8月のお題は…『都会のネイチャー写真 人工物と自然の対比』
ネイチャー写真といえば山岳地帯、どこまでも続くお花畑、砂漠に沈む太陽など色々な作品があります。ただここはDojo City Scape、もっと身近な場所でネイチャー写真を撮ってみましょう。都会や街ならではのネイチャー写真、人工物が入っていたってそれはひとつの味というもの。身近な場所から自分なりのネイチャー写真を切り取ってみましょう。
参考までに作例を2点挙げました。一点目はビルの反射光によって照らされた緑、二点目は家屋の取り壊し現場で撮影したものです。コンクリートの中から現れた鉄筋と木の枝がとても対比的だと思いました。あくまで都会のネイチャー写真、こういうのもアリだと思います。街なかでたくましく生きる自然、人工物との対比も面白いと思います。
新納翔 師範からの8月のお題は『都会のネイチャー写真 人工物と自然の対比』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。
8月の挑戦者その4:yuu-changさん
生け花はネイチャーか?
ちと疑問ですが、人の手によるネイチャーの再構成とは言えるかも知れません。
師範の判定結果は・・・
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残念ながら・・・
くすっと笑ってしまう写真ですね。なにも重厚な写真だけがいい作品ではなく、こうした日常の中にあるアートを見つける楽しさというものが写真本来のたしなみ方のようにも感じます。蚤の市などで売られている縁もゆかりもない人の古い家族写真の中には、アマチュア写真なのだろうけど妙に惹かれるものがあります。写真はその人の視線、この作品はyuu-changさんの人柄が伺える気がします。そうです、なにせ私は科捜研の男ですから(かなり前から書いているのに誰も突っ込まないのでしつこく書きます)。
造花のように見えますが生花なのですね。写真とは関係ないですが、造花だったらもっと良かったなぁと思いました。いずれにせよ立派な都会のネイチャー写真。のれんに「郷土料理」とあり、写真において文字情報はとても強いので敬遠されがちですが、全体の肩の力を抜けた感じにマッチしていて良いと思います。
一番気になったのはレンズの歪みですね。21mmクラスになるとどうしても歪みは出やすくなります。とはいえデジタルではプロファイルを当てることでかなり補正することができますので、しっかり処理するようにしましょう。そういう細かい所に手を加えることでただの記録写真から作品になるのです。プロファイルというのはプリントする際に「iccプロファイル」というものが出てくるのでご存知の方も多いかもしれませんが簡単に説明しますと、それぞれのレンズやペーパーに対する指示出しです。このレンズはこういう特性があるので、こう処理しろという命令です。RAW現像時にプロファイルを当てることで本来あった歪みを自然な形に補正してくれます。
自分の使っている機材について、レンズであればどれくらい絞るべきか、センサーならISO感度がどの程度まで自分の作風として許容できるかなどしっかり把握することが大切です。そこをおざなりにするとカメラに振り回されることになってまさに本末転倒。機材の癖を把握すること、そしてそれらの対処方法を知識として身につけること、これを頭に叩き込んでください。
これを撮った時のシャッタースピードは覚えていますか?そう聞かれて即座に返答できるくらい常に自分がどういう露出で撮影しているのか把握することも重要です。少しぶれてしまっているのも回避できたはずです。
今回指摘したことを守るだけでも写真は数段に上達するはずです。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
8月の挑戦者その5:あきやんさん
過去の撮影ですが、地元の漁師町の路地裏で見つけました。
LPガスのボンベに植物(蔦?)が生えており、不思議な様子でした。
人工物なのに何処か自然のような対比ではないかもしれませんが、
侵食という感じが絵になると思い撮影しました。
師範の判定結果は・・・
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残念ながら・・・
漁港の周辺というのは独特な雰囲気がありますよね。日本中様々な漁港が大なり小なりありますが、やはり街なかとは違った景色が広がっています。人工物は人がいなくなると急激に朽ちていくように思います。地元ならではの発見というものですね。
yuu-changさんの講評にも書いた事なので読んで欲しいのですが、自分の使っているレンズの特性をよく把握しましょう。このレンズは開放付近ではフリンジが出やすいので「F2.2 1/25 ISO100」という撮影データですが、もう少し感度を上げてF4あたりにして撮った方が良かったかもしれませんね。実際にプリントすると分かるのですが、若干ノイズが乗って立体感が出ることもあるので必ずしも最低感度=高画質ではないのです。例えばR-D1系はISO1600で撮影するとモニタではあまり見栄えが良くないのですが、プリントすると良好な結果になるなんてケースもあります。
写真全体を見ると色が浅いためにせっかく渋い錆であったり蔦の感じがうまく出ていません。いやぁ実に勿体ないです。また、何もない部分はさりげなく明るさを下げて調整することで画面がぐっと締まります。ちなみにこの色味は、背景レイヤーを複製したものをモノトーンにし、それをソフトライトモードで重ねています。さらに全体から赤を引いて緑を強調しています。またLPガスのハイライト部が明るくなり過ぎないように調整しています。
ちなみにこの作品は4:5のアスペクト比にトリミングしているようですが、どういう意図があったのでしょうか?いわゆるシノゴの比率なのですが単純に興味があります。2:3のカメラだからといって自由にアスペクト比を変えることはいいことだと思います。ただ、明確な表現の意図がないと作品にブレが出てしまうので慎重に。
漁港のある街が地元ということで、もっとそこで暮らしているからこその写真を期待しております。時折そういう場所に行っても自分は通過者でしかないので深い写真が撮れないことを悔やむことが多々あるので私の分までよろしくお願いします!
