11月のお題は…『空のない景色でぎゅっと街を切り撮ろう』
折り重なるように建つ高層ビル、行き交う車、そうした乱雑な街を表現するには空を写さないというのがとても効果的です。空があるとそこから上にのびていく開放的なイメージになります。今回はあえて空を写さないことで画面に緊張感を与えてみましょう。さらに自分なりの個性を加えることで免許皆伝となるわけですね。
新納翔 師範からの11月のお題は『空のない景色でぎゅっと街を切り撮ろう』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。
11月の挑戦者その4:FA43Lさん
空を写さず乱雑な街を表現するにはどうしたらいいのだろう。
その答えとして、少しアングルを上げてみることにしました。
お題に込められた裏テーマ。もしかしたら、前半の好評ですべては明らかにされていないのだろうと思い、
歩道橋から下向きに1枚。トリミングで更に「ぎゅっ」としてみました。
神奈川県在住、男性。最近は夏に近所でセミの写真を撮ることを楽しんでます。PENTAX KPとHD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR REで撮影。
師範の判定結果は・・・
●
●
●
残念ながら・・・
空を写さずに街をぎゅっと切り撮るというのは、前半の講評でも述べた通り画面外へ広がるイメージを無くすことがポイントです。それによって一枚の中にイメージを密閉させること。
この作品はその点がとても良くできており、街の喧騒を一枚の中にうまく詰め込んでいます。撮影地は横浜駅西口ですよね、ここは私もよく撮る場所の一つですが、日中はビルの強い反射光によって都会らしいライティングで撮れるフォトスポットです。通行人が画面内の様々な位置にいて、まさにストリートスナップの醍醐味が感じられます。
写真の構図を考える際のひとつの手助けに、画面内に存在する「向き」に着目することがあります。手書きコメントの赤矢印で書いたように、人は一番分かりやすく「向いている方向=視線の向き」です。それと画面右側の木は弧を描くような上向き。単調な写真を避けたい時は、画面内に色々な「向き」があるように画面構成を考えてみましょう。
この作品お題はクリアしているのですが、レタッチにちょっと難あり。まずコントラストが強すぎます。これは厄介なもので、一度強めたコントラストを弱めるのはなかなか難しいもの。コントラストを強めると色が濃くなるので、全体的にきつい印象になってしまっています。
レタッチのコツとして、「コントラストを強めたら彩度を少し下げる」ということを覚えておきましょう。また、コントラストが強いプリントの要因がモニタのせいであることも多いです。ノートパソコンの小さい画面、正しく色表示されていないモニタ、それではどんなに頑張っても正しい色を確認することができません。モニタもピンきりなのでいきなり高いモデルを買う必要はありませんが、ちょっと良いものに変えるだけで写真の腕はかなり上がるはずです。
レンズ一本我慢してモニタに投資。正しい色で撮影した写真を見て初めて反省点や改善点がみえるものです。自分はデュアルモニタなど色々試行錯誤して、今は27インチのモニタ1つという形に落ち着いております。デュアルモニタは表示される情報量が増えるのですが、その分視線移動が多くなりかなり疲れるので一長一短です。
写真とモニタ、これは深い話しなのでここに書ききるにはもう残り僅か・・・
そのうち記事にしてまとめたいと思います。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
11月の挑戦者その5:社員salさん
街歩きをしていて、平面な感じのところを見つけると撮っています。
垂直を出す補正をかけています。
師範の判定結果は・・・
●
●
●
もう一歩!
