3月のお題は…『トタンのある風景』
街中でトタンを見ると、なんだかとても懐かしい気持ちになります。子供の頃1980年の中頃、実家の近所にトタン作りの長屋がありました。そんなこともあって自分の中で勝手にトタン=昭和ノスタルジーを感じるのですが、皆さんはどうでしょうか。
トタンを入れた風景がお題です。
さてトタンをどう料理しますか?
新納翔 師範からの3月のお題は『トタンのある風景』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。
3月の挑戦者その4:momocoさん(他流挑戦者)
宿のオーナーが発酵食をつくる作業小屋。
あの帳をあけたらきっと馥郁とした香りが外にまで漂うのだろうな。。。
トタンの面積は小さいけど惹かれました。
埼玉県在住、女性。繋ぐをテーマに撮っています。OLYMPUS OM-D E-M1とM.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PROで撮影。
師範の判定結果は・・・
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もう一歩!
宿のオーナーが発酵食をつくる作業小屋とのコメントなので、旅先での一枚でしょうか。味わいのある渋くて良い作品です。なんでも無いような日常の風景なのですが、それだからどこか惹かれるものがありますね。写真というものは何でもない景色に各々が美を感じて切り撮るからこそ、撮影者の個性が出るのです。そういう感性を常に大切にしたいですね。
ただ、画面構成にもうひと工夫欲しかったのが正直なところ。最初に気になったのは二点。雪とトタン板のある小屋が主題、画面左端のブルーシートからはみ出した「白」が見る側の視線を邪魔しています。それと小屋のある画面奥へと視線が誘導されるべき写真なのに、手前の面積が多すぎます。こういった所をトリミングでカットするだけで、メインの見せたいモノ=撮影時に惹かれたモノが明確になります。もちろん撮影時にそれができているのがベストなのは言うまでもありませんが、それはなかなか難しい話ですので編集によってより良くする構図力を身につけましょう。
色調に関していえば、雪の白はメリハリが欲しいです。奥の林は緑のトーンを出してあげることで画面全体が引き締まります。このような全体的に色の少ない写真は、少しRGBのどれかを出してあげることで格段に良くなるものです。レタッチ例では少ししか緑の彩度をあげていませんが、結構印象が違って見えると思います。
ノイズなどもそうですが、細かいスパイス的なものを細部に効かせることで最終的な出来がぐっと良くなります。モニタでは分からなくてもプリントするとその違いがよりはっきりとします。その為にPhotoshopが使えるようになると、調整できる幅が段違いに広がるので作品に奥行きがでてくるわけです。敷居が高いように思われがちなPhotoshopですが、覚えることって意外にも少ないのですよね。それを道場で教えることができないか、現在模索しております。
トタンのある風景として、とても味のあるいい写真でした。あとは細かいところをブラッシュアップすれば免許皆伝ですね。次作も期待しております。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
3月の挑戦者その5:あしろさん
いつも気になる手作り家具のお店、新興住宅街、大通り近くなので目に飛び込んでくると
そこだけ異世界にあるような錯覚もおぼえます。春色のコラボに惹かれました。
奈良県在住、女性。2児の母兼会社員。普段はK-S2を使用しています。育児家事仕事優先の生活なのでその隙間でいかに「発見!アンテナ」を伸ばすことが出来るかを修行中です。PENTAX K-S2とsmc PENTAX-DA 40mmF2.8 XSで撮影。
師範の判定結果は・・・
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もう一歩!