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
8月の挑戦者その6:にたばるさん
「裂傷」
金網越しの遊水地。
コンクリートの隙間に、草の線。
滋賀県在住、男性。熱くても街は面白いですが、熱いです。PENTAX K-1とsmc PENTAX-FA43mmF1.9 Limitedで撮影。
師範の判定結果は・・・
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残念ながら・・・
遊水地ということで地面のひび割れと赤錆によって独特な質感を出していますね。そこにある生命、表現としての方向性はいいと思います。ただ、せっかく見つけた良い景色なのにちょっと欲張ってあれこれ考えて撮影した感じが出てしまっていますね。もっと大胆に切り取っても良かったかなと思う一枚です。
奥の壁を入れることで遊水地である、とちょっと説明的な写真になっています。説明するのであればもっとワイドレンズで入れるべきでありますし中途半端な距離感になってしまっているように感じます。それが結果として画面手前の余白を生み、全体の緊張感を損なっているのです。F2.0という絞り値も、金網の存在を残しつつ絞りすぎるとうるさいという選択でしょうが、これも説明的。2.0だとピントが薄いために地面の質感も分かりづらくなっています。もっと見せたいものにフォーカスし、撮影時もレタッチする時も自分の作風に合わせて詰めていくようにしましょう。自分なら5.6か8くらいでもっと金網にレンズを押し当てて撮ったと思います。
レタッチをもう少し頑張れば1ランク上の作品になったでしょう。レタッチ例では、地面の質感を出しつつトリミングすることで草の存在感を出すようにしています。また、くどくなりすぎないように画面奥の方は彩度を落としてモノトーンにしてあります。ただそれも言われて気づく程度の絶妙なバランスでやることで画面全体のトーンを崩さないようにしないといけません。デジタル写真では撮ってきたものをいかに料理するかで、作品の質が良くも悪くもなるのでレタッチの過程はまさに肝。最近ではLightroomでさっと仕上げたものをよく見ますが、自分の表現したいものを写真に出そうとするとやはりPhotoshopといった編集ソフトを使いこなすのはマストです。
自分が何を表現したいのか、もっともっと自己問答してください。そうすることによって撮影時もレタッチも迷いがなくなるはずです。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
師範より8月後半の総評
正直に申し上げます。今回の応募作品は甘めに見てもちょっと作品と呼ぶにはまだまだというものが多かったです。私が本道場を担当して以来一番よろしくなかったというのが本音です。道場というからには皆様の上達の為に私も本気で添削をしています。生半可な気持ちではありません。もっともっと自分に厳しくなって下さい。
写真というものは編集作業しているとなんだか良い感じに見えてきます。ただ翌日プリントしたものを見ると、思ったより良くないなぁなんてことはよくある話です。自分の作品ほど客観視するのは難しいということです。作品を応募する前に何度見返しましたか?プロでさえ何十回と見直し、ようやく作品として世に出すものです。
厳しく苦言を呈しましたが、しっかりこの道場を続ければ必ず写真力は向上すると思っております。来月は気分新たに一度リセットして、自分のこれだという作品を応募してください。お待ちしております。
あきやんさん、yuu-changさん、にたばるさんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!
記念品は9月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。
その他の投稿作品をご紹介
最後に、8月後半のお題の投稿作品の一部をご紹介させていただきます。
こちらは師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んで掲載しております。
〔クリックで写真が大きくなります〕
以降のお題へのご投稿もお待ちしています!