4月のお題は…『気配を撮ろう』

新納翔 師範

人を撮るのに必ずしも人が写っている必要はありません。誰も写っていないからこそ、人の存在を感じる写真もあります。写真家・中野正貴さんの作品「TOKYO NOBODY」はとてもいい例です。今回は、そういった「人の気配」を写真に写し込んでください。お題のポイントとしては人物が写っていないこと、それでいてその写真から人の存在が見る側に伝わってくること。作品のクオリティに加え、その点を審査基準とします。皆さんがどういう工夫をこらすか、またはストレートに来るか、楽しみにしております。

 

 

新納翔 師範からの4月のお題は『気配を撮ろう』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

4月の挑戦者その1:HEXADDさん

佐賀県まで三重の鳥居を撮りに行った際に目的地の近くにあった埠頭です。
潮が満ちて沖に行くほど沈んでいく様が面白く撮ろうとしたのですが、ふと人の気配を感じた気がして
振り向くと本当に後ろに別のカメラマンがいました。
少しそのカメラマンと話していると先程撮っていた沖の方から再び気配を感じたので振り返ると
いよいよ沈みゆく埠頭が何か言いたげな表情をしたので撮りました。
そんなわけでこの写真を気配を感じる写真として投稿いたします。

HEXADD
大阪府在住、男性。最近子供が産まれて丸くなった(体型も)親父です。PENTAX K-1とSIGMA DG24mm f1.8 macroで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

三重県にこんな場所があるのですね、最初見た時千葉にある江川海岸かと思いました。私はどちらも行ったことがないのですが、素晴らしい被写体と出会う、見つけることは写真家の重要な才能の一つだと思っています。どんよりした空、打ち寄せる波、印象的ですね。まさに冬の景色。

実際の色調はその場にいたHEXADDさんしか分かり得ないことですが、その場で感じた心象風景をレタッチで表現されているのだと思います。これはとてもいい色ですね。ただ画面下の覆い焼きはちょっとやりすぎ感があります。うまいレタッチほどとても細かくやっているのに、調和が見事に取れていて言われないと気づかないものです。

それと水平ですね。こういったランドスケープの作品はちょっとでも地平線の水平が取れていないと、見る側にとって違和感になってしまいます。Photoshopで調べたところ0.3度傾いていました。0.3なんて僅かなものに思えますが、これがとても大きいのです。

私はステートメントによって自分の見方が左右されないように、最初は読まないで作品と向き合うように見るのですが旅先で思わぬ出会いがあったようですね。コメントに書かれている埠頭の「何か言いたげな表情」というのが十分表現されているか、もう一度写真を見つめ直して下さい。

何か足りないと書いたのは、この写真だとよく見る埠頭の写真になってしまっている点なのです。誰がどう見てもHEXADDさんの作品だ、と言えるレベルにはなっていません。それを見つけるのは大変なことですが、もし見つけることができたら飛躍的に写真がよくなるでしょう。

4月の挑戦者その2:にたばるさん

「空席 2020」
そのうち誰かが座るだろう。

にたばる
滋賀県在住、男性。City Scape、とても興味ひかれます。よろしくお願いします。PENTAX K-1 とCarl Zeiss Makro Planar T*2/50 ZKで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

さりげない電車の中で見つけた美しい瞬間。グラフィカルで美しい作品ですね。座席シートとカーテンの色が絶妙にマッチしていて都会の中の静けさを感じます。こういうカットは簡単に撮れそうでいて意外と難しいもの、常にアンテナをはっているからこそ撮れるものですね。

カーテンに落ちた窓枠の影、そして白っぽい染みのようなものからそこはかとなく人の気配を感じます。そういう点では今回のお題「気配を撮る」を見事クリアしているように思います。

