7月のお題は…『スクウェア写真で切り取ろうーアスペクト比再考』

新納翔 師範

作品を制作する時にアスペクト比を考えるのも作者の意図です。自分のカメラが2:3だからといって作品は3:4にしても良いわけです。私は街によって最適なアスペクト比があると考えて都市風景を撮影しております。皆さんにも自分の写真はどのアスペクト比が合っているのか、一度原点に振り返って考えてもらいたく、今回のお題はスクウェア縛りにします。いわゆるハッセルなどの66写真ですが、これはかなりの構図力も要求されるとても難しいフォーマットです。

ちなみに撮影済みのものをなんとなく正方形に切ってもだいたいは良くなりません。スクウェア写真は撮影段階から意識しないと画面内の構成が崩れやすいのです。そのことを意識してみるといいでしょう。

新納翔 師範からの7月のお題は『スクウェア写真で切り取ろうーアスペクト比再考』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

7月の挑戦者その1:ぷりずなーさん

2019年、東京へ行った時に記念に撮った写真です。

ぷりずなー
長崎県在住、男性。2011年から趣味としてデジタル一眼レフを使って、写真を撮るようになったアマチュアカメラマンです。地元長崎を中心に撮ってます。PENTAX K-1とHD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

おお、羽田空港のあの場所ですね。展望デッキへと向かう場所なのですが、やはりここは撮りたくなりますよね。行き交う人々の目的もお土産だったり見送りだったり、これからどこか地方に行く人であったりと様々。その交錯する様子が面白くて私もよく645Zを構えています。

この作品の面白いところは、階下につながるエスカレーター、さらにその奥の様子がレイヤー的になっている所だと思います。さらに画面右上から左上にかけて木が描かれた垂れ幕が連なっているのも撮影時に気になって入れたのではないでしょうか。空港という一種、非日常的な構造物の中にある美を感じ取った一枚。この景色が見える場所を発見した喜びが、写真越しに伝わってくるように感じます。

もう少し工夫すればより良い作品になったと思うのがマイナスポイント。トリミングする前の2:3のままだったら良かったのかもしれませんがスクウェアにトリミングしたことで、何を見せたいのかが分かりにくくなってしまっているのです。トリミングのセンスというものもありますが、やはり最初からスクウェアにしようと思って撮った写真と、あとから正方形に切ってみようとしてトリミングした写真は大きく異なります。最終的な作品にどうしても2:3で見た視座・気持ちが残ってしまうのです。

そのままなら効果的であった連続する垂れ幕も、スクウェア写真においては主題をぼやかす邪魔な存在になってしまっています。写真は引き算とよく言いますが、とくにスクウェア写真においてはそれが一層顕著に出てくるのです。

それとなぜモノクロにしたのかという点です。モノクロの方が形状を意識させやすいという事もありますが、このカットはカラーでも十分にそれは可能でしょう。いまひとつモノクロにしたはっきりとした信念が感じられません。さらに言えばモノクロにするにしても、もっと深みのある感じにレタッチすると随分印象も変わります。

個人的には上がってくる人と、出発時刻の掲示板を見ているぽつんとした人の対比が面白く感じたのでそこをもっとうまく見せるトリミングでも良かったかと思います(レタッチ例を参考に)。ポテンシャルのある作品なので、もう少し細かいところまで詰められればより高評価になったでしょう。

〔新納翔師範によるレタッチ見本〕

 

7月の挑戦者その2:パパさん

元々は横長構図での写真をスクエアにトリミング。
スクエアは殆ど意識しないのですがトリミングの面白さを実感。

パパ
奈良県在住、男性。GR IIIでの街中スナップメイン、時々KPで撮影。PENTAX KPとHD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3 ED PLMで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

お昼寝の時間なのでしょうか、おそらく鹿だと思うのですが猫のように丸まって可愛らしいですね。つい先日、鹿写真家の石井陽子さんとお話していて教わったのですが角がないところを見ると雌鹿でしょうか。いまや可愛いを表す「Kwaii」は英語圏内をもとより世界中で使われている言葉となりました。可愛いは正義、それだけでほっこりしてしまいますね。

ただ注意しないといけない点があります。これはポートレイトや違うジャンルの写真にもいえることですが、作者にはそういう意図がなくても結果として、被写体の魅力に依存しすぎている写真になってしまうことが往々にしてあります。なかなか線引きの難しいところですが、誰が撮ってもその被写体であれば「受けのいい」写真になってしまうということは写真作品としては成立していないということなのです。その人にしか撮れないと思わせるオリジナリティの確立が写真上達の肝だと私は思っております。魅力的な被写体をいかにして自分の世界に落とし込むか、そこができるか否かでレベルが格段に違ってきます。

