こんにちは

最近、新品のカメラと写真集を購入して気分が上がっている、元千葉県民の大久保(以下O)です。会社ではひそかに商品企画もやってます。

皆さん写真はどこで撮影していますか?
コロナ禍でなければ、今の季節だと名所の桜とか撮りに行く感じでしょうか。その場合ネットで桜の名所を調べるかもしれないですね。
そういう場所は初めていく場所を優先すると思います。つまり、今まで見たことのない何かを撮りたいという欲求があるのでしょうね。
旅先で写真を撮りたくなるのはそういうことだと思いますし、実際に知らない場所に行くと知らない何かに出会う確率は上がると思います。
また一眼レフで撮影を考えたらレンズの選択をどうするか考えますね。桜だから広角で全体を押さえて、マクロレンズで幹に咲いた桜を撮ろうとか。

でも、写真を撮影し始めてから長期にわたり同じ地域を同じ機材で撮影している写真家がいます。嶋田篤人さん(以下)です。
嶋田さんは個展を4回開催していますが、今回の「そこ一里」(>>写真展情報)を含め、すべて千葉の房総半島で同じ機材(35ミリ判銀塩カメラ、50mmレンズ、モノクロフィルム)を使って撮影しています。

遠距離からすぐ近くのものまで、さまざまな被写体を写真にしていますが、千葉らしさを感じません。
35点の作品のうち唯一場所がうかがえるのは雀島の写真(一番左の写真)で、私も撮りに行ったことがあります。形が独特でSNSでイイネを結構もらった記憶があります。
ただ、展示の写真は車の車内から撮影しているのか窓に雨滴があります。ピントは雨滴に合わせてあり島はピントから外れています。様々な雀島の写真を見ましたが、これはなかなか独特です。

:雀島はずっと撮影しているのですが、なかなか自分の作品にできないのです。なぜなら雀島の形があまりにも完成されていて、立ち位置を変えても変化がつけられない。
誰が撮影しても同じになりがちなのです。

だから、そのまま撮るというのがなかなかできず、雀島そのものというよりも「雀島を見ている私」というところにフォーカスを当てて撮影しました。結果として納得いくものになったと思います。

嶋田篤人

 

 

 

 

 

 

 

 

1989年 千葉県生まれ
2011年 東京工芸大学芸術学部写真学科卒業
2011年 主に房総半島を撮影。ゼラチンシルバープリントを制作し作家活動を始める。
2011年 「塩竈フォトフェスティバルポートフォリオレビュー」特別賞
2013年 「ゼラチンシルバーセッションGSS フォトアワード」グランプリ
2015年 「東川国際写真フェスティバル赤レンガ公開ポートフォリオオーディション」準グランプリ
2017年 「CANON GINZA presents SHINES」 濱中敦史 選

写真展
[個展]
2016年 「堰を切らぬ廐」(PondGallery / 東京)
2016年 「思わぬ壺」(Alt_Medium / 東京)
2018年 「待つ」(Alt_Medium / 東京)
2019年 「知る由」(Alt_Medium / 東京)

