7月のお題は…『スクウェア写真で切り取ろうーアスペクト比再考』

新納翔 師範

作品を制作する時にアスペクト比を考えるのも作者の意図です。自分のカメラが2:3だからといって作品は3:4にしても良いわけです。私は街によって最適なアスペクト比があると考えて都市風景を撮影しております。皆さんにも自分の写真はどのアスペクト比が合っているのか、一度原点に振り返って考えてもらいたく、今回のお題はスクウェア縛りにします。いわゆるハッセルなどの66写真ですが、これはかなりの構図力も要求されるとても難しいフォーマットです。

ちなみに撮影済みのものをなんとなく正方形に切ってもだいたいは良くなりません。スクウェア写真は撮影段階から意識しないと画面内の構成が崩れやすいのです。そのことを意識してみるといいでしょう。

新納翔 師範からの7月のお題は『スクウェア写真で切り取ろうーアスペクト比再考』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

7月の挑戦者その4:冬金剛さん

真夏の太陽が視界を白く遮る。
横断歩道には空の青が灼きつけられていることに気づいた。

冬金剛
埼玉県在住、男性。会社員。PENTAX KPで気になる被写体を撮影しています。PENTAX KPとPENTAX-DA 18-135mmF3.5-5.6ED AL[IF] DC WRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

なにかのイラストのような作品、一体何の写真なのかなとよく見てみると横断歩道に落ちた影。写真の内容とコメントにある「横断歩道には空の青が灼きつけられている」という作者の思いがマッチしていて好感が持てます。空の青が灼きつく、いい表現ですね。ちょうど信号機の影がアルファベットのEの形になっていて、画面中の影もアルファベットに見えてきます。そういう見方をするとこの写真が一つのロゴのようにも見える面白さがある作品です。作者がそういう風に感じているかは分かりませんが、そういう見方もできる一枚ですね。

写真の教科書通りにいけば、白飛びは避けよう・忠実に色再現しようとなるのでしょうが、写真表現として自由に自分の感じたままの世界観で写真を作品にしているのはとてもいい事だと思います。丁寧に白飛びに気をつけ階調豊かなファインプリントもあれば、作者の意図を反映することを目的としたプリントも同様に価値あるものです。

今回のお題「スクウェア写真」にする為に欠かせないトリミング、これこそがセンスの見せ所。どう切ったら一番よく見えるか、トリミングの上手さというのは画面構成のセンスに直結するので、結局撮影時にファインダーを覗いて構図を決める感性にもリンクするのです。特にスクウェア写真はそれが如実に出ます。

一朝一夕にそのセンスを磨くのは難しいですが、ポイントとしてこの一枚において何が主題なのか、何を一番見せたい(伝えたい)のかという事を自分なりに考えることです。やはりここはアスファルトに落ちた「影」ですよね。となると全体として左下に寄っていて右上の方(手書きコメント参照)に無駄なスペースが生まれてしまっています。このせいでちょっと間延びした印象を与えてしまっているのが減点。ここはもっとトリミングを詰めたかったです。毎日写真を見る!それしか上達方法はありませんので撮りつつも、もっと自分の写真に向き合う時間を増やしましょう。

レタッチ参考例に関しては、もう少し爽やかな青にふってもいいかなと思いました。また、ノイズを少し加えることで白飛びしている部分が気にならなくなる効果もあります。ノイズは写真の素敵なスパイス、使いこなすと写真に深みが増しますよ。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

7月の挑戦者その5:あきやんさん

宮中献上米田植祭の一コマです。
地元ケーブルテレビの撮影風景と少々緊張した早乙女を撮影しました。

あきやん
長崎県在住、男性。写真を趣味として8年ほどになります。日々是精進の毎日です。PENTAX K-1 Mark IIとHD PENTAX-D FA 28-105mm F3.5-5.6ED DC WRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

宮中献上米田植祭というのは明治25年から続く歴史ある伝統行事なのですね。長崎県松浦市のサイトを覗いてみました。この手の写真は下手をするとただの記録写真になってしまいがちですが、画面に写っている人たちの表情が面白くとてもいい瞬間を捉えた作品になっています。画面中央の緑の法被を着たおじさんの神妙な顔、画面手前には結構人がいるのでしょうか、田植えを披露する女性たちはちょっと緊張した面持ちでいます。奥の方では笑ったり、行事の流れを確認しているのかスマートフォンを見ている人がいたりとチグハグな感じがこの作品の面白みになっています。

