カメラを持って出掛けると、なんでもない日常が、光の輪郭をもって浮かび上がる。

さぁ、今日もカメラを持って出掛けよう。

 

第11回「青春の写真部」

時々、子供を連れて写真散歩に出掛けます。そうすると、なんだか昔の事を思い出したりする事が。

 

良く晴れた放課後、桜は散ってしまったけれど始まったばかりの高校生活は新緑がまぶしい春のまま。写真部の部室では、先輩がパトローネを手に持ちスプールの頭をポンっと、まるで手品でも教えるみたいにフィルム現像の手順を説明してくれました。フィルム現像~暗室プリント。何もかもやった事のない事だったけど、不思議と違和感なく自分の中に入っていきました。

そうなんです、私の写真人生の始まりは、高校の写真部からなのです。運動音痴の私が選んだ部活、それが写真部だったのです。

 

 

写真が趣味になり、勉強が出来ない私にとっては、将来の選択肢のひとつとなっていきました。とは言え、小さな地方都市にはカメラや機材を買える大きな写真屋さんも、海外の写真集を置いているような大きな書店もありません。近所の写真屋さんでフィルムや現像液を買い、駅下の小さな書店で写真雑誌を立ち読みしながら写真を勉強しました。

 

当時、その小さな書店にあった写真雑誌は、王道である「日本カメラ」に「アサヒカメラ」、「カメラ毎日」、写真小僧御用達の「CAPA」、現代写真を紹介する「PHOTO JAPON」でした。その中で最も魅かれたのは、「PHOTO JAPON」。この雑誌でJONVELLEの女性ポートレートを知り、好きになりました。とにかく、田舎者の林少年にとっては、都会的でアートな感じがおしゃれでカッコ良かったんです!アートとか何もわからなかったけど、いつか自分もこの雑誌に掲載される様な有名な写真家になりたいと思っていました。

 

 

写真部と言えば、大人になってから飲み会等でお互い写真部である事がわかると、まずは初めて買ったカメラの話から始まります。私の場合は、キヤノンのAE-1 プログラム。相手がニコンのF2だと「これはこれは先輩殿!」、ミノルタα-7だと「若いな後輩君!」、ペンタックス LXだと「いいカメラだったね同輩!」という感じで、どの世代でも盛り上がれる事間違いなしなんです。共通の趣味っていいですよね。

 

 

私には「写真」があって、本当に幸せです。学生時代に夢見た有名写真家にはなれてないけど、ギャラリーを主宰して写真展を企画したり、撮影の仕事をしたり、こうして文章も書かせてもらったりと、ありがたいなぁと思います。その全ては写真部から始まった「写真」で繋がった人達のおかげです。

 

 

自分に、何かがあるって、それだけで幸せなんですよね。写真でなくても、絵やスポーツ、お料理等々。有名とか儲かるとかは後の話。何かあるから、人と繋がれる。世界が広がる。今持っている物を大切に。

 

林 和美さんの『カメラは感動増幅機』のその他の記事はこちら

第1回「さて何を撮ろう?」

第2回 「今日の獲物」

第3回「残したいもの」

第4回「切取りの美学」

第5回「旅写真のコツ?」

第6回「雨の日は、」

第7回「写真を学ぶ」

第8回「写真の意味?」

第9回「ギャラリーってどんなとこ?」

第10回「路上が教えてくれた事」