4月のお題は…『コンビニのある風景』

新納翔 師範

日本津々浦々風景が画一化していく中、その最たる例の一つがコンビニエンスストアではないでしょうか。旅先で馴染みのチェーンのコンビニに入ると、自宅近くにある店内にワープしたように感じることもあります。

そのように全国展開しているコンビニですが、地域社会と密接に関わっている以上、「コンビニのある風景」として捉えれば各地域それぞれの特色が出るはずです。ただコンビニ自体を撮るというより、コンビニを通して各々の街が持つカラーを表現して欲しいと思います。
コンビニから見るそれぞれの都市風景、お待ちしております。

なお、地域によって色々なコンビニがあると思います。
昔ながらの個人商店等もOKです。

 

新納翔 師範からの4月のお題は『コンビニのある風景』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

4月の挑戦者その1:いくら.hさん(他流挑戦者)

最近、日影に現われるビルに反射した光が「街っぽさ」のではないかと感じます。
写真を撮ったとき、道路幅員と建築基準法によって確保された朝日で街全体がまぶしく、
また陰影が強く出ていました。ビルの陰に映ったコンビニの看板の反射光が気になって写真を撮った写真です。

街をどんなに小ぎれいにしても、裏側は絶対に生まれること。
そしてその暗がりに、かえって落ち着きを感じられること。
ただ、それはいつでもどこでも変わらないものへの安心感が担保しているかもしれないこと。
でもその均質性にどこか退屈していること。などアンビバレントに感じています。

いくら.h
千葉県在住、男性。SIGMAのコンデジとsonyのデジタル一眼、GR IIを使っています。 生活圏内で写真を撮っていることが多いです。SIGMA dp0 Quattroで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

都会の一角に反射したコンビニエンスストアのロゴ、どこか見覚えのある場所のようでどこだか分からない匿名性が今の東京を物語っているように感じます。銀座のようにも見えますが、どこなのかしら・・・と、見る側に写真を読む余韻を残すことは重要なことです。

太陽光によって作られた透明なライトカバーとおぼしき影と、ビルによる反射光にが壁面に投影されて出来たロゴ、本来は全く違う種類の光なのにそれらが混在しているのがこの作品のナイスポイントです。写真は光の産物と言いますが、この写真の中にはそれが詰まっているように感じました。作者のコメント「街をどんなに小ぎれいにしても、裏側は絶対に生まれる」、まさに同感です。私も普段よりフラッシュを焚いたり、ピーカンの日は街の本質が露呈されるように感じます。

SIGMA dp0 Quattro、換算21ミリの超広角レンズで街を撮るときに重要なのは距離感です。気を抜くと余計なものが写り込んで見せたいものがぼやけてしまいがち。寄るなら寄る、引くなら引かないと中途半端になってしまうので取り扱いがとても難しい焦点距離だと思います。さらに言えば、物理的な距離感と心の距離感は必ずしも一致しません。近くにあるのに、その存在がとても遠く感じるというのはよくあること。自分が被写体に対してどの程度の距離で対峙しているのかということを考えることも大切なことです。

この写真はそこが詰めきれられていない印象を受けます。地面のタイルは本当に必要なのか、それが画面内にあることによって何を意味するのか、作品として提示している以上、隅々まで考えてください。それは撮影者の責任です。ここはもっと寄って、このシーンに出会って最初に抱いた感動を素直に表現すべきだったと感じます。

それと同じように、シャドー部をどこまで出すかというのもポイントですね。人間の目はカメラ以上にラチチュードが広いので、コメントにある撮影意図であれば画面左を占めるシャドー部の扉はここまで出さなくていいと思います。うっすら何かある程度にしたほうがスッキリしますね。トーンカーブでシャドー部をしめるだけで大分印象が変わるはずです、レタッチ例を参考にしてみてください。

ときに観る側へ写真を読む余韻を残すことも重要です。次作はその点を踏まえてまた応募してきてくださいませ。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

4月の挑戦者その2:ミムチさん

日が沈み僅かな残照とそこに存在を主張するコンビニ。美しい光と人の生活を感じてシャッターを切りました。

ミムチ
茨城県在住、男性。風景とスナップ中心に撮っています。新納さんの道場は初挑戦です。よろしくおねがいします。PENTAX K-1 Mark IIとsmc PENTAX-D FA MACRO 100mmF2.8 WRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

夕暮れ時、家々の明かりがつき始め、コンビニのライトが浮かび上がる時間帯。都市風景の中に存在するコンビニをうまくキャッチしています。マンションの部屋の明かりから、人は写っていなくてもその営みが伝わってきます。構図もかっちりしていて、中望遠で撮ったこともあり画面整理がしっかりと出来ていると思います。川の対岸から撮ったのでしょうか、見ていて気持ちのいい写真です。

ただ、これはちょっと明るさに難ありです。意図的に実際の景色より暗くして心象風景を表現するようなこともありますが、これは単純に調整ミスのように見えてしまいます。そういう場合の原因として、モニタの色・輝度再現がおかしくなっているということが考えられます。