黄色のトタン、ハンカチーフじゃないですが春先を見据えて良いことがありそうな色ですね。手前の菜の花と黄色のコラボレーションが効いています。止まっているミニバンのナンバープレートも黄色と画面内に黄色があちこちに配置されていて、とてもいいシーンを切り撮っていると思います。
でも残念ながら、撮り切れていない。その瞬間に出くわしているなら、もっと良い写真が撮れたはずです。構図からも菜の花を前ボケにして奥のトタンとの対比を狙っていると思うのですが、空が広すぎて散漫なイメージになっています。これはローアングルから撮ることによって解決できたでしょう。レンズの位置が低くなれば菜の花はもっと画面の上まで入り、空とのバランスも良くなったと思います。
またf13まで絞ったことにより、前ボケの菜の花が主張しすぎて画面内でうるさい存在になってしまっています。ここはもう少し開けて、F5.6位で撮っていれば印象は変わっていたでしょう。APS-Cならなおのことそこまで絞る必要はないと思います。
フルサイズの方が何事も上というわけではありません。ストリートスナップなど咄嗟に撮るような時は、被写界深度が稼げるAPS-Cの方が向いているシチュエーションもあります。機材は目的をはっきり決めて初めてその人の最適解が出るものです。
レタッチ例ではPhotoshopで擬似的にボカしてみたので参考にしてみてください。前ボケは効果的に使わないと実に危険なのです。そういった意味で常日頃から、レンズの焦点距離、被写体との距離と絞り値によってどれくらいのボケ量になるのか意識してみるといいでしょう。やはり日頃から撮っていないと、いざという時にチャンスを逃してしまいます。
ボケ量だけでなくISO感度など、いくらまで自分の許容範囲なのか、自分の使っているカメラはどういう特徴なのかをしっかり理解すること、それがカメラに使われない秘訣です。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
3月の挑戦者その6:Melyukiinaさん
街を歩いていると、よく出会うのはトタンと電線と標識がセットです。
愛知県在住、男性。中学で星が好きになりRICOH XR500を手にしてマニュアル撮影デビュー。PENTAX望遠鏡は天文雑誌などで憧れブランド。いまはデジタル一眼K20D,K-5,K-1と乗り継ぎTHETAも手にしたRICOH-PENTAX育ち。K-1縦グリップ付きで85mmを付けて街歩きをしていると プロのカメラマンが来てると間違えられてよく話しかけられます。 それも街歩きの楽しみの一つです。PENTAX K-1とHD PENTAX D FA★85mmF1.4ED SDM AWで撮影。
師範の判定結果は・・・
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もう一歩!
トタンのある風景ということで、一部分をクローズアップするなど皆様工夫されているなか、一番王道のトタン写真のように感じました。トタンは月日とともに劣化し様々な表情を見せます。さらにその形状から、一日のうちでも光の当たり方によって様々に変化するのが面白いところ。このカットも、建物の左側面がシャドーになりトタンが一番映えるタイミングだったのでしょう。都市風景は静物でありながら、シャッターチャンスって結構限られているのですよね。
交通信号の重なりも面白く、後ろのトタンとあわせて味のある作品になっていると思います。矢印をレタッチで出そうとしたように見えますが、こういうのはカラー写真では特に不自然になるのでそのままの方がいいと思います。
どういうレタッチをしたのか、元データを見ていないので憶測で申し上げることしかできないのですが、ちょっとノイズとシャープネスの量が多く、きつい印象を受けました。スパイスはあくまで気付かない程度入れるのがポイントです。建物がやや上すぼみなので直してあげるとスッキリします。
他の投稿写真も見ての話なのですが、自分がどういう方向にレタッチするのかがいまいち定まっていない印象があります。講座などでよく見かけるのが、なんとなく色調補正などのスライダーを動かして、いいかなと思ったところで仕上げるというパターン。これでは複数の写真があった場合、統一感が出ません。私がレタッチについて教える時に口を酸っぱくして言うのが「レタッチを始める前に完成予想図を作る」ことです。
そうすれば写真を見るだけで、この色調はMelyukiinaさんのものかしら・・・と思うものです。つまりはそれが作品におけるオリジナリティになるのです。
自分がどういうテイストに仕上げたいかを一度じっくりと考えてみてください。そうすれば作品が数段良くなるのは間違いなしです。
〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕
※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます
師範より3月後半の総評
良い作品かどうかというのは、そこに撮り手の「思想」が感じられるかだと思っております。どういう想いで撮ったのか、この人は何を表現したくてシャッターを切ったのか、そういう事が伝わってくる写真は見ていて惹かれるものがあります。何となく撮った写真というのは、どこからかそれが伝わって来るのです。
つまり自分の写真をしっかりと言語化できるかどうかという問題なのです。今回トタンという被写体が課題でしたが、そこにどれだけ自分の思想を投影できたかがポイントになったわけです。
次の課題は「コンビニ」のある風景。当然ただ撮っただけでは絵になりにくいし、結構難しいと思います。まずは何を表現したいのかを考えることです。
記念品は4月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。
惜しくも選外となった、最終選考ノミネート作品をご紹介
今回惜しくも、最終段階で選ばれなかった作品の一部です。
残念ながら選外となりましたが、まだまだ後半戦がありますので、リベンジお待ちしております!
〔クリックで写真が大きくなります〕
以降のお題へのご投稿もお待ちしています!