~広い広い世界を、自分の思い通りに切り取れるなんて最高じゃないか。
切り取りの美学 第4回「家で切り取る」
我が家では、すぐに手が届く場所にカメラが置いてある。NIkon F3+AI Nikkor 50mm f/1.8S、Nikon D810+AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR、Canon EOS M5+FD 28mm F3.5、そして、PENTAX KP+HD PENTAX-DA 40mmF2.8 Limited。
仕事以外で、写真散歩に出掛ける時などは、自転車の鍵を持って出るみたいに、ひょいと持って出たいからだ。また、家の中で綺麗だな、面白いなと思ったものをすぐに撮れるようにしておきたいからだ。
外出自粛で、以前みたいに出掛けられない今だけど、どこか特別な所でなくても、写真は撮れる。家の中は、どうだろう?
たまたま早く起きた日のバルコニーのスロップシンクにさす朝日、子供達が食べ終わった後のケチャップのついたミッキーマウスのお皿、いつもは散歩に持って行くりんご模様の水筒とバナナとオレンジ。特別に美しいとかカッコいいとかではない。でも、なんだか気になって撮りたくてたまらない。誰かのためではなく自分のために。
私が家の中で、切り取って写真にしたいもの。それは、暮らしの中で、ふと姿を見せてくれる「優しい時間」。その正体は「幸せ」だと思っている。
30代初め、初の写真集出版が決まって、自分の中で写真家としての覚悟が出来た時、自分の写真は特別で、写真は自分の人生だと思っていた。写真に関してとても特別な想いがあった。有名になりたい、のし上がってやりたいという野望もあった。しかし、それは、アート、自己表現、作家性、写真文化、そんな言葉や既存の考え方に、自分を嵌め込んでいくような窮屈さと虚しさがあった。
自由になれたのは、主宰するギャラリー・ナダールに集ってくださるお客さんたちのおかげである。
みんなそれぞれ、とても自由に写真を楽しんでおられる。その写真と姿に、自分が進むべき方向が見えてきた。写真を楽しむ場所と、時間を作る事だと。
思い切って買ったお気に入りのソファーでの読書時間。
ふと目を覚ました時の隣で眠る好きな人の寝顔。
走り回る子供たちの笑顔。
カーテンにさす夕日、その美しさ。
あなたが家の中で切り取って写真にしたいものは何ですか?
それはあなたにとって何ですか?