こんにちは
カメラオタクで写真マニアでもある、商品企画もやっている大久保(以下O)です。
今はなかなか旅行に行けない状況ですが、旅先で写真を撮ることは多いですよね。
よく考えると、旅行では「旅先」ではよく撮りますが、道中はあまり撮らないです。飛行機だったり電車だったりで現地に着くまでは閉ざされた空間にいます。
そういう旅は出発点と目的地の2か所しかないわけです。
昔に目を向けると徒歩なので、その途中の過程も記録に残します。例えば「東海道五十三次」は宿場町ごとに浮世絵にして記録しています(>>東海道五十三次)。
この場合、日本橋から京都に行く旅だとすると54か所の点になるわけです。
その東海道は現在国道1号線になりましたが、そこを38日間かけて歩いて写真を撮影した人がいます。原向日葵さん(以下H)は出発点である日本橋と目的地の大阪の間を写真で数千枚も撮影しています。点と点ではなく、連続する線を記録しているように思います。
原向日葵
1996年 島根県生まれ
2020年 東京工芸大学写真学科卒業
2020年 第44回フォックス・タルボット賞 佳作
2020年 第22回1wall展 審査員奨励賞 増田玲 選
2020年 小学館スクウェア写真事業部入社
>>HIMAWARI HARA HP
写真展
2019年 東京工芸大学写真学科スペシャル2019 (ソニーイメージングギャラリー銀座)
2020年 第44回フォックス・タルボット賞受賞作品展(写大ギャラリー)
2020年 卒業制作選抜展2020(ニコンプラザ新宿)
2020年 写真と本 / 本と写真 (AXIS ギャラリー)
今リコーイメージングスクエア東京ギャラリーRで開催されている原さんの写真展「ROUTE1」(>>写真展情報)は日本橋を出発点として、ぐるりとギャラリーを回って最終地は大阪です。
*1:大きな写真 関東
*2:最も大きな「しまむら」の写真 神奈川
*3:立体物(看板のような写真)と横一列の小さな写真 神奈川、静岡
*4:大きな写真 関西
なんと、700kmを歩いたそうです。原さんはなぜ700kmも歩いて道程の写真を撮ったのでしょうか?
<行かないと見えないこと>
H:大学入学時に島根から東京に上京してきました。帰省などで飛行機や新幹線をよく使うようになったのですが、わずか数時間で移動ができることに違和感がありました。
わずか数時間で急に島根から東京に、東京から島根にいることが怖い事のように感じたのです。
それは、ものすごく距離が離れているのに、そんなに短縮しちゃっていいのかなという気持ちです。
私は飛行機に乗っている間や移動先についてから、どういう道を通ってきたんだろうとスマートフォンの地図アプリで確認するのが好きです。自分が何県の何市にいるのかが気になるのです。
アプリをじっと見ていると、飛行機で短縮した間に何かがあるのではないかと思い、見てみたい気持ちが出てきました。
そして、東京から島根まで距離はあるけど、道は1本でつながっていると漠然と気づいたのですが、それを見に行かないと気が済まないようになっていきました。
上京してから使っていたバイクが不要になったので、そのバイクで島根まで帰ったのが今回の撮影につながる、きっかけです。その時は1週間くらいかけて島根まで帰りました。
O:宿泊場所とか予定を組んで、帰えられたのでしょうか?
H:予定なしの行き当たりばったりです(笑)。ブッキングアプリを使いました。ゲストハウスだと到着が夜でも泊めてくれましたね。その時、作品を創ったんですけど、原付だと運転しないといけないし、早すぎるので見逃してしまう気がしました。
O:最初は東京から島根でしたが、今回の作品は東京から大阪ですね。
H:バイクの旅の時に1号線をスタートの東京と大阪でも走って、印象に残ったのです。1本の道でつながっているというのを痛感しました。そのあと1号線について調べて東海道がベースになっていて歴史がある道ということを知りました。がぜん興味がわいて、現代版東海道五十三次ではないですが、見に行くしかないと思いました。
O:東海道五十三次は意識されたのですか?国道1号線をすべて歩いたという事なんですね。
H:東海道五十三次はそういうのがあるなという程度です。バイパスで国道が切れている所は迂回しましたが、全部歩きました。大学4年生のころは時間と体力はあるので700Kmくらい歩きました。
O:撮影は一回の旅で撮り切ったのですか?
H:いいえ。3日間のセットでやっていました。3日間歩いて東京に戻り、また次の週に前回の終着点から3日間歩いて戻る。これを繰り返しました。延べ38日間です。
O:それなら私にもできそうです(いやできない、、)。どんなカメラを使われたのでしょうか?
H:中版フイルムカメラのPENTAX 67でネガフイルムを使いました。3日間で30本持っていきます。小型の三脚も持っていきました。時間を短くして小さいカメラでもできるのですが、今回の旅では持っていける範囲で、できるだけ重いカメラを選びたかったのです。
O:もてる範囲でできるだけ重くというのは矛盾していませんか?
H:4×5の大型カメラではさすがに終わらないと思いました。時間を短縮していることで見えなくなっている物を確認するのに、楽をしてはいけない気がしたのです。
O:PENTAX 67だとフィルム1本で10枚しか撮れません。楽をしたくないからフイルムで行ったのですか?
