の部位や調味料などを揃える商店も多く、どこか異国の雰囲気を味わえる街である。
そんな街なかで仲良くお買い物袋を持って歩くカップルを後ろから撮らせてもらう。さてはて、曇天ということでコントラストがつきにくい場面。まずは定番の「里び(SATOBI)」を少々アレンジ。
ホワイトバランス:マルチパターンオート(G6:A2)
カスタムイメージ:里び(SATOBI)
・彩度:+4
・色相:+2
・キー:0
・コントラスト:+4
・コントラスト(明部):0
・コントラスト(暗部):+2
・ファインシャープネス:0
デジタルフィルター: シェーディング
里びの渋さは好きなものの、それをベースに真逆のカスタムを加えるのもまた一興。あえて彩度とコントラストを上げることによって渋いながらも厚みを感じさせるような仕上がりを楽しめるのがこのアレンジの楽しいところ。ホワイトバランスを変更するだけでも大幅に印象が変わるので、ぜひ試してみてほしい。
住宅街を抜けて、参道らしくない参道を歩いてゆくと、亀戸香取神社へ辿り着く。3月も中旬ともなると梅の見頃もそろそろ終盤。鈴なりになって咲くかわいらしい梅を撮りつつ、隣の桜の木を見やるとそろそろ蕾もふくらみはじめているようだ。そろそろ花見の計画を立てなければ。と、なると春酒はなにがいいかしらと頭はすっかり花見モードへ。春は花粉も多いが楽しみも多いもの。
ホワイトバランス:マルチパターンオート(M3:B7)
カスタムイメージ:ほのか
・彩度:+3
・色相:C
・キー:+1
・コントラスト:-2
・コントラスト(明部):0
・コントラスト(暗部):+3
・ファインシャープネス:-2
デジタルフィルター: シェーディング
カスタムイメージは「ほのか」に設定して全体的に柔らかいイメージにしつつ、ホワイトバランスで青みと赤みを強調、さらに色相でシアンに設定して透明感をプラス。桜にも応用できそうなアレンジだ。
次は本日の目的地のひとつでもある亀戸天神社へ。藤棚で有名な場所ではあるが、境内は梅と椿の見頃を迎えていた。塀の飾り穴から椿の枝が顔を出し、その先にさらに花盛りの椿の姿。smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited で塀の向こう側へピントを合わせると、少々面白い構図になった。が、輝度差とさらに曇り空とはいえ逆光である。HDレンズに買い換えるべきなのだろうが、 smcレンズでは盛大な色収差が出現してしまったため、もうここは奥の手。モノクロにしてしまおう。
カスタムイメージ: モノトーン
・フィルター効果: IR
・調色: 0
・キー:+ 2
・コントラスト:+ 3
・コントラスト(明部): – 4
・コントラスト(暗部): – 1
・ファインシャープネス: + 1
デジタルフィルター:粒状感モノクローム
梅の花びらがはらはらと舞い降りてきたので、見上げると立派な梅の木の枝にヒヨドリ。まるで日本画のようではないか。下手な鳴き真似をしてこちらを向いたところを撮影。大きく空へ伸びる梅の枝ぶりが見事。ほとんどモノクロに近いトーンだが、ここは「銀残し」を使ってみようと思う。
ホワイトバランス:曇天
カスタムイメージ: 銀残し
・彩度:-2
・調色:0
・キー:-1
・コントラスト:0
・コントラスト(明部):-2
・コントラスト(暗部):-2
・ファインシャープネス:-1
デジタルフィルター: シェーディング
亀戸天神社を出て錦糸町方面へ。信号待ちをしていると民家の軒先に雨宿りをするようなバラが一輪。ここは元々ある青みを印象的にしたかったのでクロスプロセスを使用してみたが、思ったとおりの画作りが叶った。
ホワイトバランス:マルチパターンオート(G6:A2)
カスタムイメージ: クロスプロセス P1
デジタルフィルター: シェーディング
さて、いつのまにか降り出した雨も強くなってきたし、そろそろ酒場へ向かってもいい頃合いだ。その前に公園で何枚か。早くも白木蓮が咲き始めていた。青空の下での白木蓮もゴッホのアーモンドの木を連想させていいが、雨空でもそのあたたかみのある白さが際立っていいもの。よりソフトな印象になるように意識して施した設定は以下。
・ホワイトバランス:曇天
・カスタムイメージ: ほのか
・彩度:+2
・調色:M(マゼンタ)
・キー:+3
・コントラスト:-2
・コントラスト(明部):0
・コントラスト(暗部):0
・ファインシャープネス:-2
・デジタルフィルター: シェーディング
ふと前方を見やると雨の中わざわざ傘をさしてベンチで休む親子の姿。海外でも何度か見かけたことのある光景だが、好きな場面である。柔らかな雰囲気にしたかったので、カスタムイメージは「Gold」に設定。そのままだと黄みが少々強いため、ここではあえてホワイトバランスを「昼白色蛍光灯」にした上でカスタムイメージを充てている。
ホワイトバランス:昼白色蛍光灯
カスタムイメージ: Gold
・彩度:+1
・色相:-4
・キー:+2
・コントラスト:-2
・コントラスト(明部):0
・コントラスト(暗部):+1
・ファインシャープネス:-3
デジタルフィルター: シェーディング
写真で自身の理想とする画作りをする、というのは以外と難しいことかもしれない。しかしながらカスタムイメージを使用することによって「この色味がなんとなく好きかも」という画作りのベースとなる色味が見つかれば、どのような方向性が好きなのか、というヒントになるのではないかと思っている。今回はデフォルトのカスタムイメージだけでなく、ホワイトバランスやそれぞれのパラメーターを細かく調整することによって、より「自分好み」を追求しているが、撮影方法だけでなく、撮影後にRAW現像をしてみることで、自分自身の「画」が見えてくるものだと思っているので、ぜひ試してみてほしい。
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