このままでもいいのですが、より作品らしくするためには一工夫することで印象がだいぶ変わってきます。このトリミングは右の女性と左のカメラマンを切らないギリギリでカットされていますが、レタッチ例のようにもっと思い切った構図の方がその場の臨場感が出ます。カメラマンにしても一部分だけ写っていれば見る側には十分にその状況が伝わるので全てを入れる必要はありません。むしろちょっと見る側に想像の余地を残すくらいのほうがちょうどいいです。こうトリミングすることで、画面中央にいた緑法被のおじさんの位置もずれてより女性の方に視線が行きます。最初のままだとこのおじさんの存在感が強く、主題がぼやけてしまっているのです。こうすることで記録写真から作品へとよりシフトすることができるのです。

それと画面左下に草が前ボケとなっているのですが、ここはf11ではなく6.3くらいにした方が自然なボケになって良かったと思います。一番手前の女性を見るに、真ん中の女性の距離にピントを持ってくるべきでした。被写界深度は手前に1奥に2の割合です、ピントの位置は作意が表れるので慎重に決めましょう。

画面全体に緊張感を持たせるためにと、水田の部分をやや暗くし女性たちが着ている赤がやや彩度高めだったので下げました。あとは魔法のスパイス、ノイズですね。Photoshopでノイズを入れる場合はガウス分布で多くても5%を目安に調整しましょう。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

7月の挑戦者その6:にたばるさん

「2021年7月 朝」
すっかり、乾いている。

にたばる
滋賀県在住、男性。酷暑ですがよろしくお願いいたします。PENTAX K-1とsmc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limitedで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

ここまでマスクが写真の中に登場するのも後にも先にも今だけでしょう。くたびれたハンガーにかかったくたびれたマスク。作者の心中がこの一枚に凝縮されているように感じました。今しか撮れないスクウェア写真かもしれませんね。

画面内にしめるシャドーなどの余白の効果として、それ自体の形状が幾何学的で面白い、または主題の存在を強調させる引き立て役になるなど様々。うまく使えば作品の重厚感を増す働きもありますが、そのバランスはちょっと難しいところがあります。

この作品は左の窓から朝日が差し込んで来て、洗濯したマスクに陽が当たっているわけですが、ここまでシャドー部が多いと引き立て役というよりもはや主役にさえ見えてしまいます。この闇の中になにか見せたいものがあるのか、伝えたいものがあるのか・・・。単純な話、シャドー部の面積が占める割合が多すぎるのです。ここはスクウェアらしく日の丸構図にするくらいの方が良かったと思います。

見る側からすれば写っている範囲以上のことはうかがい知れません。それを匂わすのも写真の面白さですが、あまりにヒントがないとただの意地悪になってしまいます。このようにアシメントリーでいくのなら、もう少しカメラを左に振って窓を大きく写してもよかったのでは。それとパット見では分かりづらいですが、白と黒の2つのマスクがあるのでそれを対比させるような光の当たり具合で撮っても面白みが出たかと思いました。

これはとても細かい指摘ですが、画面左上に写っている白いサッシ?があるせいで外への広がりが止まってしまっています。些細なことですが、ここをカットすると暗い部屋から外へ広がっていく感じをだせるでしょう。

あとは色味ですね。カラー写真の色味は作家の個性です。写真を見ただけでこれはにたばるさんの作品だと分かる自分だけのカラーを模索してください。毎回投稿されている作品にはまだばらつきがあります。そういう点で今回のレタッチ例は私好みの色でレタッチさせて頂きました。自分の色はレタッチ→プリントアウトの繰り返しで完成していくものです。私は自分の色を見つけるのに5.6年かかりました。是非いい意味で悪戦苦闘してみてください。次作も楽しみにしております。

〔新納翔師範によるレタッチ見本〕

 

師範より7月の総評

今回のお題「スクウェア写真で切り撮ろう」は、正方形の写真を作るというより元の写真からいかにトリミングをするかという点を見るのが私の中での裏テーマでした。講評内でも少し触れましたが、すでに撮影した写真をうまくトリミングできるということはその人の美的センスに直結します。それゆえトリミングの上手い人というのは、構図に対して優れた感性を持っているので結局撮影時の構図のまとめ方も上手いのです。

考えてみれば撮影行為は自然界から一部分をトリミングする行為。トリミングを鍛えることは写真スキルの向上とイコールなのです。

最近の応募作品を見ていて思うのは、既存のこうあるべきだという概念に縛られている人が多いことです。デジタル写真は自分で編集できる幅が広いので、もっと自由な発想で自分がいいと思うものを素直に出すことの重要さを再確認しましょう。見せる側のことを考えるのはもっと先でもいいです。「どうだ!」と思う自分ならではの作品を期待しております。

記念品のお届けについて

冬金剛さんには「免許中伝ミニ木札」、あきやんさん、にたばるさんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!

記念品は8月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

その他の投稿作品をご紹介

最後に、7月後半のお題の投稿作品の一部をご紹介させていただきます。
こちらは師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んで掲載しております。

〔クリックで写真が大きくなります〕

以降のお題へのご投稿もお待ちしています!

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