3月のお題は…『トタンのある風景』
街中でトタンを見ると、なんだかとても懐かしい気持ちになります。子供の頃1980年の中頃、実家の近所にトタン作りの長屋がありました。そんなこともあって自分の中で勝手にトタン=昭和ノスタルジーを感じるのですが、皆さんはどうでしょうか。
トタンを入れた風景がお題です。
さてトタンをどう料理しますか?
新納翔 師範からの3月のお題は『トタンのある風景』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。
3月の挑戦者その1:よねんちさん
新宿の有名な飲み屋街の狭い路地に鮮やかな青いトタンを見つけて撮影。
撮影時にゴミ袋かなにかだと思っていた黒い塊りが、
後で酔いつぶれて眠りこけている人であることに気づいて驚きました。
日の高い昼時でありながら、昼夜逆転の世界であるこの場所は、
時が止まったかのように動きがなく静まり返っていたのが印象的でした。
東京都在住、男性。*ist DSの購入でデジタル一眼レフの世界に足を踏み入れ、現在はK-3 Mark IIIをメインに街の風景スナップを中心に撮影しています。PENTAX K-3 Mark IIIとHD PENTAX-DA 16-85mmF3.5-5.6ED DC WRで撮影。
師範の判定結果は・・・
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残念ながら・・・
新宿のゴールデン街でしょうか、都心の中心にありながら時が止まったかのような雰囲気に包まれている独特のエリアですよね。夜には気付かない、街に染み付いた歴史の影が昼間こうして太陽に照らされると一気に露呈されるように感じます。写真界とも結びつきの深いこの街を撮ったスナップショット、やがてなくなるかもしれない街の記録として良い作品だと思います。
ゴールデン街に限ったことではないのですが、縦横無尽無秩序に巣食うった街というものは一見どこを切り撮ってもフォトジェニックのようで、なかなか絵にならないのが良くあること。被写体になり得るものが多すぎて逆に情報過多になってしまうのですよね。
例えばこの写真において、画面左中央のガスメーターに挟まったコーヒー缶、その上の「SNAP」のステッカーシール、酔いつぶれたと思われる横たわる人・・・、もう少ししっかりとカメラアイを絞るべきでした。トタンさておき、なぜこの場所でこの瞬間にシャッターを切ろうと思ったのか、それを明確に述べられるでしょうか?それを言えるかどうかがその写真の深みに直接リンクします。
それと同じことで、露出決定に迷いがあったように思います。路地がほぼ白飛び手前なのに、シャドー部を強引に持ち上げた為に全体として明暗差がなく、メリハリが失われてしまっています。ISO200でss:1/100 f:4.0ということなのでトタンの方に露出を合わせたと思うのですが、ここはトタンの部分がシャドー部になってもいいので、アスファルトを適正値にし、ややアンダー気味にすべきだったと思います。晴天の日向と日陰の露出差は約4段なので、ISO200であればss:1/500 f:8.0あたりですね。
ちなみに僅かですが手ブレも見受けられます。スナップ写真といえども、カメラの構えなどもう少し注意を払いましょう。人間の目と比べてカメラのラチチュードは狭いです。このシーンでは、ハイライトかシャドーのどちらかは捨てなければなりません。自分が何を撮りたいのか、主題は何なのかを考えてそれにマッチした露出決定をしましょう。
そうすることによって作品にもっと深みが出るはずです。
上記の内容を踏まえ次回の課題に取り組んでみてください。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
3月の挑戦者その2:MSMSPT5さん(他流挑戦者)
トタンと異素材との組み合わせの妙にグッときました
東京都在住、女性。街の中にそっといる猫を撮っています。FUJIFILM X-T4とフジノンレンズ XF16mmF1.4 R WRで撮影。
師範の判定結果は・・・
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もう一歩!
