5月のお題は…『季節を切り撮ろう』

新納翔 師範

写真を撮るのに外出すると、視覚だけでなく肌で感じる温度・草木の匂い・小鳥のさえずり・・・と体で季節の移り変わりを感じます。どのジャンルの写真作品でも春夏秋冬が写り込むのが日本ならではの良さではないでしょうか。

今回は「季節を切り撮ろう」という、自由度の高いお題にしました。

何を撮るのか自分で見つけることこそ写真表現で一番重要なことです。一貫したテーマ性を持つことで、自分が写真を通じて何を表現したいのかが自ずと見えてきます。
それは写真というものが、自分が常に考えている思考の集合体だからなのです。
まずは撮影してきたデータを見返し、日頃どういうものに惹かれてシャッターを切っているのかを考えてみると良いでしょう。

新納翔 師範からの5月のお題は『季節を切り撮ろう』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

5月の挑戦者その4:光画技師さん

ゴールデンウイークにバイクで旅をしていた時に立ち寄った佐田岬での写真です。
ひじきの収穫時期って春なんですね。美味しそう

光画技師
大阪府在住、男性。最近、6×7を譲ってもらったのでフィルムも始めました。PENTAX KPとHD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

バイクで鹿児島の佐多岬をツーリング中に出会った光景とのこと、とても素晴らしいシチュエーションを収めましたね。ひじきの収穫作業を終え一休みしているのでしょうか、靴を脱いで寝転んでいるお婆さんと砂浜の方で遊んでいる子どもたち。地元の子かは分かりませんが、一人だけ海に向かって何かを投げて遊んでいるのに他の二人はスマートフォンに夢中というのが現代っ子の姿という感じがしますね。素晴らしいスナップショットです。

ただ、せっかくのシーンなのに全体的に色が浅いのが気になります。色が浅い=ハイキーということはそれだけで画面内の情報量が少なくなり、テクスチャーや色情報が失われてしまうことを意味します。もちろんハイキーが合う写真もありますが、この作品はもう少し明るさを落とした方が良いでしょう。画面左の石垣の影を見れば分かりますがシャドー部が出すぎですね。人間の目は優秀なのでこれくらいに見えますが、写真にする時にはもう少し潰れていた方が自然です。特に画面手前に白があると悪目立ちしてしまうので、この場合は少しトリミングした方が良いでしょう。

この作品の構図として、お婆さんが寝ている石畳のスロープが重要な役割を担っています。お婆さんが寝ているエリアと、子どもたちの遊んでいるエリアを区切っているわけです。なので、この境界の部分を焼き込んであげることでその対比構造が見やすくなりますね。ちょっと撮って出し感が強いので細部に手を加えることで格段と作品の深みが増します、是非この講評を見て現像し直してみましょう。

レタッチする時に写真の持つ「向き」を考えると仕上げをイメージしやすくなります。例えばトンネルの写真なら奥に向かっていくイメージ、左へ歩いて行く人物がいれば左方向の写真のようにそれぞれの写真が持つ向きは重要な要素です。

実際の色は撮影者しか分からないのですが、海とひじきの色は南国をイメージしてレタッチしてみました。ちなみにf16という撮影データですが、やや絞りすぎのように感じます。ピント面はお婆さんだと思いますが、画面奥に収差が出ているように見えました。APS-Cであればf11あたりで十分かと思います。

旅先で撮った作品を家に持ち帰りしっかりと料理(レタッチ)する、その一連の流れができていれば免許皆伝に近づくでしょう。次作はその点を意識してチャレンジしてみてください。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

5月の挑戦者その5:Kaichiさん(他流挑戦者)

COVID-19のパンデミックが宣言され、誰もいなくなった公園の写真です。
何てことのない一枚でも、時代背景を知ることで、印象が変わるのは、写真というメディアの面白いところだなと思いました。

Kaichi
東京都在住、男性。PENTAXを始め色々なメーカーのカメラで撮影を楽しんでます。Leica Qで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

曇天の桜咲く公園で滑り台に誰かが忘れたボールが一つ、何気ないような写真ですが実に味わい深い渋い写真だと思います。ストリートスナップ、もしくはそれに準ずる写真というのは人が入るだけでドラマチックに見えるのは否めないところ。それゆえ、こういう静物だけでしっかり作品を構成するためには構図力しかり総合的な写真力がないと成立しづらいものです。

その点28ミリ単焦点のLeica Qで撮影したものをうまい具合にトリミングして作品に落とし込んでいるところはお見事。このアスペクト比はオリジナルだと思いますが、作品にとても合っていますね。これなら1;1のスクウェアでも良いかと思い私もトリミングしてみましたが、どうもこちらのほうが良いですね。

曇天の日はどうしても色がくすんでしまいがちです。解決策としてはフラッシュをたくか、レタッチでカバーするしかありません。この作品は滑り台を中央にした日の丸構図、全体的に彩度がなくても画面内に一箇所色があるだけで印象がかなり変わります。

