ここ6.7年で縦写真の割合が増えた。それまで縦写真にどこかむず痒さを感じ、もっぱら横写真ばかり撮っていた。2017年に出版した都市風景をテーマにした写真集「PEELING CITY」においては、掲載写真全111点が横位置だった。

縦写真が増えた原因は、東京の至る所で行われている再開発事業が関係していると考えている。高層ビル、タワーマンションに象徴されるハイスピードで変化する街は、狭い土地ゆえに上へ上へと伸びていっている。まるで行き場を失い、上へ上へと地表から逃げていっているかのようだ。意識して縦写真を撮りだしたのは東京オリンピック開催が決まった2013年、私の写真はその頃から縦位置にシフトし出した。

 

 

 

 

いや、元から縦位置を欲していたのかもしれない。都市もそうだが、木々も我々人間も上に向かって成長していく。今この2021年、東京という都市を撮っていると縦写真こそが正位置に思えてくるのだ。海の果てが滝のように思われていた大航海時代、人間はまだ見ぬ世界を求めて遠く遠く、船に乗って紛れもない横移動を行っていた。それから数百年、現在人類は宇宙空間を目指し、はるか遠くを目指して縦移動を行っている。社会構造の変化によって縦位置が標準のカメラが出てきたっておかしくない。いや、もうあるではないか、スマートフォンというカメラが。

 

 

縦写真が主観的な視座だというのはよく聞く話だ。人間の目が横についているわけだから、わざわざ縦にカメラを構えるというのは撮影者の意思が濃く反映され、記録性よりも表現しようとする意思が強く出る。縦写真はカメラの向きを変えるアクションが1つ増えるわけで、それこそが主観的なのだという話である。

 

 



 

ただこれは多かれ少なかれ2:3という多くのカメラが採用しているアスペクト比が関係しているとも思う。上に伸びていく景色を横位置で撮ろうとするとどうしても両サイドが余ってしまう。2:3で撮るのであればいっそのこともっと横に広くパノラマであればしっくりする。2:3と3:4、わかりやすく直せば6:9と6:8なのだが、些細な差がとても大きいのだ。

スマートフォンは使えてもパソコンが出来ない学生が多いと聞く。これも言ってしまえば横から縦への変化の象徴とも言える。

 

 

 

こんなことを考え縦に構えてシャッターを切っているとふとひとつの疑問が浮かんできた。シャッターの耐久回数というものは縦と横で変わってくるのであろうか。例えば極端な話、横位置で10万回切った場合と左側を下にして全て縦位置で撮影した場合、後者は重力の関係からシャッター機構にかかる負荷が明らかに変わってくるはずだ。

横と縦、考えれば考えるほど深い問題だ。

 

©Sho Niiro