6月のお題は…『駅から見る都市風景』
移り行く都市風景と鉄道というものは切っても切り離せない関係にあります。人々の暮らしになくてはならないがゆえに、景色に与える影響力は計り知れません。日本中を見れば、駅を中心として街が形成されている例も珍しくないでしょう。
作例の写真は横浜の鶴見線・海芝浦駅、ホームが海に面している珍しい駅です。ホームから撮った一枚ですが、遠くに京浜工業地帯の様子が見て取れます。
改札を出ると直接会社の敷地になっているので、これを撮った時は退勤する人で溢れていました。まさに駅から見る都市風景ではないでしょうか。
皆様の街にある駅、そこから見える都市風景、ご応募ください。
新納翔 師範からの6月のお題は『駅から見る都市風景』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。
6月の挑戦者その1:capriさん
工場夜景を撮りに行った際、もしかしたら最寄りの駅からもこの工場を見られるのでは?と思い立ち、
急遽、駅へ移動して撮影した一枚です。(入場券が売っていて助かりました)
利用客の邪魔にならないよう、ホームの端っこで撮影しています。
埼玉県在住、男性。風景、スナップを中心に写真を撮っています。 愛機はK-1 Mark II、K-3 Mark III、GR III。PENTAX K-1 Mark IIとHD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WRで撮影。
師範の判定結果は・・・
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もう一歩!
工場夜景を撮りに行った帰りに駅から撮った一枚とのこと、駅名を頼りに調べてみると群馬県安中市にある設立1937年の歴史ある製錬工場なのですね。一時期工場萌えの写真集が流行ったように思いますが、改めて見るとあちこちに延びている大小様々なパイプや管がまるでひとつの生命体のようにも見えます。その唸り声が写真越しに伝わってくるようですね。
今回のお題「駅から見る都市風景」は、我々の生活に欠かせないインフラである鉄道をどのようにして作品に落とし込むかがポイント。鉄道や駅を主体とするのではなく、それらは通してその街や人々の暮らしをどう描くかというところが重要な点です。お題の裏には毎回何らかの意図があります、そこを解釈し自分の作風に反映させることが免許皆伝への道です。
この写真を改めて見ると、その点実に勿体ない!写仙人もご指摘の通りですが、その場所がどういう所なのかを説明する為のいわゆる「説明写真」になってしまっているのですね。工場夜景のガイド本に使う写真としては良いのですが、「写真作品」に昇華しきっていないのです。その原因は写真が与える情報が多すぎることにあります。
写真内の要素を大きく分けると、奥に見える工場夜景と停車している電車・駅の2つに分けられます。画面全体に占める面積比を見てみるとどうでしょう?さすがに工場の方が多いですが、後者もかなりの割合を占めています。さらに文字情報というものはかなり強いので、常に気をつけなくてはいけません。日本語で固有名詞が書いてあると無意識にそれを読んでしまい、見る側に「説明写真」要素を与えてしまうのです。
写真を見る側に解釈を残してあげることが重要。今回のお題も合わせて考えればもっと工場の方に寄せる方がいいでしょう。レタッチ例はトリミングによって本の少しだけ駅の要素を残したまま工場主体にしています。アスペクト比はそのままにしてありますが、2;3の方が良いと思います。28-105mmの広角側で撮っているのでまだまだ撮影時に工夫できたでしょう。
工場夜景を撮らないので推測ですが、長時間露光する際に電車が白飛びしないように気をつけたのではないでしょうか。その為にメインである工場の露光時間がやや足りなくなっている気がします。せっかくのシチュエーション、もっと質感が欲しかったですね。
ちょっと欲張ってしまいましたね。撮り方次第では免許皆伝作品が生まれたように思います。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
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6月の挑戦者その2:あおベーさん
赤字路線だったために国鉄からJRに移行されず、第3セクターで再出発した某ローカル線。
乗客は通学の高校生が中心なので、駅はいつも閑散としています。これは、東口の西口を繋ぐ通路ですが、
下校時でもこんな感じ。 地方の駅は大抵、「都市風景」とは縁遠いのではないでしょうか?
年季が入ってくすんだ壁と使い古したコンクリートの床で、昼間でも何となく薄暗いこの通路を歩きながら、
高校生たちは、卒業したらこの町を出て夢を叶える!という自立心と野望を育んでいるのかもしれません。
師範の判定結果は・・・
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もう一歩!