プロが使うモニタが高額なのは、モニタにおける色再現の正確さ、画面内の色むらの無さなどがあります。モニタは一度正確な色に合わせても、点灯時間が長くなるとどうしてもズレが出てきます。それを自動的に調整してくれるのがキャリブレーションモニタです。常に正確な表示ゆえ、レタッチに集中できるストレスフリーな道具なので、プリントする機会の多いプロにはマストアイテム。色再現のおかしいモニタで作ったデータはそのモニタでは普通に見えても、正しいモニタで見ると色転びしていることが多いので、仮に写真上達を目指すのであれば、レンズ一本買うお金をモニタに使うべきだと思っています。間違った色でいくら試行錯誤しても時間の無駄です。

今回の作品は夕方の暗がりの中に浮かぶ人工の明かりを表現しようとしたように感じますが、レタッチ例のように部分的に調整していけば表現可能です。せっかくの桜も色が出ていないので勿体無いです。右下のガレージなど、細かいところを見たくなる写真なので大きなプリントで拝見したい写真ですね。

プリントすると写真が上手くなるというのは、大きくするので写真のアラに気づきやすくなるのです。ぶれていないようでぶれていたり、解像感が足りなかったりと。そうすると、もう少し絞っておけばよかった、重くても三脚を使っておけばよかったと撮影にフィードバックされるのです。

これも写真上達には必要なことですね。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

4月の挑戦者その3:あきやんさん

佐世保市にある教会とコンビニです。教会のステンドグラスとコンビニの看板の鮮やかさ。
似て非なる物なんですが、共通のものを感じて撮影しました。

あきやん
長崎県在住、男性。写真を趣味にしてもう9年ほどになります。 風景に限らず、一期一会、一瞬を大切にしながらシャッターを切っています。なかなか上手くいかないことも多いですが、そこも楽しめたらと思っています。PENTAX K-1とsmc PENTAX-FA 77mmF1.8 Limitedで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

佐世保市にある教会とコンビニということですが、これはインパクトありますね!今回のお題の目的は、コンビニという画一的な存在を通していかにその土地の特徴を表現するかという所にあります。その点、実にお見事。

教会がライトアップされているせいか、夢の国「ディズニーランド」のお城のようにも見えて、コンビニという超現実的なものとの対比が作品としての面白さにつながっているように感じます。夜に撮ったことで余計な情報が消え、その対比がより強く画面に出ていますね。おそらく日中に撮ったのでは平凡な写真になっていたかもしれません。夜の闇に浮かび上がる教会とコンビニ、絶妙です。

とても良いシーンを見つけたのはいいのですが、ちょっと残念に思うことが二点。それをクリアしていれば免許皆伝だったかもしれないのでとても残念に思います。一点目はおそらくご本人もお気づきかもしれませんが、教会という建築物をメインとしているのであればかっちりと見せたいところ。Exifデータでは「ISO6400」で撮影ということですが、さすがにディティールや質感が失われ、偽色も出てしまってせっかくの良さが半減してしまっています。この作品で一番重要なものだけに、三脚を使い低感度で撮影していたらもっと良い写真になっていたでしょう。

デジタル写真においてノイズの処理はとても重要なものです。時には今作とは逆に、ノイズが味になることもあるので、自分の作品意図に合わせてノイズをコントロールできるようになれば一人前。デジタル特有ののっぺりとした絵というのは、現実の景色以上に色が均一になってしまっているので、ノイズをまばらに加える(ガウス分布)ことで均一さが崩れ、見た目がナチュラルになるのです。ノイズをマスターすることはデジタルを制すると言っても過言ではないでしょう。

次に二点目は「文字情報の処理」です。画面下にある「カレーパーティー」の広告幕は違うコンセプトの写真ならあっても良いと思いますが、今回はカットした方がスッキリします。文字情報は思いのほか強いもので、そこに視線が持って行かれてしまうのですよね。本来見せたいものではないので、思い切ってトリミングしてしまいましょう。レタッチ例では結構トリミングしておりますが、画面に緊張感を持たせる方が観る側にとっては良い作品になるのでメリハリをつけましょう。例えばセブンイレブンの看板の右側の余白などは詰める、そういうことを仕上げの段階でやっていくのはとても大切なことです。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※クリックで大きく表示されます



師範より4月前半の総評

コンビニのある風景というお題を出した当初は、わかりやすい課題だと思っていたのですが自分で街中のコンビニを意識して撮っていると結構難しいお題だったかなと心配しておりました。ただ応募作品を見ると皆さん工夫して作品を撮られているようで若干ホッとしております。

コンビニだけを撮っても面白くするのは難しいですし、そこからどう広がりを作るかが今回のポイントです。コンビニの外観は同じでも、どういう地域にあるかによって画面全体にその特色を詰め込むことができれば良いのだと思います。前半戦はちょっと苦戦の様子が見て取れた感じですが、今回の講評を生かして後半戦に挑んでみてください。

正直コンビニが写っていないくらいの写真でもいいんです。コンビニを連想させるものがあるような風景、そんなものでもいいし極論コンビニの店内からの風景だって立派なコンビニ写真なので、こんな撮り方があったのか、と驚かせてください!

 

記念品のお届けについて
あきやんさんには「免許中伝ミニ木札」、いくら.hさん、ミムチさんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!

記念品は5月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

その他の投稿作品をご紹介

今回はシステムエラーで投稿できない期間が長くご迷惑をおかけいたしました。その影響もあり挑戦数も少なかったため最終選考ノミネート作品はありませんでした。
師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んだ作品をご紹介させていただきます。

〔クリックで写真が大きくなります〕

以降のお題へのご投稿もお待ちしています!

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