5月のお題は…『自分だけの夜景』
夜景写真というとどのような写真をイメージしますか?都内だと東京駅や高速ジャンクションなどといった構造物や長時間露光による光の軌跡などを見ることが多いですが、自分の街のなんでもないところの夜景というのも面白いものです。夜は昼間みせない全く違う顔を持っています。今回のお題は夜景ですが、その撮り方にルールはありません。三脚で撮影するのもありだし、なんなら自動販売機の明かりを使っても良いです。そういうアイディアも作品を見るポイントですからね。
新納翔 師範からの5月のお題は『自分だけの夜景』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。
5月の挑戦者その1:katsu3doさん
1日撮影した帰り道。
なんとなくカメラを向けた標識が虹色に光ってなんだか得した気分。
神奈川県横浜市在住、男性。主にKP+HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limitedで街をスナップしている。PENTAX KPとHD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limitedで撮影。
師範の判定結果は・・・
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残念ながら・・・
私は日々東京都内のどこかを歩き回っているので場所当てには自信があるのですがさすがにこれは分かりませんでした。それはさておき、いつもの帰り道で何気なくカメラを取り出しちょっと撮ってみるか程度の気持ちでフラッシュ一発、そんな感じで撮影しているのかなと勝手に想像してクスリ。「1日撮影した帰り道。なんとなくカメラを向けた標識が虹色に光ってなんだか得した気分」とコメントにあるように撮影に疲れた帰り際私も同じようなことをしてしまうので妙に共感してしまいました。
写真をセレクトする際にどうしても苦労して撮った写真は入れたいと思うのが撮影者側の気持ちですが、見る側としてはそんなことはどうでもいいことなのです。katsu3doさんがその日一日何を撮ったのかは分かりませんが、頑張って撮り歩いた写真よりこのカットの方が良かったりするので写真というのは意地悪ですよね。
夜道に浮かび上がる浮遊物体。そんな感じがしてどこかユーモラスな作品になっていますね。この絶妙に間が抜けた感じがとても面白い(褒めているんですよ、はい)。これも立派な自分だけの夜景写真ですね。
手描きコメントにも書きましたが、この写真で問題なのは余白です。画面の余白というのは効果的に使えば主題を引き立てることになるのですが、残念ながらこの写真における右側の余白は不要なものです。特になにか意味があるとは思えないので、トリミングで切ってしまいましょう。それを撮影時にできれば一流ということになるわけですね。それと画面内にせっかく2つの矢印があるので、それらをリンクさせるためにもこのトリミングは効果的です。
見本のレタッチでは「標識が虹色に光ってなんだか得した気分」というコメントにあわせて少し反射のきらめきを少しだけ強調させました。それとノイズを少しだけ足しています。これはWEB上ではほぼ分からない程度しか載せておりませんが、プリントアウトする時に出る立体感が全然違うのです。よくデジタルはのっぺりとした印象を受けるというのはノイズという隠し味が不足していることが原因のことが多いのです。
私は写真講座で教える際「撮影2割、後処理8割」と教えています。撮影をないがしろということではなく、特にデジタル時代自分で色々と調整できるようになったがゆえに、撮影後できることはしっかりやる、撮影の4倍は時間をかけて丁寧に仕上げようということです。
せっかくいい被写体に出会ったのに、それを活かしきれなくてはいい作品になりませんからね。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
5月の挑戦者その2:アレグリさん
開花宣言のすぐ後に、100mmのレンズで撮る初めての桜。
かといってライトアップされているわけでもなくどう撮っていいものやら。
その場では失敗作と思ったけど家に帰って見直したら何となく好きで消せなかった。
埼玉県在住、女性。写真も好きだけど音楽も好き。音が聴こえるような写真を撮れたらいいな。PENTAX KPとsmc PENTAX-D FA MACRO 100mmF2.8 WRで撮影。
師範の判定結果は・・・
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残念ながら・・・
いつも通りまずは作品の内容だけで判断したいので、特に撮影データやコメントなどは見ないでセレクト。この東京タワーのおどろおどろしさがなんとも良いと思ったのですが、改めてコメントを見ると開花宣言にあわせて初の100ミリで撮影したとあるので、作者のアレグリさんの意図とは異なるのでしょう。これが真の狙いであれば免許中伝でした。
画面全体にあるモヤモヤっとしたものは桜の前ボケなのでしょう。ただグリーン被りしているところを見ると背後の街頭(蛍光灯)による色かぶりなのだと思います。この写真は色々な光源が散在しているので難しいシチュエーションです。東京タワー、暗部の桜、前ボケの桜、全てが異なる光源なので色温度をどうするかを撮影前にしっかり決めなくてはいけません。言い換えれば、何が撮りたいのか、どう撮りたいのか、なにを伝えたいのかをしっかりと考える必要があったわけです。
そういう事を考えてから撮影に出かけろというのではなく、東京タワーと桜を見て、まずは肉眼で色々と観察することです。スナップ写真ではないのでファインダーを覗く前にまずは自分の肉眼でじっくりと被写体を観察することを心がけて下さい。肉眼に勝るものはありません。