作者のステートメントがとても良く、この写真にその心情が見事表れているように感じました。写真だけで作品が決まるという考えもあるでしょうが、私はその時作者が何を考え、そしてシャッターを切ったのかという「過程」も作品の一つだと考えておりますので、言葉はとても大切なものだと思っております。
昼間でも何となく薄暗いこの通路を歩きながら、高校生たちは、卒業したらこの町を出て夢を叶える!という自立心と野望を育んでいるのかもしれません。
本来賑わいを見せるはずの時間帯でも閑散としている連絡通路に馳せる想いが、薄暗い通路に差し込む夕日に反映されていますね。ちなみに都市という言葉ですが、あおべーさんに限らず、その場所が都市と呼ぶに相応しいか懸念される方はいらっしゃると思います。都市の持つイメージというのは東京等を中心に年々アップデートされていくもので、非常に流動的な言葉であると思います。高度成長期の都市のイメージ、令和の都市のイメージ、それぞれが全く別物。かつてのイメージが取り残されている場所をノスタルジーと言うのでしょう。ですからその地域それぞれにあった捉え方をして貰えれば良いのではないでしょうか。
この作品はやはり通路に落ちた夕日がメインとなっています。薄暗い通路との対比をもう少しはっきり出せれば良かったですね。投稿作品はややコントラストの弱い眠い写真なので、コントラストを上げつつ夕日の部分だけ強調されるようにレタッチし直しました。
また、シンメトリーな景色ゆえに左右対称になるような構図ですが、ここは夕日が作る四角形のセンターを全体の中心にしたほうがしっくりきます。レタッチ例を見て頂ければ分かると思いますが、トリミングによってアシンメトリーになっていますが違和感はないと思います。
とてもシンプルな写真ゆえに細部までこだわりぬくことが大切です。情報量が少ないだけに一つ一つのアラが目立ちやすくなるので、実は難しい切り撮り方なのですよね。垂直・水平からシャドー部の占める割合など、再度考えてみましょう。
同じ写真をトリミングやレタッチなど何回も最終形に持っていくのはとても勉強になることです。次作も期待しております。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
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6月の挑戦者その3:Melyukiinaさん
【RAIL RIVER SIDE】 駅庁舎ビルが商業施設化して高層ビル化しているのが名古屋駅の特徴です。
現在立っているこの場所の地下部にリニア駅ができる予定です。駅庁舎が高層化したことにより、電車の流れる川の景色が日常となりました。
昼間の写真ですが朝陽や夕陽の川の景色もよいので次は撮ろうと思います。
愛知県在住、男性。中学で星が好きになりRICOH XR500を手にしてマニュアル撮影デビュー。 PENTAX望遠鏡は天文雑誌などで憧れブランド。 いまはデジタル一眼K20D,K-5,K-1と乗り継ぎTHETAも手にしたRICOH-PENTAX育ち。 PENTAX K-1とHD PENTAX-D FA★85mmF1.4ED SDM AWで撮影。
師範の判定結果は・・・
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お見事!
名古屋駅の新駅舎から撮影したという一枚、複数走る線路の脇にひしめき合うビル群、遠方には山脈と名古屋という街の構造を見事に表現している作品ですね。これはあっぱれ!
名古屋駅にゲートタワーが出来たということも初めて知りました。仕事で訪れても、駅ビルの一階でひつまぶしを食べ味仙の肉味噌をお土産に買う程度だったので、次行くことがあればもっと街を見てみようと思いました。
これは高層階から撮ったものだと思いますが、情報量の多さについつい見入ってしまいます。ガラス越しの撮影でしょうが、とてもクリアですね。85ミリという選択肢も良かったと思います。遠くに見えるのは木曽山脈でしょうか・・・、東京では西の方にいかないと絶対に撮れないシチュエーションなので地域性もしっかりと出ています。中望遠スナップは普段やらない人はとても新鮮味があるのでオススメです。単焦点レンズでなくても、ズームレンズで焦点距離を固定して撮るのも良いでしょう。
免許皆伝おめでとうございます!しかし、パーフェクトthe免許皆伝には一歩及ばずというところですね。
この作品を印象深くしているのは右下の赤いクレーン車です。これがあるのと無いのとでは大違い、これだけたくさんのビルがあるのに赤の要素が少ないのでとてもいいアクセントになっています。こういうのは偶然かもしれませんが、心の中でガッツポーズを決めてしまいますよね。もしかしたら名古屋は都市の形成上、赤の要素が少ないなんてことも言えるかもしれません。
ちょっと気になるのが全体の色味ですね。シアンにふっていること自体は良いのですが、自分で作った色、言い換えれば自分が意図して作った色というよりは編集アプリの色という感じが否めないのですよ。これはLuminarを使って編集したものですが、よくLightroomぽい写真と言われるものってどこかソフトに使われている感じが出てしまっているのです。ソフトは使うものであって、使われてしまってはミイラ取りがなんちゃらです。
これはLuminarが悪いのではなく、撮影時から最終的な落とし所をしっかりと決めていないのが問題だと思います。どうしても編集時に色々なパラメーターを動かして「なんとなくいい感じになった」という印象が拭えないのです。もっともっと自分のカラーを追求してみてください。レタッチ例はあくまで参考ですが、シアンにふるにしてもシャドー部や部分的に追い込んだ方が良い場所はたくさんあるように感じました。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
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師範より6月前半の総評
あおべーさんの講評にも書いたとおりですが、この数十年で「都市」という言葉が持つイメージは日々アップデートされています。地方都市だから都市風景が難しいというのではなく、地域性が自然と写り込んでいるものが都市写真だと捉えれば良いと思っております。
実は今回のお題、資料が手元にないので若干曖昧なのですが川崎市民ミュージアムの企画展で「鉄道から見る都市」といった内容のグループ展があり、それがとても素晴らしい内容だったので道場でもやってみようと思った次第です。確か長野重一さんをはじめ、昭和を代表する作家が名を連ねておりました。
スマートフォンが普及し、数十年前と比べ車窓を眺める人は格段に減ったと思います。車窓からの景色は街の変化が一番分かるものなのですが、今を生きる人はそういった足元の変化に疎いように感じます。日々変わっていく自分の街を記録することは写真家にとってとても重要な仕事なのです。
皆さんも経験があると思いますが、カメラを持っていると街をより観察するようになりますよね。もっともっと五感で感じ取って、街の息遣いを写真に落とし込んでみてください。
記念品のお届けについて
なんとこれでMelyukiinaさんは2度目の免許皆伝ですね!ぜひ、古から伝わるという「パーフェクト the 免許皆伝」を目指してみてください。
記念品は7月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。
惜しくも選外となった、最終選考ノミネート作品をご紹介
今回惜しくも、最終段階で選ばれなかった作品の一部です。
残念ながら選外となりましたが、まだまだ後半の挑戦も受付中です!
〔クリックで写真が大きくなります〕
以降のお題へのご投稿もお待ちしています!