8月のお題は…『都会のネイチャー写真 人工物と自然の対比』
ネイチャー写真といえば山岳地帯、どこまでも続くお花畑、砂漠に沈む太陽など色々な作品があります。ただここはDojo City Scape、もっと身近な場所でネイチャー写真を撮ってみましょう。都会や街ならではのネイチャー写真、人工物が入っていたってそれはひとつの味というもの。身近な場所から自分なりのネイチャー写真を切り取ってみましょう。
参考までに作例を2点挙げました。一点目はビルの反射光によって照らされた緑、二点目は家屋の取り壊し現場で撮影したものです。コンクリートの中から現れた鉄筋と木の枝がとても対比的だと思いました。あくまで都会のネイチャー写真、こういうのもアリだと思います。街なかでたくましく生きる自然、人工物との対比も面白いと思います。
新納翔 師範からの8月のお題は『都会のネイチャー写真 人工物と自然の対比』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。
8月の挑戦者その1:ぷりずなーさん
2018年、千葉にいる親戚を訪ねた時に、近くの池を案内してもらい、その際にこれを見つけました。
長崎県在住、男性。2011年から趣味としてデジタル一眼レフを使って、写真を撮るようになったアマチュアカメラマンです。地元長崎を中心に撮ってます。PENTAX K-1とTAMRON SP AF28-75mm F2.8 XR Di で撮影。
師範の判定結果は・・・
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残念ながら・・・
千葉のとある場所とのことですが、フォトジェニックな場所ですね。コーヒーカップの遊具なのでしょうか、田園に見える場所にぽつんとあるので不思議な光景になっています。写真をやらない人からすれば、見過ごしそうな場所が輝いて見えるのも写真の力というもの。コーヒーカップの上には日除けの名残らしき骨組みの鉄骨だけが残り、時の流れを感じさせます。画面奥に連なる新興住宅地のような家並みとの対比も面白いです。
写真は撮ってしまうと平面になってしまうのに、時間の流れや奥行きを感じさせてくれるものなのだと改めて認識します。こういうフォトジェニックな場所に出会えば、被写体の力が強いのでなんとなくシャッターを切っても良い写真になりがち。そこでどう差別化をするかが撮り手の腕の見せ所ということになるわけです。
この作品において、せっかくこんなにも良いコーヒーカップの存在感がちょっと薄くなっているのがもったいない。その原因として主に2つ考えられます。
1.画面内で草の占める割合が多すぎる
2.画面右中央にある白いものがコーヒーカップと類似しているため、リンクしてしまっている→主題が2つあるように取られてしまう
この点を踏まえてレタッチしてみたのが参考例です。1に関してはトリミングと明るさを調整。特に画面手前に黄緑色の草木がよく効いているのでそこを馴染ませる。2は画面外に切ってもいいのですが、そうすると奥の住宅街が見えなくなってしまうので私はPhotoshopで消してしまいました。自分は見せたいものが明確になるのであれば消すのはアリだと思っていますが、人それぞれ考えがあるのでそこはお任せします。
手書きの方で指摘した空の部分に多い焼きのムラがあるように見えると書きましたが、空がもともとそうであったのなら失礼。ただトーンカーブでいじってみると加工させているように見えるのですがどうでしょうか。
被写体の力と作者の写真力の化学反応こそ名作を生み出します。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
8月の挑戦者その2:Kaichiさん
工事現場の資材に囲われた木を見つけました。
アクリル越しに見ると、化石のように見えました。
東京都在住、男性。カメラをもって散歩を楽しんでます。PENTAX 645DとHD PENTAX-DA645 28-45mmF4.5ED AW SRで撮影。
師範の判定結果は・・・
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もう一歩!