しかしちょっと画面整理の点で詰めが甘い印象が否めません。グラフィカルというのは言い換えれば、幾何学的な直線の織りなす美。緑のカーテンに対し、平行四辺形のような日差しに照らされた赤い座席。この座席シートの両端をカットするのはちょっと面白くないように思います。途中でカットするからこそ画面外への広がりを出すことが出来る一方、同時に曖昧さが残ります。ここはどちらか一方は画面内に収めるべきかと思います。さらにいえば、画面右の隣の窓枠がかすかに見えるのでもうちょっとだけ引いて右端を入れるべきだったかなぁと。現場を見ていないのであくまで想像ですが。

注意しなくてはいけないのは、そういう事をファインダー内で考えながら撮ることではなく、無意識に行えるまで繰り返し撮ることであるということです。考えて作った構図というのは、えてしてわざとらしさが出てしまうものです。

お題はクリアしていましたが、総合的に詰めの甘さから免許中伝としました。次回作も期待しております、頑張って下さい!

 

いつもいいところを撮影していると思うのだけれど、構図的に甘いものも目立つので、完成度を高めることを意識してより厳しく突き詰めていくといいと思うな。

4月の挑戦者その3:Melyukiinaさん

山側にある公園の大きな池のある近くにある公衆電話。
公衆電話も見かけなくなりましたが、緊急時には役立つこともあり災害時用に残っているそうです。
夜、公衆電話が鳴り響く、ボックスにも気配を感じますが、
ボックスのその電話のその先に人の気配を感じました。
そう、人影のない夜の池のほとりの公衆電話がリンリンと鳴り響く。

Melyukiina
愛知県在住、男性。中学で星が好きになりRICOH XR500を手にしてマニュアル撮影デビュー。PENTAX望遠鏡は天文雑誌などで憧れのブランド。残念ながら望遠鏡はスリービーチ社製の安いので手動追尾。押し入れでモノクロ現像を趣味にした幼少のころ。いまはデジタル一眼K20D、K-5、K-1と乗り継ぎ。THETAも手にしたRICOH-PENTAXに育ち、現在に至る。PENTAX K-1とHD PENTAX D FA★85mmF1.4ED SDM AWで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

最近はスマートフォンのせいもあって公衆電話がどんどん無くなっていくのを感じます。この写真はただ電話ボックスを撮っただけといえばそれまでなのですが、どこか哀愁を感じてしまうのはそういう時代背景が写し込まれているように感じるからかもしれません。

きっとかつては毎日色々な人がこの狭い空間に出入りし、遠くの誰かと会話したのでしょう。公衆電話がある風景を撮れるのも今のうちだけかもしれないと思い、この作品を採用しました。写真はどんなアート作品であっても、そもそもが持つ記録性から離れることはできません。上達のために写真を撮ることも大事ですが、今までどんなものを撮ってきたのか、そこには何が写っているのか見返す作業も重要です。

電話ボックスの電灯のハレーションを見ておやと思い、Exifデータを見てみたのですが、85のイチヨン開放での撮影でした。どの作品にも言えることですが、プリントを意識しているかどうかで作品の最終的な出来に違いが出てきます。モニター上では気にならないこともいざ紙にプリントアウトしてみるととても気になることはよくある事です。

逆にいえば、プリントのことを考えるとこれはもう少し絞って撮ろう、そのためには三脚を使って撮る必要があるということに気付くのです。プリントから得られるフィードバックはとても大きいものです。プリント自体も重要ですが、撮影自体の向上にもなるわけです。

最後に、同じ場所同じ時間帯でこの撮り方がベストなのかもう一度チャレンジしてみてください。カメラの高さ、もう少し左から・・・色々試行錯誤するとベストチョイスが生まれるように思います。

 

記念品のお届けについて

にたばるさんには「免許中伝ミニ木札」、HEXADDさん、Melyukiinaさんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!

記念品は5月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

その他の投稿作品をご紹介

最後に、4月前半のお題の投稿作品の一部をご紹介させていただきます。
こちらは師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んで掲載しております。

〔クリックで写真が大きくなります〕

以降のお題へのご投稿もお待ちしています!

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