9月のお題は…『幾何学的なイメージを意識して』

新納翔 師範

感覚的に良いと思った写真、一体どこに惹かれたかを考えてみると色の配置であったり、構図の面白さだったりすることは多々あります。私はもともと理系だということが関係しているのか、幾何学的な構図が大好物です。

特に街中では建物の影が織りなす偶発的な美に思わずシャッターを切ってしまいます。曇天の日はなんとも思わなかった景色も、晴れの日になるととても魅力的な一面を見せてくれる景色もあります。

幾何学といっても小難しく考えないので、自分がそう感じたという自己満で良いです。写真なんてそういうものですから。

 

新納翔 師範からの9月のお題は『幾何学的なイメージを意識して』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

9月の挑戦者その1:あきやんさん

マンションの階段部分です。
まるでノコギリの様でした。

あきやん
長崎県在住、男性。写真を趣味として8年ほどになります。日々是精進の毎日です。何気ない1日も二度とない1日だから、一期一会を大切にシャッターを切っています。PENTAX K-1とHD PENTAX-D FA 28-105mm F3.5-5.6ED DC WRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

幾何学的なイメージというのは被写体自身が作り出すものと、光と影、つまりは時間が作るものがあります。マンションの非常階段、これは私も日中撮るのでよく分かりますが太陽の位置によって様々な表情を見せてくれます。この写真は夜、マンションの電灯に照らされて出来た幾何学模様。カラーでも良かったかなとも思いましたが、モノトーンにしたことで夜の静けさと無機質感が表現されているので良い選択だと思いました。

マンションという建築物が織りなす連続的な形状が組み合わさって、あきやんさんが仰るようにのこぎりのような面白いイメージに仕上がっています。ただ、こういう写真だからこそ垂直・水平がとても気になってきますね。建築写真であればシフトレンズを使うのが一般的ですが、Photoshop等を使えばある程度の補正はできます。シンプルな写真だけにこういう所をしっかりと調整していかないと、些細な点がとても目立ってきてしまうのです。自分のレタッチ例は、ここらへんまでは補正できるという感じで見て下さい。提出された写真のように若干斜めのままでも、垂直さえ出ていれば良いとは思います。

それと気になったのは暗部の処理ですね。暗闇の中に結構情報が残っているので中途半端にうっすら見えてしまうのが気になりました。それはこの写真にとって必要な要素でしょうか?ここは暗部を潰してしまってスッキリさせてしまった方が良いでしょう。それと高感度撮影(ISO6400)によって輪郭の線が滲んでしまっています。非常階段の所を見てもらえれば分かると思いますが、こういう写真はピシッとしていた方が気持ちが良いです。ここは三脚を使って低感度で撮りたい場面です。

最後に構図に関してですが、非常階段を中心に持ってきていますよね。右下の窓がなければそれでも良いのですが、右だけに窓があるためにどうにもバランスが悪くなっています。ここはちょっとだけずらしてあげた方が落ち着きますね。

ちなみに「非常階段」といって思い出すのが、写真家・佐藤信太郎さんの「非常階段東京」。私のように路上を徘徊する者からすると、地上でもなく空からでもないその高さから見る東京というのがとても面白く感じる傑作です。これはとても良い作品なのでオススメです!

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

9月の挑戦者その2:AlmOnjiさん

幾何学模様ではないですが、面白い形が連続していましたので投稿します。
神代植物公園の入り口にあったスイレンの葉っぱがこんな面白い形状をしていました。
立体地形図のようでもあり不思議な、自然が織りなす幾何学模様と感じました。

AlmOnji
神奈川県在住、男性。PENTAXはQシリーズから始めて、K-S2、KP、K-3 Mark IIIに移行中です。主に花とかスナップを撮影しています。コロナ環境下でなかなかお出かけできませんが、涼しくなってきたので活動を再開したい今日この頃です。PENTAX K-3 Mark IIIとHD PENTAX-DA 16-85mmF3.5-5.6ED DC WRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

睡蓮と聞くと、モネの代表作に描かれた優しい感じをイメージしてしまうのですが結構刺々しいのですね。皆さんからいただく写真を見ていると、普段自分の撮らない被写体もあるので勉強になります。

自然界にはフィボナッチ数列をはじめ、無造作に生えているように見える植物の中に数式があらゆる場所に潜んでいるのですよね。そういった意味でこの写真も立派な幾何学写真と言えるでしょう。この写真を応募したAlmOnjiさんの感性はとても素晴らしいものだと思いました。写真表現は撮り手が自分の写真をどう解釈するか、そこから始まります。しっかりとご自分の作品と対峙されている証拠でしょう。