H:デジタルカメラで無限に撮れたり、その場で画像を確認するのがこの作品には合わないと思いました。3日間行って帰ってきて、時間をおいてフィルム現像して写真を見ます。わざわざ時間をかけて確認するのです。どんな感じに撮れただろうと考えながら歩くのが良いのです。あとから見返して、こういう事があったなとか、ちょっと忘れていた出来事や気持ちを思いだします。そしてそれを文章として書いているのです。撮影した結果を持って帰る良さがあります。3日間の撮影と時間をおいての現像と確認をルーティン化して作品を撮り続けるのが性に合っています。ルーティン化することで、撮影に行かないといけないと思うようになるのです。行かないと見えないことがこの作品で最も重要になっていることだと思うので。フィルムが最も合っています。
以前インタビューした嶋田さんは軽い一眼レフカメラを持って車での移動でした(>>ロードムービーと写真「そこ一里」)。同じ場所を車で何回も通う形式でしたが、原さんは1回を徒歩で時間をかけ、重いカメラで撮影しています。そこには「行かないと見えないこと」に対する重要さを写真に込めているように感じます。
嶋田さんは日常に潜む違和感を写真にしていましたが、原さんの「行かないと見えないこと」とは何でしょうか。もうちょっと昔を紐解いてみたいと思います。
O:原さんは大学で写真を勉強していますが、なぜ写真学科を選択したのでしょうか?
H:高校時代で勉強していた方で、大学を選ぶときに偏差値から考えていました。勉強したいからではなく、消去法で考えていました。最初は農学部に行こうと思っていたのですが、こんな根拠のない理由で選んだ学校では4年間勉強が続くとも思えなくて、一生後悔すると思い始めました。
親に気持ちを伝えたら、1年間アルバイトしながら進路を考えてみてはと言われたのです。そして、実際に大学に行かず、1年間バイトをしながら、やりたいことを探しました。
私はもともと映画やドラマ、遠くに行って知らない風景を見るのが好きでした。きれいだなと自分が美しいと思うものを見るということが好きなんだと気づきました。例えば、高校の部活の帰り道に星のきれいなところに寄り道をしたりしていました。
急に気が付いたわけではないのですが、フリーターの時に私は写真やカメラに興味があると、ジャンルを絞れるようになったのです。よく考えてみたら、写真とか、美術とかに触れてこなかった人生で、本当に興味があるなと、知らない新しいことを勉強したいと自分で思うようになったのです。
O:大学受験に失敗したわけでもないのに1年間の時間を設けたのはすごいですね。そこで自分のやりたいことを見つけたのですね。
原さんは明確に自分のやりたいことを持ち、それを実際に探究してきています。道の途中に何かがあると思い実際に行動した。それが「行かないと見えないこと」なのかもしれません。
<ロードフォト>
O:展示されている写真にはところどころにランドマークが入っていますね。散文的ではなく、場所がわかるようになっていると思いました。
H:今回の展示をするときに、時間順に並べるか、時間軸を崩してばらばらにするか悩みました。この展示全体を通して観客の皆さんに感じてもらいたい事は、歩いてきた道の追体験です。それができるような展示にしたいと思ったときに撮った順番に並べるべきと思ったのです。その場合、ある程度土地を指定できるものが入っている写真を選ばないと伝わらない。なので、東京とわかるもの、最後は関西とわかるものを入れています。ただ目立つように入れず、よく写真を読んでくれたら、気づくような構成にしました。
O:大きな写真の並びから、この大きく目立つ「しまむら」の写真の裏に行くとガラッと展示が変わりますね。
「しまむら」の写真
H:展示の配置を考えるのは、結構自分の中では難しかったです。1枚1枚をしっかり見た時に中央の大きな「しまむら」の写真が自分の中でターニングポイントになっています。あそこから裏に行くと東京から神奈川になります。東京から神奈川は序盤で、大阪までただ歩けばいいという思いで進んでいたのですが、あの写真が「行かないと見えないこと」とはこういうことだと最初に気づかせてくれたのです。
東京の「しまむら」は文字がピンクでファッションセンターなのですが、この土地の人にとって「しまむら」の文字は緑でスーパーなのです。こういうのは行かないと気が付かないのです。
そこから旅が楽しくなり、加速して行くのですがそれを追体験できるように展示を構成しています。
一つは立体物の周りを歩くことで、写真を見るためにしゃがむであるとか、裏に書いてある文字と表の写真を比べるもらうために足を動かします。ライティングも自分の影が写真や下に入るようにセッティングしてあります。
もう一つは横一列の小さな写真を連続的に見ることで1本道を歩いているイメージを持てるようにしています。一列の写真はシークエンス(連続性)を意識して並べています。色や形のつながりだったり、煙が霧になったりなど流れを作っています。そして、最後は大きな写真の展示で落ち着いて終わるという形にしたかったのです。
展示されている写真は東京から大阪までの流れがあり、途中の土地での原さんの発見や思いを知ることができます。
出発の東京と終着の大阪の写真は壁に大きな写真を据えています。途中の神奈川、静岡は立体的な写真、横一列の小さな写真を展示して展示を見る人の行動に変化を持たせて、旅の追体験ができるようになっています。実際に写真の立体物は見る位置を変えると見え方が変わります。
[立体物の表には写真、裏には文章が記されている]
こういった会場全体を使った展示はインスタレーションと呼ばれる形式で、会場全体が一つの作品になります。実際にギャラリー来ていただかないと体験ができない展示です。
ギャラリーに足を運んで体験されてはいかがでしょうか。
原さんの「ROUTE1」はリコーイメージングスクエア東京では4/26まで開催されます。その後、5/20~5/31までリコーイメージングスクエア大阪で展示予定です。
大阪のギャラリーは東京のギャラリーとは形が違います。また、東京が出発点で大阪は終着点です。
つまり、展示構成は変わるはずで、同じ名前の展示ですが別の作品と言ってよいと思います。大阪での展示が大変楽しみです。
インタビュー後半では写真の内容とインスタレーションについて少し掘り下げたいと思います。
リコーイメージングスクエア東京/大阪では、新型コロナウィルス感染症拡大予防対策の一環として、ご来館いただく際以下のご協力をお願い致します。
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