12月のお題は…『シルエット写真グランプリ』
シルエット写真はモノの形状をよく見つつ、同時に光を読む力が要求されます。ただ、シルエット写真は単調になりがちなので、自分なりに工夫してしっかりとストーリーが感じられる写真に仕上げてください。
新納翔 師範からの12月のお題は『シルエット写真グランプリ』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。
12月の挑戦者その4:パパさん
シルエット=黒、ではない!
と考えた結果の投稿
奈良県在住、男性。GR3メイン、時々KP。PENTAX KPとsmc PENTAX-D FA MACRO 100mm F2.8 WRで撮影。
師範の判定結果は・・・
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もう一歩!
写真という媒体はすでにやりつくされているようでまだまだいくらでも新しい可能性はあるものだと思っています。その中でデジタル時代、一般的には敬遠されがちな白飛びを積極的に使おうという作家がまだ出てきていないのはなぜだろうと思っておりました。
道場のお題をどう自分なりに解釈し作品にするかが重要だと述べてきましたが、「シルエット=黒、ではない!」という作者の言葉は見事私の期待に応えてくれたと思います。今回素晴らしいシルエット作品が多いなか、この作品をピックアップすることで今後多くの方に「写真を撮る」意味を考えて欲しいと思いました。
常に考え実験すること、それが写真行為において常に大切なことだと思うのです。白飛びした部分はデータがない「無」の状態。リアルな世界を切り撮ったのに、「無」が存在している、なんだか無から世界が始まったビックバンのようではありませんか。デジタルにおいて白飛びしてしまったら、他の画像からテクスチャーを持ってくるしか修復手段はありません。デジタル写真においてハイライト部に気をつけないといけない理由ですね。
さて肝心の作品内容ですが、白バックに緑のさえが効いてとても気持ちの良い写真になっています。非常にシンプルなだけに枝の配置にもっと神経を使わないといけません。左上の枝にあるパープルフリンジ等も気になります。フリンジ除去は色々な方法がありますが、一番簡単なのはそこだけモノクロ化してしまうことです。フリンジは偽色が発生しておかしく見えるので、それをモノクロにしてしまえば分からなくなるという原理です。
それとこの作品の場合、アスペクト比を変えたほうがいいように思います。葉っぱに比べ、枝の主張がかなり強いのでカットしてしまったほうがよりスッキリするかと。
レタッチ例ではアスペクト比を1:1のスクウェアに変えてみました。この辺は好みもあると思いますが、シンプルな構図にマッチするのでこういう時はオススメです。
シルエットが必ずしも黒ではないとハイキーにした発想はあっぱれ、ただし作品としてはもうひとつ何かが欲しかったところです。何が足りなかったのかじっくり考えてみてください。
〔新納翔師範によるレタッチ見本〕
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12月の挑戦者その5:tokutoku1002さん
夕暮れ間近の湖のボートが漕ぎ出しました。
親子連れだと思われる人達をシルエットに夏の終わりを表現してみました。
東京都在住、男性。風景写真を中心に、旅写真やスナップを楽しんでいます。PENTAX KPとHD PENTAX-DA 16-85mm F3.5-5.6ED DC WRで撮影。
師範の判定結果は・・・
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もう一歩!
湖畔にて船を漕ぎ去っていく人たちをじっと眺める家族、2箇所のシルエットがそれぞれ何を考えているのか見ているこちらも気になってしまいますね。手前の家族の視線の向き、船上の人たちの視線がリンクして、画面奥に広がるイメージ。さらに、大きくとった空によって夏の1シーンがとてもドラマチックに切り取られているのが良いです。夏の終りを表現した・・・というコメントを、今現在氷点下の1月2日早朝に読んでいるこの感覚、たまらないですね。
と、私の話はさておき、撮影後の仕上げであるレタッチにも気を配っているのを感じます。銀塩写真も同じ話ではありますが、撮影してきたデータをいかに調理するかによって、そこからどれほど良い写真になるか大きな差が出てきます。私は「撮影2割、後処理8割」と教えているのですが、せっかくいい写真を撮っていても仕上げ次第でもっと良くなるのにと思う事は多々あります。後処理8割というのは撮影をおざなりにしていいというわけではなく、撮影の4倍はレタッチによって作品の質が向上するということです。
この作品を見てまず気になるのは、画面中央右にいる釣り人?が乗っているボート。先に述べた画面左にある奥へのリンクが実に良いポイントになっているのに、余計な要素になってしまっています。自分だったら画面をすっきりさせる為に消してしまいます。消すのをよしとするのは撮影者次第なので、そこは各々が判断してください。私は消すことによって作品がベターになるのであれば、報道写真などでない限り良いと考えております。
手前の家族の右側にある白いオブジェクトも同じことです。
次に空の部分。立体感のないのっぺりとした印象が否めないのでノイズを部分的に加えることでだいぶ良くなります。それと雲の白をどこまで出すかというのが非常に難しいところではあるのですが、ちょっと改善の余地ありかと。レタッチ例ではその点と、空全体のマゼンタを抜いてヌケ感を出すようにしました。さらに水面のきらめきを出すためにコントラストを上げています。逆光気味なので空の白はこれくらいにすると全体としてすっきりとした印象になるでしょう。
撮ってきた素材を活かすも殺すも料理人次第ということですね。
こういう細かい点をつめていくともっと良い作品になったと思います。精進あるのみです。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
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12月の挑戦者その6:Melyukiinaさん
【〇△□】街歩きの途中 必ずと言っていいほど見る景色が標識の影と赤いコーン
ついついとってしまう景色です
愛知県在住、男性。中学で星が好きになりRICOH XR500を手にしてマニュアル撮影デビュー。PENTAX望遠鏡は天文雑誌などで憧れブランド。いまはデジタル一眼K20D,K-5,K-1と乗り継ぎ、THETAも手にしたRICOH-PENTAXに育ち、現在に至る。PENTAX K-1とHD PENTAX D FA★85mmF1.4ED SDM AWで撮影。
師範の判定結果は・・・
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もう一歩!
