5月のお題は…『季節を切り撮ろう』

新納翔 師範

写真を撮るのに外出すると、視覚だけでなく肌で感じる温度・草木の匂い・小鳥のさえずり・・・と体で季節の移り変わりを感じます。どのジャンルの写真作品でも春夏秋冬が写り込むのが日本ならではの良さではないでしょうか。

今回は「季節を切り撮ろう」という、自由度の高いお題にしました。

何を撮るのか自分で見つけることこそ写真表現で一番重要なことです。一貫したテーマ性を持つことで、自分が写真を通じて何を表現したいのかが自ずと見えてきます。
それは写真というものが、自分が常に考えている思考の集合体だからなのです。
まずは撮影してきたデータを見返し、日頃どういうものに惹かれてシャッターを切っているのかを考えてみると良いでしょう。

新納翔 師範からの5月のお題は『季節を切り撮ろう』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

5月の挑戦者その1:yasukouさん(他流挑戦者)

青空の中つつじ咲く上を滑り抜けていく家族

yasukou
愛媛県在住、男性。77歳写真好きジジイです。Nikon ZfcとNIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

黒島海浜公園でしょうか、青空の下・満開のつつじの中、コースターを滑走していく家族。その奥に見える街と海、とてもいいロケーションをうまく切り撮っていますね。画面外に続いていくコースターにどこか希望を感じます。つつじを入れた写真でも、土地の特色がうまく盛り込まれており、東京で見るものより南国の雰囲気を感じます。この写真の一番いい点は、わざとらしさがない自然なカメラアイにあると思います。まさに作者がカメラと一体化し、日常に溶け込んでいるような感じ。これが簡単そうで難しいのですよね。

カメラを持つとつい「いい写真を撮ってやろう」「これは絵になるぞ」という欲が出て、それが写真に出てしまうものです。それを感じさせないのはさすがです。

さて、より良い作品にするためにはどうしたらいいのか考えてみましょう。この写真のメインであるコースターに着目すると、右上から左下に抜けていく躍動感ある構図。であれば、奥の海はしっかりと水平を出したほうが全体に安定感が出ます。この道場では水平・垂直のことに言及することが多いですが、必ずしもすべての写真で出す必要はありません。ただ、中途半端に出ていないと「意図して傾けた」のか分からず、全体としてその作品のいい部分をも壊してしまうのです。この写真においては、奥の水辺がしっかりと出ていればよりコースターの滑走感が強調されます。

次に色彩についてですが、全体にマゼンタが被っているせいで青空が濁ってしまっています。これは勿体ないです。レタッチ例では全体からマゼンタを適量抜き、奥に見える山と海が色調的に空と同化しているので、部分的にコントラストをあげて分離させています。こうすることでより遠近感のある作品になります。

やや撮って出し感の強い色調に感じるので、レタッチ例ではややイエローを入れて雰囲気を出してみました。まぁこれは私の好みなので、正解例というわけではありませんが自分なりの色調を持つことは大切です。一枚一枚なんとなく仕上げていると、組み写真のように複数枚の写真が並んだ時に、統一感のないバラバラな作品になっていまいがちです。

カメラが作る色もいいですが、それをベースに自分なりの色を試行錯誤して見つけるのは写真表現をするうえでとても重要なポイントです。撮影後のちょっとした調整でyasukouさんだけの世界になるのです。次作も期待しております!

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

5月の挑戦者その2:Melyukiinaさん

垂直に降り注ぐ太陽の強い日差しに照らされてくっきりと傘の影が模様を展開しています。
最近夏の風物詩としてビニール傘でカラフルに設置するショッピングモールが増えてきました。
ビニール傘→雨→6月のイメージですしたが、もともとビーチパラソルや日よけ傘の夏の代表的な
イメージが合わさり強い日差しの中、こうしてカラフルにたくさんの傘で、海ではない場所を
常夏の島のリゾート地にいるかのような雰囲気にする夏の代名詞になってきたのではないでしょうか?

Melyukiina
愛知県在住、男性。中学で星が好きになりRICOH XR500を手にしてマニュアル撮影デビュー。 PENTAX望遠鏡は天文雑誌などで憧れブランド。 いまはデジタル一眼K20D,K-5,K-1と乗り継ぎTHETAも手にしたRICOH-PENTAX育ち。 K-1縦グリップ付きで85mmを付けて街歩きをしていると プロのカメラマンが来てると間違えられてよく話しかけられます。 それも街歩きの楽しみの一つです。PENTAX K-1とHD PENTAX-D FA 15-30mmF2.8ED SDM WRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

カラフルな傘がこれでもかと吊るされていて、某グルメリポーターなら「傘の宝石箱やー!」と叫ぶに違いないシーン。傘だけでは特定の季節感を出すのは難しいですが、晴天の傘だとこれから来る梅雨を連想するのは私だけでしょうか。

地面に落ちた色とりどりの影と1人歩く男性、面白いスナップショットです。地面に置いてある赤い傘はアクシデントなのか、こういうオブジェなのかは分かりませんが良いアクセントになっていますね。これはこれで良いのですが手書きの講評に書いた通り、地面に落ちた影だけを見せた方が表現に広がりが出ると思います。ちょっと欲張ってしまったかなと。そうすることでこの場所を知らない人からすれば、地面にこんなにパラソルの影が写っているけど一体どうなっているのだろうと、画面外の景色にまで思いを馳せるでしょう。写ってないからこそ広がる世界、そういう点にも気を配ると作品がより重厚なものになるわけです。

