5月のお題は…『自分だけの夜景』

新納翔 師範

夜景写真というとどのような写真をイメージしますか?都内だと東京駅や高速ジャンクションなどといった構造物や長時間露光による光の軌跡などを見ることが多いですが、自分の街のなんでもないところの夜景というのも面白いものです。夜は昼間みせない全く違う顔を持っています。今回のお題は夜景ですが、その撮り方にルールはありません。三脚で撮影するのもありだし、なんなら自動販売機の明かりを使っても良いです。そういうアイディアも作品を見るポイントですからね。



新納翔 師範からの5月のお題は『自分だけの夜景』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

5月の挑戦者その4:capriさん

日中は何の変哲も無い生活道路。
雨の晩、街灯で反射した雨が光の道となり印象的でした。

capri
埼玉県在住、男性。風景やスナップを中心に写真を撮っています。最近、時間が空くとPENTAX道場のお題にあった被写体を考えることが増えました。PENTAX K-5IIsとsmc PENTAX-DA 18-135mmF3.5-5.6 ED AL[IF] DC WRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

 

道場に送られてきた写真をセレクトする際に結構Exifデータを見ます。使っているカメラやレンズ、設定などから写真からは読み取れない作者の想いや撮影時の様子が見えるような気がするのです。そうです、私は科捜研の男なのです。冗談はさておき、このExifデータを見て驚きました。ISO12800とは!しかもf8でシャッタースピードが1/8秒とは!

絞りを開けてもう少し低感度で撮ることもできたでしょうが、Exifデータがささやくに作者のcapriさんはあくまでパンフォーカス気味にf8という設定にこだわったと思うのですね。その結果として超高感度になったわけですが、このノイズ感が逆にアスファルトの質感やボンネットの上にのった雨露のきらめきを強調し、とてもいい効果を生み出しています。

高画素化が進み一昔前なら考えられないような感度がカメラに実装されるようになりました。とはいえデジタルデータからファインプリントを作ることを意識してきた私としては、どんなに高感度に強いカメラと言われても現状ISO3200で満足の行くカメラはどのメーカーのものでも知りません。ちなみに私のメインカメラである645Zでは400を上限としています。もちろんどこまで許容範囲にするかは撮影者次第ですが、capriさんの作品を見て高感度のカラーノイズが良い方向に働いた例を初めて見たような気がしました。

縦構図で左上に街頭が連なり、対角線を意識した構図になっています。ただ残念なのが、車がシャドー部に隠れすぎてしまって、左上から出た対角線の着地点が不在になってしまっており、ちょっと詰めの甘さが出ています。撮影時に半歩前に出て、若干シャドー部を意識していればより良い作品になっていたでしょう。「街灯で反射した雨が光の道となり印象的でした」と、コメントにあるように変哲のない道路が夜になって違う顔を見せたところを切り取ったところは常にアンテナをはって景色を見ているのだと評価いたしました。

レタッチ参考例では車体のフロントガラス、ボンネットを中心に明るさを持ち上げています。ただ潰れた暗部を出すのは容易ではないので、撮影後ヒストグラムを見て確認するくせをつけましょう。ちなみにモノクロ変換もしてみましたが、それも雰囲気があってよかったです。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

5月の挑戦者その5:Awajishimanさん

この場所はよく通る高架下の通路で、先日昼間に面白いのが撮れたので、
今度は夜に試してみようと思って撮ったのが今回の作品になります。
ハイライト重点測光にし、フレーム構図的に撮影しました。
後仕上げはフレーム部分を選択範囲で囲って、黒つぶれさせないよう少し残すように
露出・コントラスト補正しました。
最後にプリントをして回りがうっすら残っていることを確認しました。

Awajishiman
東京都在住、男性。写真は何でも好きで、毎日何かしら撮って遊んでいます。K-3 Mark IIIとGRIIIの相棒と共に新しい写真生活を送っています。PENTAX K-3 Mark IIIとDA 35mmF2.8 Macro Limitedで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

かなり大胆な構図でガード下にある鏡を使った自分だけの夜景写真。東京でよく写真を撮っている人ならこれだけで場所が分かるかもしれませんね。ぽつんと置かれた鏡、せっかくのシチュエーションなのに撮り切れていない、そこが本当に残念です。写真においてその被写体を見つける、それがとても重要なことです。情報が飽和していると言われている昨今、それでも自分しか知らないような景色はたくさんあるものです。

撮り切れていない、とは何か?それは、せっかく見つけた景色を目の前にして最善の撮り方ができているか、ということです。作者はその現場を見ているので、一枚の写真のフレーム外の景色も知っているし、そこでどんな音がしたかも知っています。つまり写っているもの以上の情報を持ち得ているわけです。かたや見る側は写っているものしか知りえません。そのことを十分に注意しないと、見せたかったことが伝わりにくい不親切な写真になってしまうのです。

私が一番気になったのは、鏡が画面に占める割合がこれで良かったのかということです。仮に想定プリントサイズが長辺2メートルだったらこれで良いかもしれませんが、A4サイズなどだと鏡の中の情報も伝わりづらくなってしまいます。「黒つぶれさせないよう少し残すように露出・コントラスト補正しました。最後にプリントをして回りがうっすら残っていることを確認しました」とコメントにあるように、応募する前にプリントアウトするという姿勢はとてもいいことですね。それは是非続けて次回も新作期待しております!