それと画面上半分の梅でしょうか、木のボケがちょっとうるさく感じます。もう少しf値を開けてみるか、ややローアングルから狙ってボケが画面上でしめる面積を減らした方が良かったと思います(木を支えている人工物もカットできる)。そうすると鹿の顔が見えづらくなってしまうのでギリギリなところですが工夫はできたと思います。

鹿と後ろの木が同系色なのも気を配りたいところです。後ろだけ明るさを落とすなど工夫することで、それぞれをしっかりと分離できるはずです。今のままだとちょっと同化しかけているのでせっかく写っている鹿の顔もはっきりせず勿体ないですね。良い被写体を見つけベストな撮り方をする、さらにそのデータを最大限よく見せるように仕上げる。画像処理の自由度が増した今、後処理の方が重要になってきているかもしれません。講義ではよく「撮影2割後処理8割」と教えています。撮影をおざなりにしていいといいう事ではなく、撮影の4倍レタッチなどに費やすことで、よりよく見せることができるという意味です。次回からその点を意識してみてください。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

7月の挑戦者その3:FA43Lさん

City Scape『スクウェア写真で切り取ろうーアスペクト比再考』
何気なく目に映る光景。写真の持つ記録性を活かして都市風景を
納めておくことも楽しいと思います。そして、ごく限られた身内で話題に
なれば、その写真は一層おもしろくなります。
山梨県甲府駅付近で見かけた光景。給水塔でしょうか。
初めて目にしたときには何だろう!?と視線を奪われました。
スクウェア写真、アスペクト比1:1。思い切って日の丸構図で1枚撮影。

FA43L
神奈川県在住、男性。最近は夏に近所でセミの写真を撮ることを楽しんでます。PENTAX KPとHD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR REで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

スクウェア写真は2:3の写真と違い、日の丸構図やシンメトリー構図と相性がいいです。この作品ですが、謎の球体が中央に鎮座し、300ミリという望遠で切り取ったこともあってその存在感に圧倒されますね。甲府駅付近ということで気になってGoogleMapで探してみたところ、とあるビルの屋上にありました。科捜研の男としては、このアイレベルだとすると○○ホテルの○階に出張かなにかで宿泊された折、持参したカメラで撮ったものだと推測いたします。

手前のビルを前ボケに持ってくることでより謎の球体の不思議さが強調され、印象的なイメージの写真に仕上がっていますね。トリミングも適正にできていると思います。おそらく2:3のままだと余計な情報が増えて面白く無いのかもしれません。そういう意味で、スクウェアで撮ろうという撮影意図がしっかりと感じられます。ただこう円と線で構成されている写真なので、ビルの垂直水平はじめ、画面内に存在する全ての線にまでしっかりこだわって欲しいところです。重箱の隅をつつくようですが、そういうところが後々複数枚の写真でストーリーを組んだ時に響いてくるのです。

特にスクウェア構図はシンプルがゆえにそういったディテールの部分で写真の完成度が大きく左右されてしまうのです。Photoshopであれば建物ごとに自由変形を駆使すれば解決するでしょう。右側に前ボケで写っている黄色いラインがとてもいいアクセントになっています。カラー写真でも同系統の色しかないと味気ないものになってしまうので、この黄色は画面構成上とても重要な役割を果たしています。

レタッチに関してですが、空の部分がトーンジャンプ(偽色?)しかけています。レタッチする際にあーでもないこーでもないと何度もデータを弄ってしまう人をよく見かけますが、まず最初に色調やトリミングの完成図を思い描くことをすればレタッチ迷子にならずにすみます。今回どうだったかはオリジナルデータを見ないと分かりませんが、色調編集するうえで重要なポイントです。球体の質感も含め、もう少しこの画像データのポテンシャルを最大限活かすことができればより引き締まった作品になっていたでしょう。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

記念品のお届けについて

FA43Lさんには「免許中伝ミニ木札」、ぷりずなーさん、パパさんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!

記念品は8月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

その他の投稿作品をご紹介

最後に、7月前半のお題の投稿作品の一部をご紹介させていただきます。
こちらは師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んで掲載しております。

〔クリックで写真が大きくなります〕

以降のお題へのご投稿もお待ちしています!

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