長屋風といいますが年季の入った家屋だけでも素晴らしい被写体なのに、そこに猫ちゃん、さらにはドンピシャの斜光状況と三拍子揃って絶妙な美を奏でています。ここ最近、道場のレベルが上がってきて、本音を言うと良い作品は完成された世界ゆえに書くコメントが無く困ってしまうことがあるのですが、そんなことで落とすことは当然できないので、より厳しく見ていこうと思う所存であります。
この作品は電線や作者の後ろからのびている影などが交差し、それらが見事に調和しているのが高ポイント。さらに作者自信の影が入っていることで、景色に自らを投影したセルフポートレートになっています。客観性の中に主観性が入り込み、画面内に見えている世界以上の広がりが感じられます。写真は本来写っている範囲以外のものを提示することはできません。しかしこの影によって、見る側はカメラの後ろにある景色さえも見える気がするのです。写真家・深瀬昌久の「私景」を彷彿とさせる一枚です。
全体の色調がコダックブルーのような印象的な青空といい、リバーサルフィルムで撮ったようなトーン。自分の時代でいえばTC-1にコダクロ64をつめて撮影したような色調、たまらん、これはよだれが出ますね。オリンパスのE-1やE-300あたりもコダック製のCCDセンサーのせいか、このような濃い青空が特徴的でした。
レタッチ例を見て頂きたいのですが、この一枚だけ見ると完成されているようで、もう少しつめられる所があったように思います。画面中央のエアコンの室外機、猫、その上の壁のハイライトをやや落とし質感を出しましょう。特に猫の毛並みはしっかり出したいですね。これはRAWデータを見ないと断言できませんが、周辺光量を後から落としているように見えるのですが、もう少し控えめにしたほうがいいかと思います。多くの方のプリントを見ていると、何でもかんでも周辺光量を落とすケースを見受けますが、本当にその作品にあっているか考えることが必要です。
レタッチ例では中央のハイライト部分以外に、銀色の日除けの垂れ幕の部分だけコントラストを上げテクスチャを強調しました。さらに画面右のシャドー部を少し上げることで、そこに置いてある自転車など生活の営みが分かるようにしました。この作品は様々な情報が写り込んでいるので、明るさをうまくコントロールすることが必要です。
画面左はちょっと空間が間延びしているので、トリミングしてもよいかと思いました。免許皆伝までほんの僅かでした!次作に期待しております。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
3月の挑戦者その3:FA43Lさん
いつもの通いなれた道、この日は黄色が目についた。
今まで気が付かなかったけれど西日を浴びて存在感を放っている。
背景はトタン。そこには、昭和のノスタルジーがありました。
師範の判定結果は・・・
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もう一歩!
トタンのある風景というお題を踏まえた見事なスナップショット。近年「ストリートスナップ」という言葉の解釈が人によって様々になっているように思うことはありますが、この作品はかつていわれた王道的なストリートスナップを体現しつつ、トタンを入れ込んだ作品になっています。中央の黄色い看板が主張し、お題をクリアしつつ自分の世界観で景色を切り撮っている点がとても良いです。
トタンは令和の時代、これから新しく進化していくのでしょうか。それとも作者がおっしゃるように「昭和ノスタルジー」という域を出ないのか私には分かりませんが、このようにサビで時の流れを感じるトタンにはどこか時代の重みを感じます。
トタンの建物、真ん中の黄色い看板、通り過ぎる人物と、とてもいい瞬間を切り撮っているのは分かるのですが、左側の余白は図解したように、入れないほうが作者の意図がよりはっきりすると思います。入れることによってどうしても伝えたい情報があるようにも感じられず、逆にせっかくの瞬間をぼやかしているように感じました。これであれば、トリミングして潔く勝負しましょう。
カラー写真でも色数が少ないので、画面内の色を使うことを意識しましょう。例えば通り過ぎる人が持っているカバンの赤い部分や看板の黄色。さらに中央のブロック塀越しに見える緑は、全画面に対して結構な面積をしめる割に色が背後と同化してしまっているので、しっかりと緑は強調させましょう。Photoshopをお使いなら色域選択で緑の部分をあげ、トーンカーブで調整すると良いと思います。
撮った写真を見返した時、どこに惹かれてシャッターを切ったのか考えてみることが大切。なんとなく切り撮った一枚であっても、必ずどこかで心が動いた要因があるはずです。何枚も撮った写真を見返し、それを探すことを繰り返していくことで自分の撮りたいものに気づくはずです。
そして見つけた自分の求める「テーマ」を追求していけば、一つのシリーズとしての作品になるわけです。
撮影したデータを活かしきれていなかったのがこの作品のマイナスポイントでした。応募前に何度も見返して細心の注意を払うようにしましょう。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※クリックで大きく表示されます
師範より3月前半の総評
応募する際のワンポイントアドバイス
作品というのは、現像やレタッチしたての時はしっかりと内容を見ることは難しいものです。これはプロ・アマ関係なく共通した話のように思います。A4あたりにプリントアウトし、それを次の日にしっかりと見返してそれでも良いと思えたら投稿するのが免許皆伝への近道。
時間を置いて目をリフレッシュさせることにより、自分の作品を客観的に見ることができるようになります。プリント仕立ての時はとても良いように思えても、次の日に見てみるとなんだかなぁと思うことはよくあることです。
プリントが難しいという方はモニタでも構いません。撮影データからいかに完成度をあげていくか、そこがポイントなのです。
記念品は4月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。
惜しくも選外となった、最終選考ノミネート作品をご紹介
今回惜しくも、最終段階で選ばれなかった作品の一部です。
残念ながら選外となりましたが、まだまだ後半戦がありますので、リベンジお待ちしております!
〔クリックで写真が大きくなります〕
以降のお題へのご投稿もお待ちしています!