構図だけでいえばなかなか見事な切り撮り方、お題を踏まえたうえでしっかりと自分の作品にしあげる、これが一番重要なことです。ビル群だけでなく、右下のミラーがにくいですね。画面占有率でいえばとても小さいのですが、全体的に直線で形成されたビルが占めているのでこういうオブジェクトはとても目立つのです。斜光状況も良いです。
直線で構成されたイメージだけにどうしても水平・垂直には厳しくなってしまいます。この写真でもその点に留意して編集なさったのは分かるのですが、もう一歩ですね。こういう場合、Photoshopをお持ちの方は「自由変形」を使って直していくのが良いでしょう。シンプルな写真であればあるほど、細かい点が目立ってきてしまうので最新の注意を払って作品に仕上げていきましょう。
画面右端のダクト?はトリミングしてしまって、敢えて影だけ残したほうが粋というものです。影の存在によってそこにダクトがあることは自明なので、そこは種明かしをしない方が見る側からしても面白いと思います。写真は撮影時に世界から景色をトリミングしているわけです。トリミングがうまい人はすなわち、フレーミングもうまいわけです。
後は明るさ・コントラストがやや眠たい傾向にあるので補正してあげるといいでしょう。デジタルはフィルムと違って白飛びしたらそこにはデータが何もないわけですから取り返しがつきません。最悪何もない場所にノイズをのせて編集していく方法もありますが、撮影時に対処するにこしたことはありません。よくRAWで撮っているから現像時に調整すればいいと考える方がいますが、それはNG。適正露出で撮影されたRAWデータの方がやはり質は上です。
撮影時にヒストグラムで確認する、毎回絞りとシャッタースピードがいくつか確認するくせをつけていくと、ファインダーに表示されている絞りとSSの組み合わせが適正かどうか撮影しなくても分かってきます。AEを良き相棒にするための訓練ですね。
この作品は明るさ調整がしっかりなされていれば免許皆伝だったかもしれません。
デジタルは撮影後の後処理がフィルムに比べると段違いに自由度があります。それゆえ、しっかりとしたレタッチをすることが肝心になってくるのです。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
11月の挑戦者その6:さとちんさん
高速道路したのごチャットした感じを圧縮して写真に写せないか試してみました。
東京都在住、男性。普段は花や自然の写真を撮っています。時間がある時は工場夜景や星とかも撮りに行っています。PENTAX K-3 Mark IIとHD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR REで撮影。
師範の判定結果は・・・
●
●
●
もう一歩!
高架下の景色を望遠レンズの圧縮効果をうまく使って、うまくごちゃついた空間を整理していますね。人工物が多いため直線が目立つシーンなので、ここまで思い切って圧縮効果を使わないと画面内が煩雑になります。ややシアンにふった色調が都会の冷たさを表現していてとても良いと思いました。
この写真は奥に続いていくイメージを大切にしていると思うのですが、画面左側から日がさしているせいで、左へ逃げていくイメージが混在してしまってどちらがメインなのか分かりにくくなっています。ここはレタッチ例のように若干左側だけ暗くすることで見せたいものをより明確にできます。自分が見せたいものが必ずしもそのまま伝わるとは限らないのが写真の残酷さ。ゆえに自分は何にひかれてシャッターを切ったのか、それを再考する習慣をつけましょう。撮ること以上に、撮影した過去作品を見つめ直す時間はもっと重要なのです。
そうすることでトリミングや色調といった後処理に迷いがなくなります。撮る時以外も写真行為は続いているのです。レタッチ例ではさらにトリミングして奥行き感を強調してみましたので参考にしてください。もしかしたら3:4あたりでトリミングしても良いかもしれません。カメラというデバイスのアスペクト比に縛られることはありません、色々試してみるのもいいでしょう。
時計と街灯が交差しているのもとても面白いのですが、K-3 Mark IIで300mm(450mm相当)という撮影状況であれば三脚を使ったほうが良かったかもしれないですね。A4サイズ程度ならまだしも、大きくプリントしようとすると僅かな手ブレでも画質の低下が顕著に出てきます。わずかな手ブレがあるので、無機質な被写体ゆえシャープに切り取りたいところ。こういう細かいところはカメラの背面モニタでは確認しきれない点なので、撮影後後悔しないようにしたいですね。
カラーながら色調が少なくモノトーンに近い写真なので、手前の赤い三角コーンなどの彩度をあげてアクセントとして強調させるのもアリです。
細かいところを丁寧につめていけばワンランク上の評価になった作品でした。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
師範より11月後半の総評
今回は今までの中で最多の応募数があり、まさに激戦でした。採用されなかった方にもいい写真はあったのですが、課題をクリアしつつさらに作品として良いものが選ばれるわけです。課題のクリア、作品としの良さのどちらか一方になってしまっている方が多く見られました。
それと撮影時・後処理総じて言えることなのですが、ハイライトがうまく処理されていない写真が多いです。撮影条件によっては白飛びも仕方ありませんし、白飛びがぜったい悪だとも言いませんが、ハイライト処理をしっかり意識するだけで写真から受ける印象はかなり変わります。ヒストグラムをよく見て、次回はハイライトに意識して応募してみてください。
記念品は12月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。
その他の投稿作品をご紹介
最後に、11月後半のお題の投稿作品の一部をご紹介させていただきます。
こちらは師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んで掲載しております。
〔クリックで写真が大きくなります〕
以降のお題へのご投稿もお待ちしています!