内藤明氏との対談はこちら(>>特別対談
AERA.comのインタビュー記事はこちら(>>写真家・嶋田篤人 房総半島での被写体の発見、それが写真になる感動

<写真のサークル>

嶋田さんは2018年の個展「待つ」のステートメントで「写真のサークル」について書いています(>>「待つ」のアーカイブ)。

繰り返し房総半島を廻る。
繰り返し暗室で写真のサークル( 露光、現像、定着) を廻る。
それは私にとって、祀るように儀式めいたサークルである。

なぜ一連の行動を繰り返すのか気になります。
また、写真は房総半島らしさを感じません。なぜ房総半島だけを撮影するのでしょうか。

:故郷が千葉なので千葉で撮影するのが自然なことでした。
:それは果たして自然なのでしょうか(笑)?私も故郷は千葉ですが房総半島のみの撮影はしていません。
:もともと身近なものを撮りたい気持ちがありました。普段は注視しないような日常の中にある非日常的なものですね。故郷である房総でよく見知った場所だけど、切り取り方によって無国籍な風景が見えてくるのです。そういうことが面白いですね。
すでに知っている場所を撮りたいと思っています。そうすると知っている場所の知らなかった部分も見つけますし、知っている場所であっても、そこに向き合う自分の意識が変われば、そこは知らない場所になります。写真学校の実習の授業が「被写体の発見」というテーマでした。学校のある限られた空間の中だけで自分が気になるものをモノクロのフイルムで撮影して暗室でプリントするという授業でした。今思うと、この展示でやっていることと同じですね。
:撮影は房総半島限定ですが、そうはいってもかなり広いです。撮影場所はどう決めているのでしょうか?
:結構適当です(笑)。今回の作品に関していえば、灯台を目的地として、そこに行くまでの道中を撮影しています。
:灯台までは歩いてですか?
:いいえ車です。何回も通っている道なので、何処がどんな感じになっているというのは大体わかっています。初めての場所だと通り過ぎてしまう事が多いと思うのですが、何回も通っているからこそ、然るべきところで足を止めて被写体を見つけられる気がしています。
:その被写体ですが、写真を拝見すると具体的な何かを撮影しているという感じがしません。モノの曲線や直線など形を感じさせます。何にひかれて撮影しているのだと思いますが、調べると嶋田さんはそれを「自分の意識が被写体を立ち表す」と表現されています。それはどのような意識なのでしょうか?
:意識には記憶が絡んでいると思います。過去に見た写真・映画、読んだ本、個人的な幼少期の経験などの記憶が無意識に呼び起こされる風景に出会うことがある。そうした風景に出会い自己の意識と向き合った時、取るに足らない対象でも私にとっては被写体として立ち現れます。
:嶋田さんの場合、普通の人ならば撮影するタイミングでも「待つ」とAERA.comのインタビューで指摘されています(>>インタビュー記事)。
ただ、、、すぐ撮影しないとチャンスを逃す気がするのですが?

「手持ち撮影でも、シャッターを切るまでにけっこう時間がかかったりするんです。頭の中には『ここかな』という光とトーンがありますけど、その水準に達したら撮る、というわけではなくて、もう少し、それを越えてくるものをずっと待つ」

:チャンスは多分逃すと思います(笑)。ただ、ずっと長い時間をかけて被写体を見続けていると、気が付かなかったことに気が付きます。ものの形やそこに光が当たってトーンがどのように変化していくのか。それを色のないモノクロで再現した時にどういう新しい世界が立ち上がるのか、そういったところがとても興味深いのです。
:光のトーンが重要と考えると、撮影時に段階露光(ブラケット撮影)をすると思うのですがいかがでしょうか?
:被写体に相当輝度差があれば段階露出はしますけど、基本的には1枚です。露出の決定はカメラの測光の癖とフイルムの現像工程も体に染みついているので、外すことはないですね。

:この写真の被写体は形と表面の模様が面白く、そこに嶋田さんの意識が共鳴している気がします。
:これは漁港にあったトイレの壁なんです。カメラを持たずに歩いていれば気が付かないと思います。カメラを持ってフレーミングするぞという意識でいるから、あのような形が見つけられるのですね。
:なるほど。トイレの壁は完全に日常ですがこのような切り取り方になると非日常性がかなり増しますね。「写真のサークル」のプロセスで嶋田さんは「被写体に近いプロセスほど大切」とAERA.comのインタビューで指摘されています。

:そうですね。被写体に近いところが大事と思っています。まず被写体を見つけるところから始めて、見つけた被写体と向き合う撮影行為が一番大事です。そのあとに現像からプリントと続きます。
これは料理と似ているかもしれないですね。料理は食材が良くないといけない。先に調味料でいろいろ味付けしてしまうと後で取り返しがつかないじゃないですか。撮影がしっかりしていないと後工程で挽回はできないのです。撮影はピント、露出、構図と基本的なところが大事ですね。
:嶋田さんはじっくり待つ撮影スタイルで写真は線の細かい描写です。35mmフォーマットのフィルムカメラをお使いですが、より大きなフォーマットである大判や中版のカメラで撮影された方が撮影スタイルに合うのではないでしょうか。35mmフォーマットである理由があまりないと思うのですがいかがでしょう?
:35mmフォーマットのカメラが好きだというのがまずあります。大判や中判のカメラはカメラを担いで運ぶ感じになります。35mmフォーマットのカメラは持ち歩く形です。持ち歩きながら被写体を探すスタイルが自分に合っています。
:被写体の距離感ですが近くから遠景まで実に様々です。レンズは焦点距離50mm1本で撮影されていますが広角や望遠が欲しくなったりしないですか?
:そういう時は諦めます(笑)。50mm1本で見える範囲で被写体と向き合えれば充分なのです。いろんな焦点距離のレンズを持っていくと、考えることが増えてしまいます。それよりも、もっと制限を設けてクリアに被写体に向き合ったほうが良いと考えています。これは画角への拘りというより、一本に固定することが目的です。なので例えば28mmならそれ一本に固定するというような。

