6月のお題は…『電線のある風景』

新納翔 師範

電線がどんどん地中化されていく中、このお題は50年後だったら出せないかもしれません。何気ないものでも今しか撮れない景色ということで今回はこのお題を選びました。そう思うと特別なものに見えてきませんでしょうか?それを自分なりに写し撮ってください。後世に残る電線写真、お待ちしております。

新納翔 師範からの6月のお題は『電線のある風景』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

6月の挑戦者その4:タナカケイさん

夜、パソコン作業に疲れて自室から外を眺めると月が昇っていた。
マジックアワーは東の空も赤く染まっているのだと知った。

タナカケイ
東京都在住、男性。SP、KP、K-3 Mark IIIユーザー。学生時代にPENTAX販売でアルバイトをしたご縁でPENTAXファンに。PENTAX KPとHD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR REで撮影。

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

毎回口を酸っぱくして言っていることですが、作者のステートメント(コメント)はとても重要なものです。この作品は写真単体の面白さに加え、ステートメントにあるようにパソコン作業に疲れてふと窓の外を見た時の気持ちがストレートに伝わってくるいい写真だと思いました。作品を撮ろうという気概ではなく、その時の感情が素直に写真に表れていて電線写真にとどまることなく、そこに自分をも投影させているいわば「私写真」の要素もあるのです。

よく見ると写真中央にうっすら写っている白い光、これは室内の光が窓に写ったものでしょう。さらに画面右はカーテンかなにか室内のものが写り込んだのだと思います。これらによって、きっとパソコンデスクから外を見てふとそばに置いてあったカメラで夕暮れ時のグラデーションに染まる空模様を撮ったのではないかと勝手に想像してしまいます。写真が生活の中に溶け込んでいるからこそ、自分の視線がそのまま写真になっているのは素晴らしいことです。

誰しもが経験したことのある話だと思いましたが、苦労して撮った写真よりも自分ではなんとなくシャッターを押した写真の方が受けることってありますよね。ちょっと力が抜けて、撮影者の感性がそのまま出ている、それすなわち人間性が露呈する写真にこそ他者はオリジナリティを感じるものなのです。

色調もやや暗めのトーンに仕上げてあり、多少ノイズを加えたのでしょうか、まさに心情が反映されているのでしょう。色調などに関しては特に指摘することもなかったので、レタッチ例はあくまでこんな感じの仕上げもあるのだという程度に載せました。ちょっとだけ電線の存在感を出すためにトリミングし、月が中央にあるのも作業から開放されて撮影したというのであればちょっとアバウトな位置のほうがいいかなと思いました。

〔新納翔師範によるレタッチ見本〕

 

写真とステートメント合わせて一つの作品になっているいい例だと思います。それゆえに、写真単体の強さがもっと増せばより高評価になったでしょう。きっと自分の写真というものがまだ確立されていないのだと思います。撮ることも重要ですが、今まで撮ってきたものを見返して「何を撮っているのか」「どこに自分の視線が向いているのか」、それらをよくよく見つめ直すとこれからの写真が格段によくなるでしょう。

6月の挑戦者その5:阿部史日呼さん

電線は電気を通してるのだけれどそれ自体は光りません。
電線が光るような表現はできないかと探していたところに見つけた一枚です。
街灯に照らされたガードレールと柵が電線を写しているように見えました。

阿部史日呼
大阪府在住、男性。初めて購入した一眼レフがPENTAX K100D。それからずっとPENTAXを使い続けています。PENTAX K-1 Mark IIとHD PENTAX-FA35mmF2で撮影。

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

まだ蛍光灯が主流だった頃、近所の街頭がLEDに変わり、あまりに明るくてまるで舞台照明のように感じたのを今でも鮮烈に覚えています。都心では暗かった夜はもう過去のものになったのかもしれません。

画面内にぽつんとある街頭に照らされたカーブミラー、雨の後だったのか電線と柵が街頭の明かりを受けてきらめいています。それらが光の筋となって美しいラインを作っています。この作品の中では唯一の光源がこの街頭であり、引き気味に撮影したことも相まって街の静粛さをとてもうまく表現していますね。電線をこう表現するというのは考えつかなかったのでお見事です。画面右が西の方角なのでしょうか、空がうっすら深い青のグラデーションに包まれています。

画面左下が人工的なLED照明の青白い光、その対角線上である画面右上に広がる自然光の深い青というのが対比的でこの作品の肝とも言えますね。まぁもしかしたら私の深読みかもしれませんが。誰もいない風景と住人には欠かすことの出来ない電気を送る電線の存在感、誰も写っていないけどここに暮らす人々はしっかりとこの一枚に写し込まれていると思います。

これは是非プリントで見てみたいと思う作品なのですが、ちょっと残念なのがf2.5で5秒という撮影条件。使用レンズが35/2なのでもう少し絞った方がこの写真においては解像感もあがり、より柵の光の筋もかっちりとしてくると思います。ただ、静止しているようで電線もかすかに揺れているので撮影時間は短くしたいもの。そこは感度を上げるのも選択肢もアリですね。一見静止しているようでも車が通るだけでブレの原因になるので、長時間露光は撮影後のシビアな確認作業が求められます。

最大のマイナスポイントは手描きコメントにもある通り、右側にうっすらではあるものの写っている鉄塔です。せっかく視線を画面右下の街頭に誘導しているのに、鉄塔の存在でポツン感が薄れてしまっています。しかも画面内では鉄塔の方が大きい。ここは断腸の思いで切ってしまう方が良いでしょう。それとレタッチに関して空の部分にトーンジャンプが見られます。これは保存する段階で出来たものかもしれませんので確認してみてください。