影の形をうまく捉え、とてもグラフィカルでユーモアの効いたシルエット写真になっていますね。街灯かなにかの影が画面内でとてもいい働きをしています。実体を画面外に置き、影という虚像だけを写しこむことで何とも言えない不思議さが出ている良作となりました。最初に見たとき、戦前の日本写真史を代表する作家・安井仲治の作品「斧と鎌」(1931年)が脳内にちらつきました。ご存じない方は検索してみると出てくると思います。
いやぁ、あと一歩でしたね。カラーコーンの三角、謎の丸、そして無造作に置かれた四角い板。この丸三角四角が織りなす面白い世界なのに非常に勿体ない。カラーコーンが二個あるのはちょっと面白さにかける気がします。かといって全部トリミングでカットしてしまうのもやり過ぎ。レタッチ例のようにトリミングすることで、上のカラーコーンはてっぺんが写っていない為、下のカラーコーンとうまくリンクします。こうすることでより面白みが増すと思います。
【〇△□】というタイトルも絶妙、あとはいかに作品を「見せる」か、ということをもっともっと追及することで十分な伸びしろがありました。3:4のアスペクト比の方がこの世界観にあっていると思います。
撮影時にどのような仕上げに持っていくかまで考えられるようになると、各段にレベルが上がっていくものです。自分は時々カメラを構えていると、目の前の景色にPhotoshopのパレットが浮かんで見える時があります。撮影と後処理は一連の流れなので、切り離すことなく扱えるようになるまで鍛錬あるのみですね。
もう一つ気になったのは全体の質感です。写っているものが都会を連想させるオブジェクトだったので、ややクールなイメージに寄せるためにシアンにふって適度にノイズを入れるなどして立体感をだすようにしました。
もう一つの投稿作品であるカップルのシルエット写真も良かったのですが、完成度としてはこちらの方が数段上です。あちらはちょっと情報量が多いため、何を撮ろうとしたのかが不鮮明になったように感じました。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
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師範より12月後半の総評
2021年最後の応募とあってか、とてもレベルの高い作品が多く、正直今までで一番選ぶのに苦戦したように思います。採用できなかった作品の中に良い作品がたくさんありました。ただ、その明暗を分けたのは作品にオリジナリティがあるかどうか、お題を自分なりに噛み砕いて表現しているかという点にあると思います。
この道場に応募なさったり、記事を読んでいるという方々が12月の個展にいらしてくださりましてありがとうございました。その中で投稿はしないけど、記事を楽しみにしているとおっしゃってくださる方がいて大変うれしく思う一方、せっかくなので是非チャレンジして欲しいと思う次第です。よく「自分の写真はまだまだだから・・・」と言う方がいますが、それは大間違い。作品の良し悪しが分かるようであればもうプロです。とにかくアウトプットすることを習慣づけることが何よりも大切です。
記念品は1月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。
その他の投稿作品をご紹介
最後に、12月後半のお題の投稿作品の一部をご紹介させていただきます。
こちらは師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んで掲載しております。
〔クリックで写真が大きくなります〕
2022年1月~3月の新納 翔 DOJO City ScapeではPENTAX道場初の試みとして「他流試合」を開催中!
PENTAX以外のカメラで撮影された作品も挑戦可能ですので、ぜひこの機会にお友達やご家族などをお誘いのうえご参加ください。