工事現場でアクリル板越しに見た木が化石のように見えたという印象を独特な質感で表現していて、画面上に写る工事資材と合わせて大変よく仕上がっていると思います。これはソラリゼーション風という感じでしょうか。モノトーンにしたことで本来邪魔なアクリルの汚れも作品を構成するいい要素になっています、まさに逆転の発想、あえてダストを載せたような古典技法にも見えて面白いです。
都会のネイチャー写真というお題はちょっと難しいかなと心配していたのですが、見事クリアしていますね。この作品をワンランク上のものにするにはどうしたら良いか考えてみました。
一番初めに気になったのは、ソラリゼーション調にしたことで画面がごちゃつき、奥行き感を失ってややのっぺりとした印象を受けることです。それによって資材と草木の対比構図が見えづらくなっています。例えば中央の草木を中心に画面構成すると考え、画面内の陰影をコントロールすることで解決できるのでレタッチ参考例を見て再度チャレンジしてみて下さい。
それと645Dを使っているのに、画面から中判デジタル特有の優れた階調性や緻密さを感じられません。レタッチのバランスだと思いますが、なぜその機材を使うのかという事を考える事も必要です。さもないと自分の目であるはずのカメラに、逆に振り回されるという本末転倒的なことになってしまいます。
この作品だけしか知らなかったら話は別ですが、Kaichiさんが毎回投稿される写真からするとやや技巧的になりすぎた印象は否めません。技巧的表現でいくのであればもっと大胆になってもいいと思います。中途半端は一番いけません。ソラリゼーションにしてもやはり普段の作風の延長であると思わせれば勝ち。つまり独特な技法を自分の世界観に落とし込んでいるかどうかがポイントなのです。やはりそこがネックで免許皆伝とはなりませんでした。
再度自分の撮ってきた写真を見つめ直してください。自分の世界観というものは歩んできた人生が写真に反映されるものです。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
8月の挑戦者その3:marcoさん
お世話になります。東京都港区セントラル第二青山さんを撮影いたしました。
9月のお題である幾何学について求められる幾何学とは何ぞやと考えたり、
どの部分を水平、垂直にするか、などを考えながら日々散策しております。
植えられた観葉植物はこの成長具合からすでに「人工」から「ネイチャー」に戻っていると解釈いたしました。
このマンションの老朽状況がわかる部材防止のネットが見えるように含めました。
Lightroomの角度調整において、右に4.37度傾けよと出ましたが
そのアングルが心に響かなかったので、そのままにしております。
もしかするとこの感覚の悪さが自身の問題かもしれません。
東京都在住、男性。お世話になります。鳥、自然の風景、都会の建物、そして建物の解体現場の様子などを意識して撮影しております。PENTAX K-3 Mark IIIとHD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR REで撮影。
師範の判定結果は・・・
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残念ながら・・・
ベトナムとか東南アジアの1シーンかと思ったら、なんと青山なのですね。高度成長期に建てられたビルやマンシャンなどが老朽化を向かえ都心では至るところで解体工事が見られるので、いいなぁと思った建物は撮っておかないと次来てみると更地になっているかもしれません。
写真の記録性と、撮影者のオリジナリティ感じる切り取り方によって良い作品になっています。ベランダに置かれた観葉植物が建物と一緒に年をとり、marcoさんがコメントに書かれた「人工」から「ネイチャー」へ回帰しているという視点はとてもいいですね。そこにビルの工事なのか、青いネットがかかっていて面白みがある。説明的にならずに情報を提示するのはとても難しいことなので、バランスがとても良いと思います。さりげなく情報を与えることにより、見る側からすると見れば見るほど発見があって味がある作品になっているのだと思います。
どんなビルなのかとストリートビューで見ると、意外にもこの写真はビルの10階あたりを撮影したものなのですね。ご自身でも書かれているように、建築物の写真は垂直・水平がうまく出ていないと作品を見てもやもやとした違和感を抱いてしまいます。私がPhotoshopで直したところ、3.9度傾けることになりました。この作品の場合どこを基準にして垂直を出すかというのが問題。やはりこの同じ形をした窓がいくつもあるので、この窓の縦線を垂直にするようにすれば自然になります。それでもパースが気になるようでしたら「自由変形」を使って補正するといいでしょう。
ただ一番問題なのは、垂直が出ていないことに違和感を抱かないという事だと思います。これもセンスの一部だと思いますが、自分で見て自然かどうか感じられない、判断できないのであれば、まずは写真や絵画をたくさん見て自分の美的センスを向上すべきです。
今回はそこら辺がまだまだかなぁということで減点しました。
最後に、白飛びがちょっと気になりますね。こういう時はノイズを少しのせてあげるだけで十分に自然な感じになります。ノイズは魔法のスパイスです。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
師範より8月前半の総評
今回のお題「都会のネイチャー写真」はちょっと難しいかなぁと思っていたのでどんな作品が来るかとても楽しみにしておりました。予想とは裏腹に個性的な作品が集まり私の心配は杞憂だったようですね。ネイチャー写真といえば本来山や海といった人工物が無いものがメインだと思いますが、都会のネイチャー写真は自分の表現を自由に出せるのでやりやすいのかもしれません。
講評にも書いたとおり、新しいことにチャレンジすることはとてもいいことですが、それが今までやってきた自分の作風から大きく逸脱してしまってはただの技工写真になってしまいます。技工に走りすぎては本質が写らないと海原雄山も言っていました。
Kaichiさんには「免許中伝ミニ木札」、ぷりずなーさん、marcoさんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!
記念品は9月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。
その他の投稿作品をご紹介
最後に、8月前半のお題の投稿作品の一部をご紹介させていただきます。
こちらは師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んで掲載しております。
〔クリックで写真が大きくなります〕
以降のお題へのご投稿もお待ちしています!