今回は滑り台のブルーの彩度を上げてみました。ワインポイントあるだけで写真全体がカラフルに見えてくるものです。やり過ぎは禁物ですが、ちょっと上げるだけでかなり効果的、レタッチ例を参考にしてもらえれば分かると思います。また、こうすることで背景としっかり分離するので被写界深度などはいじらずとも被写体が浮かび上がってきます。

こういう事まで撮影時に意識することによって最終的な作品の仕上がりが格段によくなります。やはり後処理も含めて作品なので、景色を目の前にしてただシャッターを切るのではなく、仕上がりをイメージして撮影することが重要です。レタッチ迷子になる方は特にその点に気をつけてみてください。

私のレタッチ例ではその他に桜にややマゼンタを足し、中央の緑も足しています。これも微々たるものですが、それでもプリントアウトするとその違いがはっきりと分かるものです。さらに公園の地面だけコントラストをあげて質感をより強調しています。

最後に若干ですが滑り台のジオメトリが気になったので補正しました。

Leica Qもトリミング次第では広角感を感じさせることなく撮れるのですね。とてもいい使い方だと思いました。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

5月の挑戦者その6:momocoさん(他流挑戦者)

馬場に3年目の桜が咲きました。
やっと「桜」らしくなってきたなあ、あと何年で並木ができる?と思いながら撮りました。
桜を撮っていたら、猫が「撮って!」と入ってきました。 春だなあ、と感じたひととき

momoco
埼玉県在住、女性。繋ぐをテーマに撮ることが多いです。OLYMPUS OM-D E-M1 Mark IIIとOLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PROで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

桜というのは日本人にとって特別な存在ですね。これほど春を感じさせてくれる素材はそうないように思います。普段から白は白く出しましょうと言っておりますが、ややハイライトにマゼンタが入っているのもこの作品の雰囲気にとても合っていると思います。記憶色というように写真のカラーに正解はありません。むしろ自分なりの色を持つことの方が重要だと思います。

どこかの馬場なのでしょう、奥に馬が写っていて手前に桜とにゃんこ。猫というものはどの季節にも馴染みますね。作者のコメントに「桜を撮っていたら、猫が『撮って!』と入ってきました。春だなあ、と感じたひととき」とあるように、おそらく桜と後ろの馬を入れる構図で狙っていたところに猫がやってきたというシチュエーションなのでしょう。ちょっとここが咄嗟の判断を迫られるところ。

結果として見る側からすると、桜に猫、そして馬といささかお腹いっぱいになってしまっているように感じます。さすがに主題が画面内に3つ点在していると何を撮ろうとしたのか分かりにくくなってしまいますね。本来なら撮影時にぱっと脳を切り替えて桜と猫だけに集中して欲しいところですが、レタッチでトリミングしてしまいましょう。

ここですかさずピントを猫に合わせ直し構図を決めてシャッターを押せればプロです。ピントの位置というものは作者の視線と直結する部分があります。例えば三脚の上にカメラを載せて画角を固定し10人に自由に撮影させた場合、ピントの位置・f値によって色々な写真が出来てくるでしょう。

鑑賞者はピントの位置から、その作者がどこを見ていたのかということを追体験することができるのです。

被写体が人物や動物の場合、撮り手が何も考えてなくてもアウトフォーカスにすることで何かしらの意図が出てしまうものです。レタッチ例では猫のシャープネスをあげ、背景の方はややボカしています。以前ならPhotoshopでレタッチするにしても深度マップを作成する必要があったのですが、最近ではAIが自動でやってくれるニューラルフィルターがあるので活用するといいでしょう。まだ完璧とまでは言えないまでも、相当精度があがっています。

全体的に春のほのぼのとした陽気を感じられる色調で良いのですが、馬場の地面が同化しているので部分的にコントラストを上げるともっと良い作品になっていたと思います。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

師範より5月後半の総評

季節感といっても投稿作品を見ていると本当に表現の幅があることに改めて気付かされます。四季の植物、人々の着ている服、各地方での行事・・・実にたくさんあります。

今回は三名とも免許中伝という結果になりました。他流試合のおかげか当道場のレベルもどんどん上がってきているのでちょっと辛口にワンポイント。全体に言えることなのですが、自分の写真を客観視できていない作品が多いように感じます。現像して仕上げまでやり、その勢いのまま投稿していませんか?

一度作品を寝かせ、作品と向かい合う時間というのが一番大切だと思っております。写真が上手いというのは撮影よりもセレクトや見せ方が上手いことの方が多いと思います。自分の写真と向き合うことは自分自身と対峙することです。それがないと魂の抜けた写真になってしまうのです。

その点をじっくりと考え免許皆伝を目指して頑張りましょう!

記念品のお届けについて

光画技師さん、Kaichiさん、momocoさんには「免許中伝ミニ木札」をお贈りします!

記念品は6月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

惜しくも選外となった、最終選考ノミネート作品をご紹介

今回惜しくも、最終段階で選ばれなかった作品の一部です。
残念ながら選外となりましたが、まだまだ後半の挑戦も受付中です!

〔クリックで写真が大きくなります〕

以降のお題へのご投稿もお待ちしています!

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