「星を撮りたい!」と思ったときに最初の写真は満天の星空だと思う。でもピントも露出も全部マニュアルで撮る必要があるためになかなかハードルが高い。

これが撮れるようになると「星を軌跡で描かせたい」や「天の川を撮りたい」と変化してくる。これらの撮影についてはまたの機会に譲るとして、今日はその先の話をしてみたいと思う。

それは雑談から始まった

そもそも、村田は山岳写真家であり、天文は専門外であった。ひょんなことから山岳星景をよく撮るようになったものの、やはり星の専門家ではないため、その筋の人たちと話をすると気になる事柄があったりする。

私がよく訪れる山小屋で大西 浩次さんと一緒になったことが何度かある。そんなある時、お世話になっている山小屋の主人を交えていろいろ話をしていて「大西先生、黄道光を撮るにはどうしたら良いですか?」いう会話が始まった。”黄道光”と言う言葉自体が知らない言葉だったこともあり、その時の話の内容はちょっと村田の理解を超えていたのは事実。それでも気になって、その直後にネットで黄道光について調べてみたものの、かなり暗い条件でないと撮れないし、春と秋にしか見られない。普段、星を軌跡で撮っている村田の撮影対象からは少し外れていたため、すっかり頭の中から抜け落ちてしまった。

これは何?

2018年10月、北アルプス・大天井岳にある大天荘へ一週間ほどの日程で取材に出かけた。PENTAX K-1をメイン機材で使っているが、35ミリフルサイズに対応した魚眼レンズが無いこともあって、他社製の魚眼レンズのテストを兼ねて秋空の山を撮りに入山した。

K-1の2台体制だったので広角ズームと魚眼レンズで星景を撮りつつ、日中は標準ズームや望遠ズームも使いながら山岳写真を撮るスタイル。もちろん日中も広角ズームはよく使う・・・と言うか、ほぼコレ1本で間に合うことが多い。

 

さてさて、話を星景に戻そう。

大天井はフィルム時代からよく来ている場所でもあり、槍ヶ岳の展望台としても名高い。そのために槍と絡めた星景写真はたくさん撮ってきている。そこで今回はなるべく槍を入れずに星景を撮ろうと作戦を立てた。

自分自身のゲレンデとして通い詰めているからこそできる贅沢ともいえる。

そんな訳で東大天井岳方面と燕岳方面にカメラを向けての撮影をすることにした。本命の広角ズームは燕岳方面を狙う事として、しっかり日没から朝方まで撮影。魚眼レンズはテストと言うこともあって、東大天井岳方面を向けてはいても、1度場所を移動して撮影とした。

テスト撮影した魚眼レンズの写真を確認していた時のこと、途中構図を変えて撮った2カット目のデータ中に見慣れないものが写り込んでいた。ちょうど画面の真ん中あたりの空に逆V字の光の筋が写りこんでいた。最初「光害?」とも思ったが様子が違う。

女神が微笑む時

「これはもしかして黄道光?」

テント場と小ピークを狙って撮影。上空に天の川と黄道光による逆V字の光の筋が。絞り:F2.8、露光時間:8s、ISO感度:6400 (2018年10月9日 AM4:00撮影/SAMYANG製魚眼レンズ12mm F2.8を使用)

黄道光だったら、朝方しか見えないはずだし、東の空から立ち上がってくるはず・・・。という記憶は残っていた。方角的にはつじつまが合う。問題は時間だが・・・。撮影開始直後は全く写っていない。朝方になるにつれて確認できるようになる。ここまで来たら間違いない、あの”黄道光”だ。撮るつもりではなかったが、たまたま撮影時期・方向・画角・露出が合ってかすったのだ。魚眼レンズで撮影していたために、広い範囲を写し込めていたのも味方してくれた。

さらに幸運なことは、比較明合成用ではなく、天の川が動いていくタイムラプス動画の原画を撮るための設定にしていたことだ。そのおかげで黄道光にも露出が合ってくれたのだ。

いつもの広角ズームの方は別の構図で狙っていた。

東の空から立ち上がる星の軌跡とケルンを前景に構図を決めている。天の赤道だけを意識して構図を決めたが、結果として黄道光の方向に向いていたことになる。

この元データを確認すると、やはり幸いなこと黄道光を画面の真ん中に捉えていた。どちらもとても幸運だった。

黎明が始まる前のコマに黄道光が。ケルンの位置と黄道光・天の川の逆V字の光の筋。この位置関係は計算したものではなく、幸運の女神が微笑んだ結果だ。 絞り:F2.8、露光時間:8s、ISO感度:6400(2018年10月9日 AM4:00撮影)

女神は二度は微笑まない

こうなってくると話が変わってくる。それならばと、今晩は黄道光狙いで構図を追い込みたくなる。実は横位置で撮影していたために黄道光と天の川がクロスしているというより、逆V字としてしか写っていなかったためである。画角的に限界なので縦位置で再挑戦したい!

幸いにも取材日程は残り一晩残っていた。
しかしながら幸運の女神は二度も微笑んでくれなかった。

その晩は晴れては居たものの、雲が一晩中東の空に湧いていたのである。朝方になってかろうじてほぼ晴れたが、その時間帯には黄道光も見えなくなりつつあったのだ。

結果として、幸運の女神が微笑んでくれた一晩のデータだけが”黄道光”の写真となった。

クロス部分を写しこもうと縦位置で撮影するも、雲に遮られ黄道光を捉えることはできなかった。雲が消えた時にはすでに黎明に黄道光は消えかけていた。 絞り:F2.8、露光時間:8s、ISO感度:6400(2018年10月10日 AM4:20撮影)

 

写真は経験や知識で結果が読める部分も多い。その一方、それらでカバーしきれない部分もある。そしてそこに偶発性が残っていると言える。しかし写真を撮り続けているとそういうことがだんだんと少なくなり、刺激が無くなってくる。その結果モチベーションが落ちたりすることもある。そういう場合、今まで通りの撮影を続けるだけでなく、新しいことに挑戦すると、新しい発想や発見があるものだ。村田も元々は山岳写真しか撮っていなかったのだから・・・。