一枚の写真から作者の試行錯誤がすごく伝わってきたので採用しました。

写真は絵画と違い、すでにどこかにあったものを借りてきたもの。見る側のことを考え、一度自分の写真を客観視することがとても大事なのです。

 

5月の挑戦者その6:阿部史日呼さん

寝室へ向かう途中に置いているメダカと金魚の水槽は、寝るときに子供達が覗き込みます。
特に今は、めだかが産卵時期なので、卵からかえるのを待ち望んでいます。

 

阿部史日呼
大阪府在住、男性。初めて購入した一眼レフがPENTAX K100D。それからずっとPENTAXを使い続けています。かっこいいカメラが大好きです。PENTAX K-1 Mark IIとRICOH XR RIKENON 50mm F2で撮影。

 

師範の判定結果は・・・

お見事!

新納翔 師範からの添削コメント

 

まさに自分だけの夜景写真、人物写真で来る人がいるかなと予想はしていましたがこれはお見事。コメントにあるように、ご自宅にあるメダカの水槽を覗き込むお嬢様の何気ない姿、そのかけがえのない一瞬をうまく捉えていますね。水槽用のライトがスポットライトになっていて、主役が何であるか、撮影者が何を表現したいかがよく分かります。

この距離感が遠すぎず、かといって少しだけ客観的に見ている感じが絶妙。よく思うのですが、目の前の景色から写真を切り取る際にファインダーを覗きながらあーでもないこーでもないとやるよりも、まずは肉眼で観察すべきなのですよね。肉眼に勝るものなしです。自分の目で被写体を観察し、ここと思ったアングルを見つけてそこにカメラを持っていけばいい訳なのです。その一連の行為を一瞬でやれるようになればプロですね。この写真はそれが上手く出来ているのだと思います。カメラアイというよりまさに眼差し。

若干気になったのが画面左側の壁と顔、それと床に落ちた光によって照らされている部分が若干マゼンタ被りしているのが気になりました。あとはライト周りのパープルフリンジですね。このフリンジはRIKENON 50mm F2を使ったことによるのかもしれません。和製ズミクロンと誉れ高い名玉ですが、このような非デジタル設計のレンズはRAW現像時に一工夫してあげるかレタッチでフリンジなどを取り除いてあげるとすっきりします。

フリンジの消し方は色々ありますが、一番楽なのは擬色が出ているのが問題なのでそこだけ彩度を0にしてモノクロ化してしまうというものがあります。今回私の方では作品の雰囲気を残したかったのでそこまで手を加えていませんが、以下の部分を修正しました。

・全体のパース修正
・マゼンタ被り除去
・肌の色調調整
・画面下部を少し暗めに(なるべく画面奥に視線誘導するため)
・フリンジ除去
・ノイズ追加

この中で一つ解説しておきたいのがノイズ。ノイズというとざらっとした効果を出すためと思われがちですが、立体感を出したり白飛びを目立たなくするなど様々な効果があります。ちょっと高度ですが画面全体に均等に入れるのではなく、シャドー・中間調・ハイライトそれぞれ加える値を変えるととても自然になります。

ちょっと重箱の隅をつつくような指摘をしましたが、免許皆伝おめでとうございます。本道場では初ですね。こんなかわいいお嬢様を被写体にしてずるいぞと思いつつ、今年の誕生日にはお嬢様が欲しがっていたであろうK-3 Mark IIIをプレゼントし写真の英才教育をスタートですね。お嬢様からの応募もお待ちしております!

 

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

師範より5月後半の総評

今回は実に接戦でした。今回選んだ3作品以外にもなかなか面白いものがあり、結局丸2日応募作品とにらめっこしておりました。おそらく前半の作品講評を踏まえて挑戦してきているだろうなと思う作品、皆さんの試行錯誤がすごく伝わってきました。
数枚の中から一枚を選ばないといけなくなった時なにを判断基準とするかというと、それは皆さんが書いてくださっているコメントです。写真から作者の想いを100%汲み取るのはなかなか難しいもの。個展会場などで作品説明が書いてあるのをご覧になったことはあると存じますが、いわゆるステートメントというものです。写真の中身も重要ですが、同じくらい作者の言葉であるステートメントは重要なのです。なかには最後にさらっと書いている方もいらっしゃるかもしれませんが、写真がよくてもコメントを読んで選外になることは少なくありません。Exifデータを詳しく見るのも、作者の声だと思っているからです。写真も大事ですが、その写真ができるに至ったプロセスも重要視しているので言葉の重要性をもう一度考えてみて下さい。

 

記念品のお届けについて

阿部史日呼さん、免許皆伝おめでとうございます!「免許皆伝看板」「免許皆伝ミニ木札」をお贈りします!

capriさん、Awajishimanさんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!

記念品は6月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

リコーフォトアカデミーについて
そんな新納翔師範が講師を務める、リコーフォトアカデミー2021年度ゼミナール(東京校)も現在募集中です。
6月からの9か月間、一緒に学びませんか?

その他の投稿作品をご紹介

最後に、5月後半のお題の投稿作品の一部をご紹介させていただきます。
こちらは師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んで掲載しております。

〔クリックで写真が大きくなります〕

以降のお題へのご投稿もお待ちしています!

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