それだけに勿体ない!自分はあくまでアマチュアもプロも関係なく作品を講評しているので、細かいところを突けばいくらでも言えますが、左上の人工物さえ写っていなければ免許皆伝だったかもしれません。これは人工的であるのと、画面内の他のものと色が違うのもあって凄く目立ってしまうのですよね。さらにボケていることで逆に何だろうとしげしげ見てしまう為に、見る側の視線を呼んでしまうのです。

ピント位置やf値の設定は作者の撮影意図に直結します。PENTAX K-3 Mark IIIでf4.5というのはこのシチュエーションの最適解ですね。背景処理、棘の立体感、全てが良いです。画面手前がちょっと明るいので、トーンを揃えるために少しだけ明るさを落として上げると画面全体として見た時にしっくり来ると思います。

レタッチ例では手前と奥の水面を色調補正し、全体的に睡蓮の凹凸を強調するために少しだけコントラストを上げました。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

9月の挑戦者その3:まつきちさん

円と直線的な線を意識して撮りました。
9月になっても雨が多い日々、水門に水路と河川ブロックの穴に溜まった水溜りに映る空

まつきち
佐賀県在住、男性。PENTAX istDsからPENTAXを愛用していて写真歴は15年以上になります。唯一見つけた趣味なので、楽しく写真を撮っています。PENTAX K-1 Mark IIとHD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

水門にある河川ブロックと水路の形が今回のテーマにとてもマッチしていますね。奥に流れる川と手前の人工的な水の流れが対比的で、前回のテーマである「人工物と自然の対比」の要素も入っていて面白い作品になっています。一枚の中に対比構造があると、そこから読み取れる情報が多くなるので深みが出ます。奥の川が下流に流れているのに対し、水路に溜まった水は止まっている、そんな対比も良いですね。

ブロックの丸い穴がこの写真の構成要素で一番効いているので、どう見せるか。カメラと被写体の角度(写角)は1度違うだけでも出てくるイメージではとても大きな差になります。被写体を見つけカメラを構えた時に、その角度が微調整しなくてもバッチリなようでしたら一人前。ファインダーの中で「なんか違うなぁ」と感じる違和感の多くは写角のミスマッチによって生じるものです。

この光景は真俯瞰で撮ってみたくもなりますね。提出された写真であれば、あと50センチほど前に出ると良かったかと思います。というのも画面右端下の穴は主役をぼやかしてしまうので切ってしまって良かったからです。

幾何学的イメージとは、直線や円といったものが織りなす美。手描きの図解で書いたように、線といっても画面内に色々な向きが存在します。人物であればその人が向いている方向が写真の向きになるので分かりやすいですが、こういった景色にも向きというものがちゃんとあるのです。構図を作る時にそういうことを意識すると良いでしょう。

惜しいのは、もう少し空の青や、草の緑を出すように調整できればもっと良い作品になったという点。せっかくの素材をどう調理するかは帰ってからの楽しみ。そこで素材を殺すも活かすも撮影者次第なのです。

レタッチ例では、手前の水路で流れが折れる箇所の端が画面に対して平行になるように回転させています。これは好みの問題でもあるので参考までに。全体として色々な面白みのある良作だと思います。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

師範より9月前半の総評

今回は皆様の作品がバリエーションに富んでいて、各々が持つ幾何学的イメージの多様性を感じました。自由に楽しんで撮られた写真が多かったように感じとても好感を持つとともに、レベルが高く選ぶのにも大変苦労しました。特に、まるちゃん・FA43L両氏の作品は最後まで採用候補にあり、着眼点はとても良いのですが撮影後の後処理の粗さが目立って採用になりませんでした。

 

レタッチ等の色調補正についても講評内では述べていますが、やはりトリミングや水平・垂直といった構図力が肝心です。ほとんどすべての作品がこの点を改善すれば良い写真になるものばかりです。トリミングというのは難しいですよね。そのレベルアップには実際にプリントアウトすることだと思っています。これはレタッチにも言えますが、モニタだけで見るのとは格段に違います。欲を言えば写真用のプリンタが良いですが、まずはアウトプットする習慣を作るということがなによりも大事なのです。

記念品のお届けについて

AlmOnjiさん、まつきちさんには「免許中伝ミニ木札」、あきやんさんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!

記念品は10月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

その他の投稿作品をご紹介

最後に、9月前半のお題の投稿作品の一部をご紹介させていただきます。
こちらは師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んで掲載しております。

〔クリックで写真が大きくなります〕

以降のお題へのご投稿もお待ちしています!

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