Melyukiinaさんだけでなく、道場に応募される方の多くの方が1番頭を悩ませているのは正しい色を出すことだと思います。明度が変われば色味も変わってきます。高価なカラーマネージメントモニタがなくても、極力正しい色に近づけるための工夫として、画面内の「白である部分」がしっかり白く出ているか見てみるのもいいでしょう。

たとえば写真内にあるガードレールや看板など、白でなくてはいけない場所が色転びしていないかを探るのです。Photoshopならそういった白であるべき場所だけを範囲選択してヒストグラムを表示させることで、数値としてRGBの偏りが出るので写真全体のカラーバランスをつかむことができます。

今回の作品のヒストグラムを手書き講評の方に貼っておきました。ヒストグラムの形に正解はありませんが、この場合においてはやや全体的に左寄りで暗いことを示しています。カラフルな写真なのでもう少し山が右側にいくような調整をすべきでしょう。

ちなみに撮影時にヒストグラムを見る癖をつけることで、RAWで撮っていたとしてもより編集しやすいデータを得ることができます。

次回はもう少し肩の力を抜いて挑戦してみましょう!

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

5月の挑戦者その3:あしろさん

「成長の春」 節目のイベントが多い春は今までただただ子どもの成長を喜んでいました。
今年になり初めて、いつの間にか手をつながずに先を行く姿に
「嬉しさと寂しさが入り混じる春」を感じて思わずシャッターを切りました。
例のネーミング、「丁稚奉公」好きなんですが
札を見た人がびっくりするので「免許二級」はいかがでしょうか?

あしろ
奈良県在住、女性。2児の母兼会社員。普段はK-S2を使用しています。育児家事仕事優先の生活なのでその隙間でいかに「発見!アンテナ」を伸ばすことが出来るかを修行中です。PENTAX K-S2とsmc PENTAX-DA L 18-50mmF4-5.6 DC WR REで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

お見事!

新納翔 師範からの添削コメント

 

子供の成長を喜ぶと同時に、大きくなって我が手から少しずつ離れていく寂しさが見事に収められています。桜咲く帰り道、少し前までは手をつないで横にいたはずの息子さんが先を行き振り返る、見事な瞬間を切り撮りました。たとえ説明がなくても、その心境が伝わってくるのは絶妙な距離感だからでしょう。

通りすがりの人を撮った写真と親しい間の人を撮った作品とでは、しっかり見れば区別がつきます。前者は撮り手からの一方的な視線なのに対し、後者はどこかお互いの眼差しが交差しているのです。逆光がゆえにちょっと画質が荒くなっていますが、それがこのシーンにおいてはいいスパイスになっています。母の温かい視線に免許皆伝ですね!

逆光写真のレタッチはなかなか難しいものです。さらにひとつ上の作品にするために手書きコメントに書いたものを解説いたします。被写体の顔が暗くなってはこの作品の意図に合わないので少しだけ明るくしましょう。ここで注意すべきなのは、無理に明るくしないことです。例えば右上の桜などを明るくしてしまうと違和感が出てしまいます。あくまで影の中であることを留意したまま、必要最低限の調整をしましょう。

またこのシーンは太陽から画面左下に向かって光が指しているので、そのことに注意してみましょう。赤の矢印で囲った範囲のアスファルトを明るく、そうでない部分を暗くすることにより、光のラインがはっきりしてメリハリの効いた写真になります。

「成長して離れていく我が子」を表現するのであれば、もう少しカメラの角度を下にふってのびていく影を写せていればパーフェクトスナップだったと思います。また、先述した光のラインを意識するのであれば日の丸構図ではなく、画面に対して対角線上に入れたほうが良いかと思います。

レタッチ例では以上のことを踏まえ、アスファルトの指す夕日のイエローを足し、桜の部分にマゼンタを少しいれました。より雰囲気がでたかと思います。銀塩の頃はカラーを自家暗室でやるのは大変でしたが、今はパソコン一台あればできる時代。ちょっとした工夫で作品がこうもよくなります。

ちなみに「門前払い」に代わる名称として考えてくださった「免許二級」ですが、これはまさに門前払いですね。

次回も素敵な作品お待ちしております。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

師範より5月前半の総評

5月のお題は『季節を切り撮ろう』は、四季豊かな日本ですから何を撮っても季節が写り込んでくるもの、ということで実質フリーお題という気持ちでおります。今回は今までで一番かもしれないくらいハイレベルな作品が集まりました。他流試合ということもあいまって、作風も人それぞれ、見ていてとても楽しい限りです。

 

一点注意を述べさせてください。応募作品で時々見かける、同じ場所で撮った違うカットを複数投稿というもの、これは次回から全て不採用にしようと考えております。いいシチュエーションに出会ってどれにするか決めがたいという気持ちはわかりますが、セレクトするというのも作者の努め、それを丸投げしてはいけません。何度も見返し、十分納得のいった上で投稿するようにしましょう。

記念品のお届けについて

あしろさん、免許皆伝おめでとうございます!「免許皆伝看板」「免許皆伝ミニ木札」をお贈りします!
yasukouさん、Melyukiinaさんには「免許中伝ミニ木札」をお贈りします!

記念品は6月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

惜しくも選外となった、最終選考ノミネート作品をご紹介

今回惜しくも、最終段階で選ばれなかった作品の一部です。
残念ながら選外となりましたが、まだまだ後半の挑戦も受付中です!

〔クリックで写真が大きくなります〕

以降のお題へのご投稿もお待ちしています!

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