同じ機材を使い続けられる写真家は結構いらっしゃいます。嶋田さんはさらに場所も同じにしているわけです。違うのは時間のみです。嶋田さんは時間が経過することの変化を撮影し続けるために固定できるものは固定して「写真のサークル」を続けている気がします。

<そこ一里>

:今回の「そこ一里」ですが、展示されている写真は1回のサークル撮影をまとめたものでしょうか?
:いいえ。2年間にわたって、撮影したものからです。
:2年の蓄積があるのですけど、その時間を感じさせないのが面白いですね。1日で撮影したと説明されてもわからない。1回の撮影で何枚くらい撮影されるのですか?
:あまり多くの撮影はしません。1日中撮影しても36枚のフィルム1~2本で60数枚。月に1~2回撮影しています。
:2年間で、ざっくり約3000枚くらいですね。デジタル写真になれた側からみると、少なく感じます。選んだ基準はありますか?
:上総のお国柄言葉の「上総のそこ一里」道を尋ねると「すぐそこ」と言われるけど実際には一里(3.9km)もあるという意味なのですが、すぐそこと言われるけど実際は遠い。写真もそこにプリントはあるけど遠くを思わせる。そのイメージに関しても房総なのだけど、もっと遠い場所を想像させるようなイメージ。そんな「遠さ」を基準に選んでいます。
O:日常の中の非現実であるとか、千葉らしくないというのはそこから来ているのですね。

タイトルについては特別対談でも話をされています(>>特別対談)。
会場はシンプルですが丁寧に写真を並べています。写真が少し小さいのがわかります。写真は横位置でフレームが縦仕様で余白が広く、より客観的な印象を受けます。

:写真は8×10(エイトバイテン:六つ切り)の大きさですね。
:ここ数年はこの大きさですね。基本的なサイズは11×14(四つ切り)ですけど、それよりも小さいサイズですね。
:小さいと精密に見えますね。風景の細かい描写、物体の表面の模様がきちんと出ています。
:このサイズで出せる写真の密度が自分的に気持ちいいのです。プラスアルファで何かをするわけではなく、機材のもつポテンシャルを100として、そこからマイナスしないように普通に処理をしていけば、ちゃんと描写を出せます。だから、撮影にしてもプリントにしても、当たり前のことは当たり前にやるのが大事ですね。例えばカメラ構えるときに脇が締まっているかとか(笑)。そういうレベルの基本的な事を気にしたりしますね。
:それは誰かに教わったり、失敗して身につくものですか?
:誰かに教えられてというわけではなく、求道的なやり方で写真を続けていきたいなと思います。

この満点からの減点しないようにする撮影の考え方は天体写真家の山野泰照さんの考え方と似ています(>>虚空の如くなる心)。
山野さんも撮影を終わりのない修行ととらえている面がありました。
ところで、インタビューする前に嶋田さんの写真集を探したのですが、写真集は見つかりませんでした。

:写真集は出されていないのですか?
:写真集は作ったことがないのです。写真集を出す明確な理由がないのです。
:展示と同じテーマで作ることは可能だと思うのですが?
:自分の作品の最終形態はプリントであって、モノとしてのプリントを見せたいのです。それに対して写真集は印刷です。印刷ならではの深い世界はあると思います。
例えば見え方もページになっていたりとか、写真集そのものが1個のオブジェとしての作品ですね。僕の場合、ページになって造本されてというのが想像できないのです。展示は会期が過ぎればなくなってしまいますが写真集になっていれば、いつでも見られるという長所があります。僕が写真集を作るとなったら図録的なものになると思います。

モノとしての写真。被写体は当然そこに存在しているモノです。それを写真というモノに変換している。その作業が「写真のサークル」なのだと思います。
嶋田さんは1989年生まれの32歳なのですが、話をしていると経歴60年のベテランの写真家のように迷いを感じません。まだ若いのにどうしてここまで安定されたのか知りたく、写真を始めるきっかけについて伺いました。