すぐにファインダーを覗いて構図の迷子になっている人を見かけますが、それはじっくりと観察していない証拠。ファインダーを覗く時はもう微調整くらいで後はシャッターを切るだけにしましょう。
アレグリさんが撮った場所からキレイに桜と東京タワーのコラボを撮るには相当難しいと思います。前ボケの主張が強すぎるのでもう少し前ボケの桜が少ない場所を探すと良かったのかと思います。
写真で気になるのは暗部にある桜と、東京タワーの赤いライトが飽和(データ崩壊)してしまっているところです。これはおそらく過度なレタッチが原因だと思いますが、これをモニターで見ることを最終的なアウトプットと考えるのであればそれでいいのかもしれません。プリントでどの程度耐えられるかA4サイズでプリントアウトしてみましたがちょっと厳しいですね。ただこういうSNSの時代なので、モニターでキレイならOKというのは全然ありです。そこを決めるのは撮影者自身です。そういうところまで考えていくと写真の仕上げ方も変わってくるでしょう。
構図などを見る限り美的センスがお有りのようなので、またチャレンジしてくださいませ。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
5月の挑戦者その3:えみっくさん
主婦になってから夜はほとんど外に出なくなりました。
仕事で外に出ても、帰りはスーパーに寄ってすぐ家に戻って夕食の準備です。
そんな自分が近所や職場の近くで夜景を撮影しても付け焼き刃な作品になるでしょう。
自分だけの夜景を考えてみたらすぐ近くにありました。
「居間からの夜景」です。
冬など日が暮れるのが早い時期は、気づくと部屋と外が真っ暗で、
レースのカーテン越しに夜景が輝いています。
これは間違いなく自分だけの夜景です。
今回はいつも夜や朝までぶら下がっている洗濯物も一緒に撮影しました。
レタッチは露出補正と水平調整をしております。
師範の判定結果は・・・
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もう一歩!
ご自宅の居間から見た風景ということで、これはまさしくえみっくさんだけが見ることの出来る「自分だけの夜景」ですね。自分の身近なところに素晴らしい景色はたくさんあるものですが、灯台下暗しでそれに気付くことは意外に難しいものです。「近所や職場の近くで夜景を撮影しても付け焼き刃な作品になるでしょう」というコメントに書かれているように、よく考えて撮影なさっているのだと伝わってきます。
写真というものは借りてきた景色である以上、どう自分とリンクしているかという点がとても重要だと私は思っております。見知らぬ場所に行って撮った写真の多くは表層的な写真になりやすいように、自分との関係性が希薄な写真は見る側になんとなく伝わってしまうものです。なぜ撮るのかという問いに加え、自分との関係性、どうリンクしているのかを考えると写真に深みが増すでしょう。
えみっくさんの写真はまさに日常の中で発見したアート。レースのカーテンに薄くピントがあっていて、奥に光るマンション群。どこなのかしら、何時ごろかなと見る側の想像を掻き立てますね。特に暗部に少しだけ見て取れる生活感がとてもいい。画面右にある空気清浄機かなにかのランプが効果的に効いています。このランプと右上の観葉植物がカーテンを隔てて向こう側とこちら側の境界を意識させる役を担っているのがにくい演出になっています。
と、褒めてばかりで終わればいいのですがちょっと気になった点が・・・。これは単写真として成立しているのかという点です。ステートメントを読んでじっくり見るから上記のようなことが言えるのであって、例えばグループ展にぽんとこの写真が一枚あったとしてどれくらいの人の目にとまるのか。これは写真集などの作品の中の一枚なのですよね。ちょっと意地悪なことを言っていることは承知ですが、ここからどう面白くできるか考えてみて下さい。例えば毎日ここから定点観測するなどしたら1年10年と経ったときにとても面白い作品になるでしょう。
それとアスペクト比。部屋の暗闇と遠くに光るマンションの比率を考えて、ちょっと暗部が多いように思います。ここは思い切って16:9のようにトリミングしてもいいかと思います。2:3のカメラですが作品として仕上げるに当たっては一番いいアスペクト比を考えてみましょう。ちなみに私は今の狭い東京に2:3は合わないと思っていてどんなカメラで撮っても3:4にします。なぜか?それは今後の連載にて書きたいと思います(おい、宣伝か???)。
限りなく免許皆伝に近い中伝でした。今後の作品にも期待しております。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
師範より5月前半の総評
自宅の周辺で三脚をしっかり立て長時間露光で撮った作品が多く集まるかなと予想していたのですが、見事に外れて皆さん独自の視点で自分だけの夜景写真を撮っていてとても良かったです。前半は結構接戦でした。三脚で撮るのであればその分構図に集中できるので、かっちりとした都市風景を見てみたいですね。今回の講評の中にたくさんヒントがあります。後半戦も頑張って是非応募してみてください。写真上達はとにかく見せることにつきますからね。期待しております。
記念品のお届けについて
えみっくさんには「免許中伝ミニ木札」、katsu3doさん、アレグリさんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!
記念品は6月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。
リコーフォトアカデミーについて
その他の投稿作品をご紹介
最後に、5月前半のお題の投稿作品の一部をご紹介させていただきます。
こちらは師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んで掲載しております。
〔クリックで写真が大きくなります〕
以降のお題へのご投稿もお待ちしています!