ちなみにもう一点のモノクロ作品は単写真だと何を伝えようとしているのか写真から読み取りにくいかなと思いました。もしかしたらカラーの方がよかったのかも。なぜモノクロにしたかという明確な理由を再度考えてみて下さい。

良い写真ほど、もっと出来たはずだと厳しめな採点をしてしまうのが私の悪いところなのですが、それは期待しているからこそだと思って是非またチャレンジしてくださいませ。

〔新納翔師範によるレタッチ見本〕

6月の挑戦者その6:FA43Lさん

City Scape『電線のある風景』
自分が興味のないジャンルの写真撮影をすることは構図などを含め、
大変勉強になる気がします。
4月から6月までのテーマにリズム感を感じ、気配・・・自分だけの・・・電線の
ある・・・の要素をすべて盛り込もうなんて考えましたが、さすがに無理でした。
でも、これぞ『電線のある風景』と感じる景色を見つけたので1枚。
日常生活に欠かせない電線。これが当たり前というように街に溶け込んでいました。

FA43L
神奈川県在住、男性。最近は夏に近所でセミの写真を撮ることを楽しんでます。PENTAX KPとHD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR REで撮影。

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

望遠レンズの圧縮効果によって都会に溢れる電線の存在感をこれでもかというほどに感じますね。実際の見た目とは違うものの、電線で埋め尽くされそうな都会の空は心理的にはこう見えるという表現なのだと思います。それと奥行き感がなくなり平面的になるのも望遠レンズを使う場合の特徴です。私も普段645Zに105mmが標準スタンスなのですが、それはビルの後ろにある建物、そしてさらにその奥にある建築物という見かけのレイヤー構造を無くしてしまうことで、目の前にある景色をフラットにしたいという想いがあるわけです。この作品は地中化によってなくなりかけている電線の存在感を作者なりに表現し、やがて変化する電線のある風景をよく可視化できていると思います。

このカットは画面下から電線にかけての密度が凄いのですが、空の比率をもう少し落とした方がいいと思います。空があることによって、そこから画面外に広がるイメージを与えてしまい、せっかくの密度が薄まってしまうのです。開放的なイメージであればそれでいいのですが、この作品の場合は密度を大切にした方がいいですね。

カラー写真はどういう色調にするかということも作者の表現意図であるのでとても重要なポイント。なぜその色調にしたのか、我々プロであればそれをはっきり説明できないといけませんし責任を持たなくてはいけません。FA43Lさんの写真を毎回見ておりますが、もう少しニュートラルな色調にした方がいいです。プリントしてみると分かるのですが、結構ハイパス系の処理された写真が沢山ならぶと目が痛くなってしまいます。せっかくいい写真を撮影しても、後処理で良くも悪くもなるのでレタッチは慎重にしないといけません。

参考例としてレタッチしたものを掲載しましたが、どこに注意したかを記しておきます。

〔新納翔師範によるレタッチ見本〕

・奥にあるビルの青と信号の青を強調
・白い車が手前に複数あると視線がもっていかれるのでトリミングで車の数を少なくし、明るさを落とす→なるべく手前ではなく中央を目立たせる
・広すぎる空をトリミング

 

ちなみに「4月から6月までのテーマにリズム感を感じ、気配・・・自分だけの・・・電線のある・・・の要素をすべて盛り込もうなんて考えましたが、さすがに無理でした」とコメントにありますが、結構クリアできている気がします。もしかしたら自室から撮影されたのでしょうか?奥のビルを地上からこのアイレベルで撮ることは出来なかったと思ったのですよね。自分も時折撮るビルなので最初見た時あれ?っとなりました。これからも新作を送って下さい、期待しております。

師範より6月後半の総評

今回は色々なバリュエーションの作品があり、3点に絞るというのは非常に難しかったです。特に後半に関しては、ake*さんの蓮の花を前景色にもってきた写真もどこか不思議な世界観になっていましたし、yas_takさんのストリートビューのような写真も斬新でした。にたばるさんの作品に関しては、毎回惜しいところなんですよね。おそらくご本人が一番わかっているのでしょうが、ブレイクスルーの時期なのだと思います。最後まで候補に残っていた方々はどれも採用された作品と肩を並べるものでした。

総評なのですが、直申し上げるとまだ予想の範疇というのが否めないのですよね。もっと、「こんな撮り方があったのか!」「これは気づかなかった真似してみたい!」というような作品を講評する側というより一写真家として期待しています。その為には撮影することと同時に自分だけの写真表現をよく考察することがとても大事です。常々言語化することが写真において大切だと言っておりますが、それは言葉に置き換える際に欠かせない思考するというプロセスが重要だという話なのです。

自分の作品にオリジナリティをもたせ、より深みのある作品にするためには言語化する作業は欠かせません。なにせ、自分が説明できないものを他人が見て感動するということのほうが不可思議ですから。

記念品のお届けについて

阿部史日呼さんには「免許中伝ミニ木札」、タナカケイさん、FA43Lさんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!

記念品は7月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

リコーフォトアカデミーについて
そんな新納翔師範が講師を務める、リコーフォトアカデミー2021年度ゼミナール(東京校)も現在募集中です。
9か月間、一緒に学びませんか? 初回講座は7/17(土)となります。

その他の投稿作品をご紹介

最後に、6月後半のお題の投稿作品の一部をご紹介させていただきます。
こちらは師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んで掲載しております。

〔クリックで写真が大きくなります〕

以降のお題へのご投稿もお待ちしています!

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