<ロードムービー>

:写真に興味を持たれたのはいつからでしょうか?
:高校時代ですね。その当時映画が好きでした。映像を作る世界に行きたいなと思っていて、どうしたらよいか考えていました。進路を検討するときに映像学科がある学校に行くといいかと思いながらHPを見ていたら写真学科を見つけたのです。
当時、私の世代はカメラ付きの携帯電話を持ち、それで写真を撮るのが当たり前でした。写真を撮るということが身近になっていました。
そんな状況で、わざわざ学校で写真を学ぶのはどういうことだろうと興味がひかれたのです。
:映画はどんな映画に興味があったのですか?
:映画は幅広く見ていました。とりわけロードムービーが好きでした。その中でも特にジム・ジャームッシュ監督の「ストレンジャー・ザン・パラダイス」とヴィム・ヴェンダース監督の「都会のアリス」がいいですね。
ロードムービーは淡々とした描写でハッピーエンドというよりも余韻を残す感じの映画です。主人公もスターではなく、その辺にいそうな普通の男を使ったアンチヒーロー的な映画が好きでした。
将来、映像を撮りたいと思って、今からできることは何だろうと思ったときにビデオカメラを買う選択肢はありましたが、それを買ったところで何を撮ったらよいかは想像しづらかったのです。ところが、スチルのカメラだと自分としてはどういうものを撮りたいのかというのが想像できたのです。
:映画のストーリーよりも画が印象に残っていたんでしょうか?
:そうですね。画のほうが印象に残っていました。あと映像を作るとなるとチームプレイになるのですが、10代の後半は自分に協調性がないと思っていたので、写真だと一人でできそうと思ってカメラを買ってみて、そこからどっぷり浸かっていきました。

ロードムービーは旅をしながら起きる出来事を物語の中心にしている映画のジャンルです。様々あるロードムービーの中でも嶋田さんは淡々と日常を描写する映画が好みのようです。
ストレンジャー・ザン・パラダイスは名前は知ってはいましたが、観たことがなかったので改めて観てみました。
映像はモノクロで粒状感があり、今の嶋田さんの写真に通じるものがありそうです。また、カメラはほぼ固定されていて、短い寸劇を積み重ねて物語が構成されています。寸劇の間は数秒間の黒い画面が挟まれています。このシーンを区切る構成はページをめくる要素を持つ写真集と似ています。また構図が固定された中で役者が演じる様は、すごく写真的です。特に主人公のウィリーと友人のエディがいかさまポーカーで勝った後、屋外に出て会話をするシーンは高い位置から俯瞰しているのに平面的に見えて、まるでアンドレ・ケルテスの写真のようでした。
また、さばさばした人間関係がじわじわとユーモアを交えながら微妙に打ち解けていくストーリーは非常に面白いです。1986年公開ということで小津 安二郎の影響を受けていることがわかります。
ウィリーとエディは車でニューヨーク→クリーブランド→フロリダと旅をしますが、その土地土地のランドスケープが出てくるシーンは一切ありません。クリーブランドでは有名なエリー湖を見に行きますが画面は吹雪で真っ白です。雪に覆われたクリーブランドでエディは「新しい場所に来たのに何もかも同じに見える」とウィリーに毒づきます。旅という非日常ですが、描かれているのは常にどこにでもある日常的なシーンです。
この構成は嶋田さんの写真のコンセプトである、「日常の中の非日常」と逆ですが、この映画から受ける日常性は嶋田さんの写真の印象と近く、映画から影響を受けていることがよくわかります。嶋田さんは車で移動しながら撮影をします。嶋田さんの作品は房総半島限定のロードムービーを写真で表現していると言えるかもしれません。そう考えると確かに物語を感じる写真が何点かあります。冒頭で紹介した雀島の写真も「雀島を見ている私」という物語があります。

蛇足ですが、映画好きから写真家になる人はほかにもいて、最近名前をよく聞くRyu Ikaさんも同じです(チームプレイが苦手と思っている点も同じ)。
映画と写真は結構つながりがあります。ストレンジャー・ザン・パラダイスは動画配信サービスに見ることができます。写真好きな人にはとてもお勧めの映画です。

ストレンジャー・ザン・パラダイスを観た後だと、この写真の印象が変わります。映画を見てから写真展を見に行くのも面白いと思います。

:今後ですが、やはり房総半島でとり続けるのでしょうか?
:今後も同じですね。土地そのものも変わっていけば、そこに触発されて自分の意識もかわるので、少しづつの変化かもしれないけど同じものは二度と訪れないと思います。ライフワークですね。
:千葉以外は考えていないのですか?
:考えてはいますね。考えに考えて最終的には戻ってきますね(笑)。もし飽きたと感じたならば、それは自分が変化してないから新しいものが見えていないのであって、自分の問題ととらえてます。

今回の35点の写真には薄く物語性があると思います。ロードムービーのように淡々とした物語で、見る人によってその内容は変わると思います。
映画を見る感覚で楽しむことができる写真展だと思います。嶋田さんの作品は写真プリントのみです。ぜひ足を運んで見に来てはいかがでしょうか。

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